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『 第三話 備えあれども、憂い有り 』

「どっさりだなぁ……これ」


馬に引かせる平均的な荷車一台が積載量MAXで草原を走っていた。


「ポーシャさん太っ腹ですよね! こんなにたくさんの道具が頂けるなんて、思ってもみませんでした!」


うんざり気味な青年とは対照的に、少女は山のような荷物に目を輝かせていた。


「いやでも……、これは過保護が過ぎるぞ? 食べ物にしたって何日分あるんだよこれ、食べきる前に腐っちまうぞ……」


一週間分の衣服、戦闘用の甲冑(ルーシーは要らないと言ったが)二人分、武器も数種類。食べ物に至っては、肉、野菜などが数日分、加えて乾物が一か月は足りそうなほどに積み込まれていた。傷薬などの薬品も完備、荷車が一種の便利箱と化していた。


「大丈夫です、食べ物は任せてください! 腐るまでに全部おいしい料理に変えちゃいますから! 調理道具もこんなに頂きましたし、完璧です」

「いや……。料理できるって言ってたけど、目見えないのにいけるのか?」

「できますとも! ネムにお任せください、勇者様が飽きないように色々な料理を作らせて頂きますから」


少女はえっへんと胸を張って言う。嘘だとも思えない位、少女の笑顔からは自信が溢れていた。方法は分からないが、きっと慣れているのだろう。目に頼らない調理に。


「あっ、火起こしだけは手伝って欲しいです……。私、あれだけは上手くいかなくて」

「いいよ、全然。つうか、手伝えることがあんなら言え。飯がまずくなるより良い」

「もーーー! 信じてないですよね、料理ホントに得意なんですよ!」


別に腕を疑っているわけではない。だが、ルーシーは皮肉屋な男であった。だから今日もこうして誤解を生むような一言が口を突いて出る。本人も自覚があった。しかし、それはもう、そういう性のようなもので、言わずにはいられなかった。


「別に疑ってないさ。ただ、見えないのに何で料理ができるのか分からないだけだよ」


相変わらずツンとした態度は引かない。


「まぁ、いいです。今晩のご飯でビックリさせてあげますから」


少女は柔らかな頬をぷっくりと膨らませて言う。しかめ面のつもりだろうが、可愛らしいだけで怖くない。ルーシーはクスリと笑ってしまった。


「なっ、何で笑うんですかーーー! 怒ってるんですよ、これ! ほっぺたを膨らませてるのは、怒ってるってことですからね!!」


ネムはルーシーに真っ赤な顔で抗議する。手をぶんぶんと振りながらの猛抗議。


「うん、なんも怖くねぇな」

「こらーーー!!!」


歳は大きく離れているというのに、その喧嘩の様子は、まるで兄妹のそれだった。

結局、ルーシーはネムが体力を使い果たすまで、面白がってからかっていた。



「なぁ、ネム」

「なんですか」


不機嫌そうな声で返事をする。少女はまだプクリと頬を膨らませたままだった。


「悪かったって、からかったのは」

「だから、もう良いって言ってるじゃないですか」


いや……、と言いかけた口を紡ぐ。さすがのルーシーもこれ以上、地雷を踏みに行くのは留まった。


「ポーシャから話、聞いてる?」


強引に話題を捻じ込む。今はあながち間違いと言えない判断だった。


「どんな話ですか? 危険性とかはすごく丁寧に説明してもらいましたが……」

「これから通っていく旅路について。魔王のトコに着くまでに経由する街のこと、何か聞いているか?」

「……? 全然です。勇者様は?」


少女の声のトーンは平常時に戻っていた。ルーシーはしめたとばかりに語り掛ける。


「ざっくりとだけ。概要は着く前に教えてやるよ。ただ……、かなり問題があってな」

「問題、ですか」

「そ。簡単に言うと、ほっとくとヤバい化け物が出る街があって、俺達はそこを巡れってことらしいぞ」

「ヤバい化け物……? どんな魔物なんでしょうか?」

「厄獣って言うのが出る。放っておけば、一晩で都市が壊滅。魔王には及ばずとも、とんでもない脅威だろうな」

「……っ」


少女の動きが一瞬強張る。


「それと、戦わなきゃいけないということですよね……」

「まぁ、そうなるな。姉さんが予知で見たらしいから、出現は確定らしいけど、怖いか?」


数秒、沈黙が流れる。少女はどう答えるべきか悩んでいるようだった。


「はい……。怖いです。怖いけど、逃げたりしません。勇者様が戦うなら、私も戦います」

素直で強い、キッパリとした答えだった。

「そっか」


少女の覚悟に、ルーシーはこれ以上の言葉を返せなかった。


「巡るのは四つ。倒すのも四体。魔王までの試練には丁度いいのかもな」

場をつなぐ言葉すら思い浮かばず、ふと思ったことをそのままに口にした。

「勇者様、勇者様は怖くないのですか?」


いつの間にか、隣の少女は小さな背を震わせていた。声に自信の陰りがみえた。


「うーん、あんまり怖くはないなぁ。相手がただの化け物なら怖くない。汚い手でも何でも使えば、なんとかなるだろうさ」

「……強いのですね。勇者様は。私は死ぬことも、痛いことをされるのも、とっても、とっても怖いです……。怖い……です」

「強いわけじゃない。怖いって感覚がマヒしているだけ。正常なのはネムの方だよ」

「でも、正常でも、臆病な私では、勇者様の足を引っ張って……」


少女の小さい体は、余計小さくなって見えた。


「意味があるのさ。多分、それにも。……万能の魔女が引き合わせてくれた。間違っている訳がない」

ルーシーの胸には確信があった。間違いじゃない。この差にも、このコントラストには、必ず意味がある。憎まれ口は叩けども、彼が世界一信用できる人物は、ポーシャに他ならなかった。



「沈んだ話はもう終わりだ。最初の国の話をしてやる。最初の国は『アルゴー』。豊かな水産資源と広大な土地での農耕で繁栄している海洋都市だ」




潮騒の音は、未だ、遥か遠く。

一抹の不安を載せて、旅路は、彼方へと続く。

以上で、序章完結となります。(始まったばかりなのですが……)

如何だったでしょうか?

ファンタジー初挑戦且つ、会話表現苦手な私なりに努力はしてみましたが、なにぶん経験が足りない事を痛感しました。

これから先の物語を描きつつ、腕も磨いていきたいと思います。

ストーリーの展開のみならず、文体の進化(できたらの話ですが)も楽しんでいただけたら幸いです。


末永く、よろしくお願い致します。


追伸 感想、アドバイス等を頂けると励みになります。

何卒よろしくお願いいたします。



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