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円環のリナリア  作者: 石田空
チュートリアル編

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メイアン騒乱・3

 どうしておばあちゃんはシオンをかくまってくれていたんだろう。設定資料集の内容を頭の中で検索してみても、目ぼしい情報は思い出せなかった。

 公式年表で一行しか書かれてないことを検索するのは骨が折れる。

 シオンはひどく疲れた顔をしていて、立ち上がってもなおフラフラとしていた。

 それを見かねたクレマチスが、アスターのほうに振り返ると「すみません、彼に甘いものを差し上げてもよろしいですか?」と尋ねると、アスターは皮肉めいたように口元を歪めつつ「お好きにどうぞ」とだけ言った。

 クレマチスはメニューをざっと確認し、「彼にカスタードプディングを」とおばあちゃんに注文したら、それをおばあちゃんは出してくれた。

 シオンはアスターと一緒に来た私たちを少しだけ怪訝な顔で見たあと、「近衛師団の方ではなさそうですね」と、少しだけ警戒を緩めた顔をした。それでも、甲冑を外している上管轄だって王国ではなく神殿である騎士のアルに対してはほんの少しだけ警戒した素振りを見せたものの、明らかに騎士ではない私とクレマチスを見たせいだろう。

 シオンがプディングをすくって食べているのを眺めたら、アスターは口火を切った。


「大事なってるじゃねえか。お前、俺が神殿から連れ戻されてここに来てなかったらどうなってた訳?」

「……兄上は、いったいどこまでご存知ですか?」

「王様殺したって、結界の騎士が大騒ぎしてたよ。近衛師団が分裂しているとも」

「ああ……そこまでですか」

「で、お前がそんなことするわけないだろ。なに、はめられたわけ?」


 軽口をポンポンと叩きつつも、アスターの言葉のひとつひとつには、異母弟への信頼やらが垣間見えて、どうしてこのふたりで継承権で揉めなくちゃいけなくなっちゃったんだろうと、ついつい思ってしまう。

 このふたりのせいって言うよりも、問題をややこしくしたアスターとシオンの家族のほうが問題なんだけれど、フラグ周りの問題は、今は後回しだ。

 アスターの問いかけに、シオンは困ったように目を伏せる。言いにくいことなのかもしれない。

 私はアスターのほうを見ると、ふっとアスターが目を細める。神殿から言われてメイアンにまで来た私たちのことを気遣ってくれたのかもしれない。アスターの性格上、気遣ってくれているのは私だけで、アルやクレマチスのことは勘定に入れていないのかもしれないけれど。

 やがて、シオンはすっと口を開いた。


「……どこまで話していいものか、迷いますが」

「……ここにいるのは、神殿関係者だけだ。神殿は国政に関与はしない。この場限りの話にさせてもらう」


 意外な助け舟を出したのは、アルだった。

 たしかに私たち三人はそうなんだけど……ちらっとアスターのほうを見たら、アスターはにやっと目を細める。


「まっ、俺も神殿や国には目を付けられたくないしなあ。ほら、話せ」

「……ありがとうございます」


 シオンはようやくほっとしたように、口を開いた。


「そのときは、城外警護で、城壁からの見張りをしていました……その際、城外で穢れが発生したんです」


 そりゃそうか。

 穢れは象徴の力の使い過ぎ……言葉の澱みから発生するものだから、どうしても象徴の力を使っている場所には多く発生してしまう。それはすぐに祓ってしまえば、獣や人にとりついて悪さをしたりしないけれど、穢れをすぐに浄化できる力の持ち主は限られている。

 だからこそ神殿があって、巫女や神官がいるんだから。

 シオンの言葉は続く。


「穢れが発生したため、浄化部隊と共に討伐に向かったのですが……当たりが悪く、ひとり穢れに取り込まれました」

「それは……」


 ウィンターベリーの研究所のことが頭にちらちら浮かび、少しだけ気分が悪くなるものの我慢して続きを促す。


「……浄化が間に合わず、彼を殺さないといけなくなったんですが、あの穢れは狡猾でした。彼は我々を振り切ってすぐに逃亡し、あろうことか王城の交替要員たちに嘘を並べたんです。『隊長が穢れに取り込まれた。すぐに捕縛しろ』と」


 ……だんだん話が見えてきた。

 要は、穢れの浄化が間に合わなかったせいで、穢れが王城へと侵入してしまったんだ。

 王城が穢れに汚染されてしまっては一大事と、討伐部隊はすぐに情報が回されたはずだけれど、情報がそこでふたつに割れてしまったんだ。

 穢れに取り込まれたのは誰か。どちらを捕縛すればいいのか。

 これで近衛師団を割れてしまったんだ。

 話を聞いたアルは、顔をあからさまにしかめる。


「その穢れの討伐は、終わったのか?」

「いいえ。王城に入り、すぐに上層部に連絡は回しましたが、既に近衛師団の中でも情報は錯綜としていました。浄化部隊がすぐに情報を回したんですが、寸での差で後追いとなってしまいました……」

「だとしたらこの一連の出来事は」

「……王の近くに今でもいる穢れを殺処分するために追っている部隊と、自分を穢れだと思って処分しようとしている部隊です」


 そこまで吐き出したシオンは、味方に殺されかけたせいか、ずいぶんとくたびれてしまっている。

 結界が停止するタイミングで中に侵入し、嘘の情報を振りまくって、その穢れも狡猾が過ぎる。

 でも……。

 リナリアに言われたことが私の頭の中でリフレインしていた。


『スターチスとアルメリアを助けることができました。……本当でしたら、研究所の罪のない人々も助けられたら理想でしたが』


 ……リナリアの指摘は、間違ってない。

 象徴の力はどうにか身に着けることはできたけれど、私は神官や巫女だったら持っているはずの、穢れを祓う力を会得はしていないんだから。

 浄化部隊の人たちですら、穢れに取り込まれた人は殺さないといけないと言っていたけれど、本当に殺す以外に選択肢はないの?

 戦うことは、まだ慣れているとは言い難いけれど実践は積んだ。でも……。

 人を殺すことには、まだちっとも心が追い付いていない。

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