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わたしのこと

「話してくれてありがとう。せっかくだから私のことも言うね。

えーと、まず何から言おうか。

私ね、生まれつき病気があるの。何っていうか病名すらわかってない。急に胸や頭が苦しくなって倒れてしまう。でも、どこを調べても異常はないんだって。原因すらもわからない。

家族や親せきは『悪霊憑きだ』なんて言って、『親が悪いことをしたからそうなったんだ』『お前が大人の言うことを聞かず、悪いことばっかりしているからそうなったんだ』『甘えだ』『努力すればそんなもの出ない』と好き勝手なことばっかり言って私を追い詰めてくる。


私の病気のせいで、両親は離婚した。家の中では互いの怒鳴り声がよく聞こえていた。それまで、毎日互いに『愛してるよ』って言い合っていた仲だったのに。それはみんなみんな嘘だったんだ。

ちがう・・・私のせいで、しんどくなったんだね。


私はね、一生懸命いい子になろうとしたよ。大人のことをしっかり聞いて従おうとしたよ。だけど、大人たちはみんなばらばらのことばっかり言って、あれをすれば怒られ、直しても怒られる。挙句の果てに、『お前のためを思って』だって。

もっともっと調子が悪くなっちゃった。私が悪いのかなあ。

・・・どんなにいい子になろうと努力しても無理だと思った私は、もうみんなあきらめて悪いことをすることにした。・・・だけどね、本当は大切にされたかった。愛されたかったんだよ。

他の人たちはみんな笑いなんかを取って人気者になって先生に愛されたり。そして、多少悪いことをやっても先生たちからは笑って許される・・・理不尽だよ。

そして、先生も社会もみんなひどい。屑だ、くそだ。みんな保身のことしか考えてない。

自分の評価のために、苦しんでいる人がいても見て見ないふり・・・いや、絶対に見えていないはず。そんなのばっかりだよ。

だけど、ひとり・・・たったひとり、私のことをしっかり見てくれる先生がいたんだ。

『お前は本当はいい子だ』って。

嬉しかったんだよ、とても。

私は、珍しく『ありがとう』ってハンカチをあげた。刺繡(ししゅう)入りの。そしたら先生はお礼にって、本とか、ほしいって言ってたものをくれたりした。そんな先生がいたおかげで、私も教師になろうって・・・しんどい人の気持ちを分かってあげられる先生になるんだって夢を持ってた。」

「いい先生じゃないか。」

「・・・だけど、だけど・・・」

私はそれ以上しゃべるのが難しくなりながらも続けた。

「先生は、クビになって、逮捕されちゃった・・・。

私のせいで、私のせいで・・・。」

おおかみは「なんで」ともいわず、目をつぶったようにして腕組をしながらそれを聞いている。

「先生は何も悪くないんだよ。

私が、寂しいから一緒に帰って少し腕をつかんだだけで、それを別の生徒が見て、写真にとってSNSで拡散してそれはすぐに職員室に知れ渡り・・・セクシャル・ハラスメントだっていって。

・・・もともと、先生は『学校組織のために生徒が存在する』学校の在り方に対して反対しているような人間で、一人一人を大切にすることを言ってたから・・・周りの先生たちからも疎まれていたんだろうね。

なにか罪をでっちあげたくて、なんでもよかったんだ。罪状は。

私は、罪の意識にかられてリストカットをするようになった。誰にも見られないようにね。

そういうことがあってから、私のクラスでのポジションは隅っこに追いやられた。

友達はたくさんいたけれど、あんなものはほとんどわたしをいじってるだけ。

特別悪いやつってわけじゃないんだけどね・・・『おごってよ』って言われて、十万円分くらいおごっちゃった。それで、友達である関係が保たれる。」

「おいおい・・・それはおかしくないか。そいつは、悪いやつだよ・・・。カツアゲっていわねえか?それ。」

「いわないよ・・・善意でおごっただけだよ。でも、うん・・・そうなのかな。」

「ううむ・・・。」

「それで、食事をしている時も、勉強をするときも、トイレに行くときも、そこには私以外の誰かがいつもいて、何か細かいことの一つひとつ口出しをしてくるんだ。

『ああしたほうがいいよ、こうしたほうがいいよ。それはだめだよ、あれはだめだよ。』って。」

「なんでそんな奴らとの関係を断ち切ってしまわない?」

「人間は嫌でも、人間と関わっていかなきゃ生きていかないんだよ!そんなことをしたら、おおかみさん、あなたみたいになっちゃうよ。」

「嫌なんだ・・・そいつらのことが。」

「嫌ってわけじゃないよ。」

「優しいんだな。なんで、くそ野郎とかそんなことを素直に思えない。」

「・・・そんな素振りでも見せたら、私は嫌われる。孤立する。奴らはね、ずっとずっとSNSでメッセージを送り続けてくる。反応しないとものすごく怒るんだ。」

「すでに嫌われてるではないか。話を聞く限り。」

「そんなことないよ・・・みんな私が悪いんだ。仮にそうだとしても、これ以上、嫌われたくはない。」

「しんどくないか。そんな生き方は。」

「しんどい、しんどい、しんどいよ・・・だけど、そうする以外ないじゃん。」

「正直に言えばいい。」

「言っていいの?」

「みんな死ね。幸せそうにしてる奴みんな、人類も地球も死ねばいいんだ。

というか、まずは、自分が死にたい。」


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