おおかみさん、うたれる
おぼろげに目を開けると、小さな病院が見えた。病院と警察官?保健所の人々?らしきものとが見えた。
たぶんここは里だ。
彼らは、銃をこっちに向けて構えている。
私はおおかみの背中に乗せられていることに気が付いた。くわえられたのか、人間の名残でひもでもつかって運ばれたのか分からない。
彼らは何かを叫んでこっちに近づいてきた。そして、ダッシュで私を引き離した。
「パアン!」
一瞬だった。
おおかみさんの頭はぶちぬかれて、その場でおおかみさんは動かなくなった。
もう、目に輝きはなくてどこか別の遠い世界を見ちゃっているみたいだ。
おおかみはそこで殺されたのだ。
私のために殺された。
私は泣くことも許されず、救急車に乗せられて大病院で運ばれていった。
「もう大丈夫だよ。
だけど・・・あと少し到着が遅れていたら、君の命はなかっただろうね。
最先端の医学を研究していた私のおかげでやっと君の難病の原因が分かったんだが、ほおっておいたら命にかかわる病気だったみたいだ。」
と優しそうな眼をしたお医者さんは言った。
「君が、都会を離れて、山に行方不明になったのも・・・実は医学的に正解だった。
「先天性なんたら性なんたんらかんたら種なんたらかんたら症」というわけのわからない病名を聞いた。へええ。
「都会の空気によるアレルギー、それにストレスが加わって発症する珍しい病気なんだ。
発作がある程度繰り返されると君の命にかかわる。
あのまま都会にとどまり続けていたら、いつか死んでいたし、またあのまま君が山の中にとどまって発作を起して倒れていても危なかったね。
そして、君が倒れていた場所ももし少しずれていたら君の命はなかった。
おおかみが君を餌にしようと襲っていたところだったからね。
無事、あのおおかみは射殺したから安心しなさい。」
「倒れていた場所・・・?
ちがう・・・おおかみが、おおかみが運んできてくれたはずなんです・・・わたしを。
あのおおかみは・・・あのおおかみは・・・」
私はそこで泣き崩れた。
お医者さんは事情をよく呑み込めなかったようだが、私の方にブランケットをかけてくれた。
「まさか、日本では絶滅したとされているおおかみがこんな里にまで降りてくるなんてね・・・。」
おおかみさんは、自分が殺されるのをわかっていながら、私の命が危険にさらされていたことをわかっていて私を里にまで連れ込んだったのだ。