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「どうか約束して、その時が来たらその命をあの子に捧げると。それがきっとあなたの幸せ」
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「巫ちゃん。貴女に手紙が来ているのよ」
「手紙...ですか?」
とある養護施設の一室。
そこにいたのは初老の園長とまだ少し幼さのある少女。
園長はこの施設の園長で少女は白石 巫という。
あまり家具の置かれていない応接室に二人はいた。
『白石 巫様。
貴女様は我が校に入学する素質があると認められ、入学が許可されたことをここにお伝えいたします』
手紙には周りに綺麗な模様の入った便せんにそう綴られていた。
二枚目以降には入学にいたっての手順やそれに必要な資料などが入っていた。
「巫ちゃん。この学園は一般の方でもなかなか入れない名門校でワンダーランドへの入り口よ。優しい貴女は言えなかったのだろうけれど本当は高校に通いたいんでしょう?」
「でも、私は働きたいです。働いて園長先生やここに皆に恩返しがしたい」
少女はうつむく。
先ほど園長が言ったワンダーランドとは、この国にあるけれどこの国にない別の国である。
その国から輸出される物はどれも一級品で素晴らしいものばかりだ。
どのように作られているのかもどのような国なのかも不明で分かっているのはワンダーランドへ入るには入り口になっているとある高校に入るかその国の者にスカウトされるしかない。
そんなところからの招待状が彼女に届いたのだ。
さながらシンデレラである。
「ねぇ、私ね。貴女には幸せになって欲しいのよ?貴女だけじゃない。ここにいる子たちは皆私の可愛い子たちだもの。本当の家族のように思ってるわ。だからこそ、最良の選択をして欲しいの」
「最良の...選択」
「そう。貴女が幸せになってくれることが何よりの恩返しだわ!それにね・・・」
そこで園長は立ち上がり後ろにある机に行き引き出しから何かを取り出した。
そしてそれを少女に差し出す。
差し出されたのは鈴のついた髪紐だった。
鈴のところに小さく紋がついている。
「この紋ねワンダーランドのものなの。貴女が高校生になったら渡そうと思っていたのだけれどここに預けられたとき一緒にあったものよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、だから。貴女の親御さんもそちらにいたのではないかと思ってね」
「お父さんとお母さん...」
少女はまたうつむいた。
今までの恩も返したい、けれど両親のことも気になる。
そんな葛藤があるのだろう。
しばらくそのまま考え込み、そして少女は前を向いた。
そして、園長に向かって言った。
「私、行きます!」
これを合図に再び止まった時を刻み始め物語は動き出す。