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明日、目が覚めたら・・・  作者: ふじい やたく
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 変わらぬ風景と・・・

 


 

 「何してんの? 早く入りなよ」

 

 「うわ!びっくりした!」

 

 「はぁあ!? びっくりしたのはこっちだから! あっ! コーラだ!! さっすが!」


 部屋に入ろうとした瞬間にマナミがドアを開け上機嫌におぼんから飲み物を取り、一口飲んでテーブルまで軽やかに戻っていく。

 奏間は早速部屋にあるゲーム機のスイッチを入れ、小さな画面に青い光が浮かび上がる。


 「DOAやろーぜー! 今日もタクをフルボっこだぜ!」

 

 「はぁあ!? いつも僕が一勝勝ちだろ!」

 

 「いやいや! 俺の勝ちだから!」

 

 他愛のない話をしながら僕もテーブルにコップを置き奏間の隣に腰を下ろした。

 

 「はいはい。二人はあたしより弱いでしょ!」

 

 マナミが「うっしし」と笑いながら二人の間にちょこんと座った。

  

 「うりゃ!」


 「あっ! 今の卑怯じゃね!」

 

 「闘いに卑怯もクソもあるか!」

 

 「……ぜってー泣かしてやる!」


 それから何回戦かゲームを続け、この場にいる三人が白熱し最後はマナミにボコボコに負けるまでゲームは続いた。

 

 「……タク……今度こそマナミに勝とうな……」

 

 「ああ……お互いにな……」

 

 奏間と僕は二人仲良く仰向けに寝転び『負け』の劣等感に浸りながら互いに拳を合わせた。

 

 「あっははー! やっぱりあたしの勝ちー!」


 満足げにうなずき、僕らの間に手を大きく広げ仰向きにマナミが寝ころがる。「うげ!」と奏間の悲鳴が聞こえたから、きっと当たりどころが悪かったのだろう。いつものことだ。

 隣だ寝転んでいる二人を眺めながら、やっぱり二人は自分にとって大切な存在なんだと実感した。それと同時にさっき感じた醜い感情がまた顔を出すが、僕はそんな感情は無かったかの様に「ふふ」と笑った。

 

 「なになに~?」

 

 マナミも笑顔で僕に問いかける。


 「いや、別に! ……ふふ――」

 

 奏間とマナミが起き上がり顔を見合わせ二人も笑っていた。そんな二人を見ていたらなんだか暖かい気持ちになり、ただただ今の自分の環境、交友関係に満足している自分がいると思った。


 

 それからは互いに別にやる事もなく、お互いにこの空間、この部屋で好きな事を好きな時間だけ時を過ごす。これが僕、高橋匠の今の日常だ。

 マナミはベッドにちょこんと座り漫画の続きを読み、奏間はパソコンで僕の知らない洋楽をかけ流しながら買ってきた雑誌を読んでいる。僕もその隣に座りながら朝の読書タイムの小説の続きを読んでいる。


 それにしても、音楽は本当に素晴らしい。部屋に響いている、言葉も意味も分からない音楽を聴きながらふとそう思った。パソコンから透き通る優しい女の人の歌声が僕の耳に入り、心の奥を突き抜けて全身に廻る血液に浸透するように体を暖かくした。

 

 小説に集中出来なくなり、本をそっと閉じて僕は目を閉じてパソコンから流れてくるその声に耳を澄ました。

 

 「あっ、ごめん。 うるさかった?」

 

 「ううん。このままで」

 

 奏間が慌ててボリュームを落とそうとするが、僕はその手をそっと止めた。

 

 「いい曲だね」

 

 いつの間にかマナミも漫画から手を離し、僕たち三人はその声にみんな耳を傾けた。

   

 『言葉だけが言葉になるわけじゃない』そんな言葉がふと頭に浮かんだ。あーそうか。きっとこの人は声を出してるわけでも言葉を話してるわけじゃない。きっと『感情』を乗せて僕たちに伝えてるんだ。そんなことをふと思った。

 

 なんで自分はこんなにちっぽけな存在で他愛のないことで悩んでいるのだろう。何が怖いのだろう。まだまだこれから何にでもなれるさと自分を励まし、前を向ける強さをもらったのと同時に少しだけ何にとも言いがたい寂しさも感じた。


 「そういえばさ……」

 

 マナミが曲が終わったと同時くらいにふと口を開いた。

 

 「シオちゃん……栞さんってどこかで見たことある気がするんだよね」

 

 「どこかってどこで?」

 

 「う~ん……思い出せないけど、最近何かで見た人に似てるっていうか・・・」

 

 「芸能人とか?」

 

 「う~ん……そんなかんじかなぁ~?」

 

 なんとなく歯切れの悪い感覚でマナミが頭をひねっている。

 

 「あんな美人、芸能人に似てる人の一人や二人いてもおかしくないだろ?」 


 奏間がパソコンで新しい曲を検索しながらマナミに言葉をかける。


 「えー! 絶対見たことあるもん!」

 

 ふくれっつらのマナミが奏間に反論した。 

 

 そう……だよね。栞さんってやっぱり美人だよね。なのに、なんでその人が僕に……。

 考えても答えなど見つかりはしない問題に僕はまた顔を向ける。


 あの時の『覚えてないの?』とはどういう意味があるのだろう。答えは一つだ。僕と彼女は過去に一度は会った事がある。

 相手が覚えていると言う事は何度かあっているのだろう。

 でも何故僕は覚えていないんだ? ただそのことだけが今心に突き刺さる。


 いったい僕らの過去と彼女の過去にはどれだけの交差があるのだろう……

 僕の思考が止まるのとは裏腹にまた新しい歌が終わり無く部屋に響いた。

 

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