うちゅうのあみめ
本当に何もすることがない。こんな山奥では。
スマホの電池は切れちゃったし、
今頃、家族や学校は捜索願を出して、警察がわやわや動いているはずだ。
「心配したよ」
は私のことを思ってなんかじゃない。
まあ、少女が一人家出したとなったら、「自分たちが困る」から。
連れ戻されても、もっとつらい生活が待っているだけ。
もう、いっそのことこの山奥で、このおおかみみたいに一人で生きて一人で死ぬのも悪くない。
*
なんて思っていたにもかかわらず、わずか数時間でその気持ちは雲散霧消。
「ひまだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあああああ!さびしいよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫んでいた。
「だれかああああああああああああああああああああああああ!
話し相手になってくれー!」
やはり人間は、「人の間」なんて書くように、人がいないと生きていけないのだろうか。
「人間は精神である。精神とは何であるか? 精神とは自己である。自己とは何であるか?自己とは自己自身に関係する所の関係である。すなわち、関係ということには関係が自己自身に関係するものなることが含まれている
──それで自己とは単なる関係でなしに、関係が自己自身に関係するというそのことである。人間は有限性と無限性との、時間的なるものと永遠的なるものとの、自由と必然との、統合である。要するに人間とは統合である。統合とは二つのものの間の関係である。しかしこう考えただけでは、人間はいまだなんらの自己でもない。」
おおかみがいきなりわけのわからないことを言い出した。
「哲学者、キルケゴールの『死に至る病』の一節だ。」
「暗唱するまで覚えているのかよ。難しいこと言うなよ。」
「つまり、私たちは・・・宇宙全体の巨大な関係の網目の中で生きているってことだ。」
「壮大な話だねえ。」
「そして、良くも悪くもその網目の中から逃れることはできない。
その網が、お前自身を生かしてくれることもあるし、またその網はお前を縛り付け身動きを取れなくさせることもあるということだ。
そして、そのなかで、どう生きていくかを選択することだってできる。
大きな網目のなかの中心におまえがいる。そのなかで、おまえは大切な役割をはたしていて、お前の存在は全宇宙に対して影響を及ぼすことができるのだよ。」
とても難しい話だったが、なんとなく人間関係にうんざりしていた私には・・・そして、孤独で孤独で仕方がなかった私には、普段よりもその言っていることが少しでもわかるような気がした。
「・・・わたしが、宇宙の網目の中心?」