巫女姫の追憶・2
リナリアの花が揺れています。
この場に収められているのは、全て私の記憶。
何度も何度もやり直して、そのたびに取りこぼしてきた、私の懺悔の記憶です。
はじまりの記憶。
光の祭壇の試練を終えた私たちは、ようやく闇の祭壇への道を開きました。ここで世界浄化を成しえなければ、旅の全てが無駄になります。
その夜、私はアルと共に生きると決めました。
ですが、そのとき私は気付いていませんでした。選定に選ばれなかったカルミアが死んでしまうということに。
彼の死に悲しみに暮れる中、私は禁断の象徴の力【円環】を見つけました。これを使えば、やり直すことができる。これを使えば、今度こそ誰も死なない時間を作り出すことができると。そう信じて。
ですが、世界は思っている以上に残酷なものでした。
カルミアを助けようと決めて彼の手を取ったら、クレマチスが死にました。
今度はクレマチスを助けようとしたとき、アスターが死にました。
今度こそ誰も死なないようにと決意をしたら、アルが死にました。
どうして、必ずひとりを取りこぼしてしまうのでしょう。
いいえ、この世界は私が思っているよりもずっと歪なのです。
誰かが誰かを踏みつけなければ、誰かが助からない世界。
それが、必ずひとりを死に追いやるのです……全てをかぶせて。
どうしたらこの世界の理を壊せるのでしょう。どうしたら誰も死なずに済むのでしょう。
そして、何度も何度も世界をやり直して、ようやく方法に気付きましたが、このことは誰にも知らせられるものではありませんでした。
誰にも気付かれてはいけない。誰にも悟られてはいけない……誰にも止められてはいけない。
リナリアの花に記憶と一緒に を溜め込みはじめました。
世界をひと回りするごとに、ふた回りするごとに、それはどんどん溜まってきました。
ですが……。
【円環】は世界をやり直すことはできても、それだけでは世界の理を壊せる力はありません。
何度も何度もやり直した結果、私はリナリアの花に溜め込んだ私の記憶を読み取らなかったら、「私」を忘れてしまうことが増えていったのです。
それではあのひとの思うつぼなのに。
でも、これはあのひとにだけは絶対に気付かれてはいけないのです。
誰かがそれをなさなければ、きっとこの繰り返される世界は終わりません。
【観測者】はよく頑張りました。
彼女は少しずつ【幻想の具現化】の真の力を解放していっています。
ですが、全ての試練を完遂しないことには、まだ力の全てを使いこなせるとは言い切れません。
私の力だけでも、浄化の旅の仲間たちの力だけでも、【観測者】の力だけでも、これは成し遂げることができないのです。
真実を知れば恨まれることでしょう。憎まれることでしょう。……悲しまれる、ことがあればいいですね。
ですが、もう時間がありません。
世界を繰り返すことは、これが最後でなければいけないんですから。




