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円環のリナリア  作者: 石田空
神託の旅編

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巫女姫の暗躍と巨人族

 私が目を覚ましたとき、既に深い森にも光が差し込んでいた。どうにか体を起こそうとすると、ピシピシと悲鳴を上げる。固い場所で変な体勢で寝たせいなんだろうけれど。

 どうにか起き上がると、既に起きていたアルと目が合う。


「おはようございます。昨日が昨日でしたが、休めましたか?」


 暗に「昨日のことは気にするな」と言っているようで、私はどうしたものかと目を伏せてから、アルの傍に寄り「少し顔を洗いたいんですけれど、着いてきてもらって大丈夫ですか?」とアルの裾を掴む。

 アルは少しだけ目を細めたあと、頷いて着いてきてくれた。既に起きていたカルミアは少しだけ訝し気にこちらを見ていたような気がしたけれど、今は気にしている暇がない。

 川の近くに来ると、そこで水の流れを眺めながら、私は今日見た夢の内容を伝える。


「……久しぶりに、リナリアが夢に出たの」

「リナが?」


 アルが少しだけ目を丸くしたのを見ながら、私は頷く。そして、気になっていたことを伝える。


「……リナリア、ひとりで大地の祭壇付近……だったと思う。とにかく森の中にいたの。大地の祭壇の近くじゃないかと思ったのは、秘蜜を吸う妖精たちがたくさんいたから」

「リナもまた、妖精たちに襲われて?」

「ううん。妖精たちが吸いたいならどうぞって、無抵抗だった」


 でもなあ……妖精が毒を盛られたみたいにバタバタ倒れたなんて、どう説明すればいいんだろう?

 リナリアは、私と違って周回プレイをしている。記憶の容量が妖精のキャパシティーを越えていたから、濃度がきつ過ぎてお腹を壊したっていうんだったらまだいい。

 妖精が内容を公表したがらなかったことが、引っかかるんだよな。

 私は内容をずっと繰り返し頭の中で再生させたあと、アルに聞いてみる。


「妖精って、いつも吸った秘蜜の内容って言いふらすの?」


 たしかに、スターチスの特殊イベントの際も、妖精に無理矢理アルメリアのことを公表されてしまったから、彼が寡夫だと発覚したんだけれど。

 でも、スターチスの特殊イベント以外では、妖精に秘密を公表されるイベントは存在していなかった。

 アルにだってクレマチスにだってアスターにだってカルミアにだって、表沙汰にされたら困る秘密はあるはずなのに、だ。

 シナリオの都合だったらそれまでなんだけれど、今まで旅を続けてきても、シナリオ上では流されてしまった出来事にも、ちゃんと理由が存在することは、こちらにだってわかっている。

 妖精が言いふらさない理由があるんだったら、それで別にかまわないんだけれど。

 アルは少しだけ考えたあと「そうだな……」と顎に指を添える。


「妖精は人の不幸は蜜の味。人が秘密を公開されて困り果てる顔を見るのが好きなんだ。だから、それを公表されても困らないと本人が開き直っている場合は、妖精も面白くないから口にはしない」

「そんな……市井の奥さん方じゃあるまいし」

「あとは、妖精が口に出すのも拒む場合、だな」

「具体的には?」

「それは本当におとぎ話になっている程度だが。禍をもたらす場合、妖精は口を閉ざすらしい……もちろん、小悪党が妖精に秘密をばらされて、こらしめられる場合もあるが、それが妖精にも禍が及ぶ場合は別、らしい」

「……そんな」

「それが、どうかしたのか?」


 どうしよう。私は顎に手を当てて考え込む。

 リナリアが妖精たちに非難されていたのは、どう考えても禍をもたらすと判断されたからだ。

 でも……ちょっと待って。リナリアは、皆を助けるために私に自分の立場を明け渡したはずなのに、どうして妖精に非難されることになっちゃうの。

 たしかにリナリアがやってきたことには疑問も多い。

 カルミアを私の知っているシナリオより早く私たちに合流させたり、王都ひとつを私の象徴の力のための鍛錬場にしたり……。

 そもそも、全員死なないルートを生成するために、「私じゃ駄目」といっていなくなったけれど、彼女は周回を続けることによって、象徴の力を使い込んでいる。事情を知らない人からしてみれば「奇跡の所業」レベルにまで、彼女の力は向上してしまっているくらいにだ。

 それでも、全員を助けることができないって、本当にどういうことなの?

 考えれば考えるほどに、推測するにしてもなにかが足りない。

 このことをアルに口にするのは、ためらわれた。

 彼女がなにをやりたいのかはわからない。でも。彼女が「皆を助けたい」って気持ちだけは、嘘じゃないと思うんだ。

 私はさんざん考えた末に、アルに言う。


「ありがとう」


 お礼で言葉を濁して、本当にごめんなさい。アルにリナリアの憧憬を取り上げることは、私にはどうしてもできなかったんだ。

 アルはしばらくこちらを見たあと、憮然と口を開く。


「前からずっと思っていたが、理奈は隠し事が下手くそだ」

「す、好きで隠し事をしている訳では……!!」

「ああ、わかっている。リナといったいなにをそんなに約束したのかはわからないが」


 アルはぷいっと背中を向ける。マントがふわっとたなびくのと一緒に、彼はぽつんと言う。


「俺は巫女姫の護衛だ。頼ってもらえないのは、困る」


 私はそれに思わず赤面しそうになるのを、必死でこらえる。

 この人は、本当にこの人は……!!

 だから私は、誰に対しても平等じゃないといけないんだってば……!!

 ジタバタして抗議したいのを必死でこらえて、「ありがとう!!」と投げやりに答えて、話を打ち切った次第だ。


****


 戻って朝ご飯をいただく。

 パンと干し肉を少量のアルコールで流し込まないといけないのに、私はがっくりとする。

 非常食だから仕方ないとはいえども、あまりにも固過ぎる上、かろうじて柔らかくなった部分もアルコールの味しかしない。

 料理がここだとできないのが辛い。クレマチスのつくってくれる料理が食べたい……とうじうじと思ってしまうのは、私だけか。

 クレマチスはひと足早く食事を終えると、索敵(サーチ)を使って、辺りをうかがいつつ、顔を曇らせる。


「クレマチスくん? まずい動きでもありましたか?」

「妖精は皆、寝静まっていますから、昼間の内に突破すれば問題ないと思います。ただ……」


 スターチスが怪訝な顔をしながら、アルコールで固い肉を飲み干す。

 私たちが続きを待つと、クレマチスは眉を潜ませて言葉を続ける。


「巨人族が急激に大地の祭壇へ動きはじめているんです。今は人がいないはずですので、巨人族が祭壇を襲撃する理由がないんですが、夜を待っては妖精たちが動き出しますし、昼の内にもぬけの殻になっている巨人族の縄張りを突っ切って大地の祭壇に急ぐか、このまま安全策として最低限巨人族とも妖精とも会わないルートを通るか、微妙なところです」

「あれは人が刺激しなければ、祭壇を破壊しようとしなかったのではなかったのか?」


 カルミアがイラリとしながら聞く。

 巨人族が人を嫌っている理由なんて、ジェムズ帝国の人間からしてみれば当然だと思われているのかもしれない。どう考えたって、神殿側の身勝手が原因だし。

 それには、クレマチスが言いづらそうに、そっと口を開く。


「それなんですが……調べたら、大地の祭壇付近で大量に妖精が落ちているんです」

「落ちてる? 死んでるじゃなくって?」

「生死は不明ですが、とにかく青褪めて落ちているんです。ですが、植物が枯れている痕跡もありませんから、妖精にだけ効く毒でも撒かれていたとしか」

「妖精用の毒って、いったいどれだけ妖精を嫌っていたら、そんなもんに手を出すのかね」


 クレマチスとアスターの言い合いを聞きながら、私とアルは思わず顔を見合わせてしまった。

 リナリアは、大地の祭壇に向かっていた……? そして彼女の秘蜜を吸って倒れた妖精たちを見て、敵認識した巨人族が、そのまま祭壇に向かっているとしたら……。

 祭壇に向かったリナリアが危ないんじゃ。

 ……彼女の象徴の力はたしかに途方もない。でも象徴の力が強いのと、物理的に強いのは、意味が全然ちがう。

 私はすぐにパンを口に放り込むと、立ち上がった。


「……最短距離で急ぎましょう。巨人族が縄張りから離れているんでしたら、そのほうが速いでしょうし」

「ですが、リナリア様。この巨人族の動きはおかしいです。なにかしら、罠があるとしたら」

「……罠は、おそらくありません。あるとしたら、巨人族の怒りでしょう。それを鎮めなければ、最悪儀式を行うことができません」


 口から出任せだけれど。多分昨日見た夢がそのまま、昨日のリナリアの行動だとしたら、妖精はもうわざわざ嗜好品の人間に手を出そうとしない。

 どちらかというと、巨人族のほうがまずいでしょう。

 今まで唸り声しか聞こえていない存在に身を震わせた。

 クレマチスは困ったようにスターチスを見、スターチスは考えるようにして人差し指で唇を抑える。アスターはどちらでもよさそうにアルコールを仰ぐ横で、意外なことにカルミアだけはずっと大剣の柄に手を添えているのが気になった。

 しばらくの沈黙の後、スターチスは「そう、ですね」とメガネの弦を持ち上げた。


「考えていても埒が明きませんが、身の安全もですが、儀式自体ができなくなってしまっては事です。そのまま最短距離で森を抜けましょう。クレマチスくん、引き続き索敵サーチをお願いできますか?」

「それは、可能ですが……ぼくたちで、巨人族に対処できるんでしょうか?」


 森を荒らされてたら、きっと巨人族は怒る。

 燃やしてしまったら楽かもしれないけれど、こちらだって火あぶりは避けられない。

 本当は戦闘を避けたかったんだけれど、祭壇を壊されるとなったら、こちらだって困ってしまう。

 アスターは長い髪を弄りながら、「まっ、できるんじゃねえの?」と暢気に答える。


「アスター様、それは軽率では」

「それが土人形とかだったら、こちらも対処不可能だったのかもしれねえけど、生き物だったら、なんとかなるだろ。なにも倒すだけが戦いじゃねえしなあ」


 そう言って彼はニヤニヤと笑った。

 ……ああ、そっか。象徴の力が強くなっているのは、私やアルだけじゃない。ここにいるメンバー全員なんだから。

 私たちは食事を済ませると、お腹が苦しいのも無視して、ひとまず目的地へと急いでいった。

 大地の祭壇には神官すらいないんだから……ここを壊されてしまったら、世界浄化の旅そのものが続けられなくなる。

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