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『 第五話 対面 』

 二匹の肉食獣が向かい合うレリーフ。牙をむいた双獣がそれぞれに別たれる。豪華な装飾のなされた重厚な扉。三メートルは優に超す巨大な扉が、二人の座った面接間のソファーの正面に静かに位置していた。


「静か……ですね」

「まぁ、煩かったら困るだろう。王宮だからな」

「そうですが、通りがすごく賑やかだったので……。やけに静かに感じて」

「初めてなんだろ? 無理もない。俺だって、心地のいい静かさだとは思わないさ」


窓から差し込む光の床を、小さな影が通り過ぎた。小さく弱く、そして遠く、数羽の鳥の鳴き声が、応接間の二人の耳へと静かに届いた。


「鳥さん、楽しそうですね」

「ネム、まだ十分も経ってないぞ。飽きただろ……お前」

「飽きては無いのですが、少し不安なんです」


少女は落ち着かなそうに体を左右に揺らす。先刻まで微笑みを湛えていた口元は、今は少しすぼみ、一転して憂いを帯びているようであった。


「心配ね、いらないさ。話は俺が付ければいい、ネムはツレってことにしておけば問題ないさ。行儀よくしていれば、何もしなくていいさ」

「そういうわけにはっ」


子供の如く扱われ、少女は少しムッとして言い返す。ただ一人、ルーシーの旅路への同行を決めた。幼い身であろうと、覚悟は決まっている。少女の抗議はそれを意味していた。トレードマークの柔らかなほっぺたがまた膨らむ。


「勇者様方、お待たせいたしました」


巨大な扉の奥から、澄んだ女性の声が響く。直後、両開きの扉が、奥へと開き始める。屈強なボディーガードを二名引き連れて、青い鳥の刺繡の入ったドレスを着た女性が現れた。両脇の男たちとほとんど変わらない程の高身長、纏う雰囲気は静かだが、鋭い目をした女性であった。首には大粒の真珠のネックレス。両の手首には宝石のあしらわれた腕輪。ピアスの細かな装飾は光を反射し、その風姿からは、一目で高位の貴族だと測ることができた。


「お待たせして申し訳ありません。勇者様は……」


女性はそこで口を閉ざす。原因は、目の前に座っている二人だった。勇者。大方のイメージは鎧にマント、腰には剣といったところだろう。が、彼らの身なりはそこからは、かなりかけ離れていた。少女が着ていたのは白のワンピース、ルーシーは陽だまり色のシャツに似たような色のズボン、加えて上から黒に近い灰色のパーカーという姿である。勇者らしくない、どころではない。町民との違いが分からないレベルであった。おまけに男の方のファッションセンスの無さもしっかり露見している。中々の酷さだ。そしてもう一点、そもそも、勇者の旅のお供がどうしてか弱い少女に務まるのだろうか。彼女にとって、目の前に座る異様な二人を、勇者の一行と認めることは非常に難しいことだった。


「えっと……間違って客人とした訳ではないのですよね?」


女性は後ろの壁に控えていた守衛、ルーシーらを案内した兵士に小声で問いかける。


「間違いありません。確かに、ポーシャ―様の蝋印のなされた封筒をお持ちでした」

「でも……、あの方々が? 本当に?」


守衛の返答に、女性は戸惑いの表情を隠せない。“見るからに”一般人である。


「勇者様、なんか怪しまれていませんか?」

「見た目が見た目だからな。仕方ないと思うけど」

「仕方ないじゃないですよ! 信じてもらえなかったらどうするんですか! ていうか、何で勇者らしい服装してこなかったのか説明してください!」

「いいだろ別に、アレ動きにくいし。てか、気づいてなかったじゃん」

「気づく訳ないじゃないですか! 目が見えないのに」


二人の側でも揉め事がはじまる。最初は小声だったが、段々と抑えが効かなくなり、平時の声で言い合い始める。王宮側もそれを見て、尚更怪しむ。こんな悪循環が生む空気が、広い応接間を圧迫するかの如く広がった。


 そんなループを解いたのは、城内部に駆け込んできた兵士の叫び声であった。


「沖合に海賊船が現れました! 数は十隻! 現在、港に接近中です!」


言い争う声がピタリと止む。女性の表情が一変する。側に居た男達にも緊張が走る。


「勇者様、私達も!」

「お前は戦えないだろ……。まぁ、信じてもらうにはいい機会か」


少女は勢いよく立ち上がる。対照的に、勇者はひどくゆったりと立ち上がった。二人は扉の方へと進む、女性と彼らの目が合った。


「それ、俺にも手伝わせてもらえます? ナリがこれですから、信じられないでしょう? 勇者だなんて。見てもらうのが早い気がするので、同行させてくださいよ」

「わ、私も行きます! 足は引っ張りませんので!」

「お前は留守番でもしていろ」

「いやです! 行きます、意地でも行きます!」


凸凹なコンビがドレスの女性に交渉する。彼女はしばし、疑るような目で彼らを見たが、二人の勢いに押し負けた。実際に見た方が早い、これには彼女も賛同できた。


「分かりました、良いでしょう。私が海軍の司令官に取り継ぎます。活躍は彼らから聞くことにしますので、海賊船団の撃退、大きな手柄を上げることを期待しますよ」


彼女は二人に自分について来るように促した。少女は威勢良く返事を返す。ルーシーの方は生返事を返す。脇のボディーガードがじろりと彼を睨んだ。だが、彼はそんなことは一切気にならないといった様子で、ゆったりと歩き出す。少女が勇者の進行方向に手を差す。彼はその手を引いて、女性の後を追いかけていった。




海賊と勇者の証明、待ち受けるのは、信か不信か。

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