57話 理解出来無い
レインとして行動する理由…。
カインがストンブルグに到着してから翌日。
現在、赤髪でサングラスをかけた状態のレインとしてギルド本部へと訪れていた。
(さすが、ギルド本部となると格がが違うな。)
周りを見渡したカインは、普通のギルドとは比べ物にならない建物を見て感心していた。
このストンブルグにあるギルドは全てギルドを管理している場所となるので、広大な敷地に様々な施設が併設されている。もちろんランキング戦を行うのもギルドの敷地内にある大闘技場だ。
今回は、そのランキング戦に向けての鍛錬を行う為に1人で鍛錬場へと来ていたのだが…。
(…やっぱり、この格好は目立つようだ…。)
周りにいる冒険者達からの視線を感じて思うカイン。
実際、レインの格好は非常に目立っている。赤髪はともかく、サングラスはこの世界ではもう存在しないので、黒いレンズで目を隠している姿は奇妙に見えるようだ。
そんなカインのところへ……。
「おいおい、そこの変な眼鏡をした兄ちゃんっ!!少し目立ち過ぎじゃねぇかっ!!」
突然、カインに向けて話しかける声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、そこには巨漢で冒険者らしき男が腕を組んだ状態で佇んでいた。
その2人の様子を見ていた他の冒険者達がざわつき始める…。
「おい、あれはBランク冒険者のボルだ…。」「あいつは目立ちたがり屋だからな。」「この前も相手を半殺しに…。」「あの変な眼鏡をした男は自業自得だな。」「あの赤髪死んだな。」
あの巨漢の冒険者ボルは、この辺りでは有名な男らしい。この場にいる殆どの冒険者が、カインに対する同情と哀れみを抱いている。
しかし、カインは全く気にした様子もなく…。
「うせろ。お前には興味がない。」
そうボルに言い放つと直ぐに背を向けて歩み始める。
普段のカインなら丁寧な言葉遣いで対応するのだが、今回はレインとして行動しているので話し方や態度を変えているのだ。
そんなカインの言葉に一瞬唖然としていたボルだったが…。
「………て、てめぇっ!!俺様に対して舐めた態度を取りやがってっ!!
ぶっ殺してやるっ!!!」
顔を真っ赤にしながら背負っていた大斧をカインに向けて構え始めた。コケにされた事で一瞬にして頭に血が上ったようだ。
(面倒だな…。仕方無い”アレ”を見せるか…。)
そんなボルを面倒に感じながら、”ある物”を見せることを決めた。コレを見せれば直ぐに解決すると判断したからだ。
「お前に俺が殺せるのか?」
そう言いながら、アイテムボックスΩから”特別な証”を取り出して巨漢の冒険者に見せるカイン。
「そんな物で俺様が許す…と……。」
最初は強い口調で答え始めるボルだったが、カインが出した証を見て固まってしまった。
その証を見た周りにいる冒険者達も、先程の巨漢の冒険者ボルの登場よりも大きくざわめき始めた…。
「なっ!!あ、あれはっ!!」「まじかよっ!!何者だっ!」「お前、知ってるか?」「まだ1ヶ月は先なのに、もう来ているのかっ!!」「おいおい、逆にボルの奴殺されるぞっ!!」「どんまい…ボル…。」
様々な声が飛び交っている中で一番多いかった声が…。
「「「「「ランカー証…。」」」」
カインが巨漢の冒険者ボルに見せた物は、5年に1度開催されるランキング戦に出場する者だけが渡される『ランカー証』である。特殊な黒い金属板に銀色の天馬が刻まれており、Aランク冒険者の中でもランキング戦に出場する者のみにしか許されていない紋章だ。
ここの本部に所属している冒険者達はランキング戦を観戦するが可能なので、もちろんランキング戦の存在を知っていた。その特別な者達が持っている証の存在も…。
「でも、ナンバー無しみたいだぜ。」「て、事は挑戦者か…。」「変な格好だけど、そこそこ強いのかもな。」「まぁ、まだ若いようだしこれからだろ。」
カインのランカー証を近くで見た者達が更に呟き始める。
ナンバー無し……ランカー証には紋章の他にも名前と数字が刻まれるのだが、カインの場合は名前しか刻まれていない…。
そんな冒険者達の中で1人違った反応をした者が…。
「レインか…君は本当にナンバー無しなのか?」
どこからかそんな声が聞こえて来た。カインのランカー証を見た冒険者のようだが…。
「……それで、中々強そうなあんたは?」
その声の持ち主を見て、ある程度の実力者であると判断したカイン。
「俺もお前と同じランカーのパム・ゴルネロスだ。そしてナンバーは10。」
茶色の髪にツリ目の若い男…パムは、カインにランカー証を提示した。そこにはパム・ゴルネロスという名前と10という数字が刻まれていた。
「現ナンバー10という事は…Sランク冒険者か…。それで、俺になんの用だ?」
特に驚いた様子も無く平然とした態度のカイン。今更Sランク冒険者とか、あまり気にしていないらしい。
「はぁ…。これでも一応有名なんだけどな。
まぁ、いいや。君から尋常ではない力を感じたので名のある者なのか確認しただけだよ。それなのにナンバー無しで、しかも名前も聞いたことが無い……それで妙だと思ったんだ。」
カインの態度に溜息を吐きながら、話しかけた理由を語っていくパム。凄まじい実力を感じたのに無名でナンバー無しというカインの事が気になったらしい。
「それだけか…じゃあな。」
短い別れの言葉を告げるとパムに背を向けて手だけを振って離れていくカイン。Sランク冒険者を相手に非常に失礼な態度である。
「ふっ、これでも一応皇族なんだけどな…。」
そんなカインの態度に対して不敵な笑みを浮かべているパム。あまり気にした様子もなく、逆に楽しんでいるようだ。
一方、周りにいる冒険者達の反応は…。
「あのパムさん相手にすげぇな。」「余程の大物か…それとも馬鹿か…。」「いや、確かにかなりの力を赤髪から感じたぞ。」「やっぱりランカー共は化物だな。」「ボル…完全に固まってるな。」
色々な反応を示す冒険者達。
もちろんその声はカインにも届いており…。
(はぁ…かなり注目を集めてしまったな。だが、レインが有名になる分には問題ないか…。)
内心溜息を吐いているカインだが、レインとしての自分が注目させるのには問題を感じていないようだ。
そもそも、カインがレインとして行動しているのには”とある理由”があった。確かにレインとなる事は必要だが、顔を隠している事について非常にくだらない理由である…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は遡り、カインがナタールを出発する前…。
カインは推薦状を受け取りにギルドマスターの部屋を訪れていた。
「はぁ?変装して偽名でランキング戦に出場するだとっ!!」
突然のカインの提案を聞いて驚くイジェル。本来なら絶対にありえない事なのだ。
「そうです。レインという名前で推薦状とランカー証を作って下さい。」
平然とした態度でお願いをするカイン。
「そんな事出来るわけ無いだろっ!!ギルドカードは身分証明証にもなってるんだぞっ!!」
しかし、ギルドマスターとしてギルドカードの偽造は許可出来無いイジェル。
「ふーん…。皇族や天族なら偽名で登録している者も多いみたいですが…。」
知ってるんだぞと言わんばかりの態度で話すカイン。実は、ミストラルやキグロなどは偽名で冒険者登録をしているのだ。なので、前例が全く無いわけでもない…。
「そ、それはあの方達が特別な身分だからだっ!!大した理由もなく誰でも偽造出来るわけ無いだろっ!!」
カインの言葉に少し狼狽えながらも何とか否定したイジェル。
「……分かりました。大した理由があれば良いんですね。」
少し間があった後、何かを決心した様子のカイン。
そんな様子を見てイジェルが首を傾げていたのだが…。
「イジェルさんに、現在では抹消されている過去についてのお話をします。信頼出来る者にしか明かさない真実なので、他言無用でお願いしますよ。」
真剣な表情で話すカイン。この世界に裏切り者が存在する可能性もあるので、あまり公には出来無いのだ。
「……分かった、話を聞こう。」
ーーーーーーーー10分後…。
「……以上が抹消された真実です。先程も話したように裏切り者には注意しなければならないので、ランキング戦後に実行する”革命”については内密にお願いしますよ。」
イジェルに神族の存在や神樹の素材についての説明、そして侵略者の話をしていったカイン。最後にランキング戦で実行する”革命”についての計画も一緒に話した。
「……なるほど…確かに信じられない内容だ。
だが、お前がこの世界で特別な存在である事はずっと前から感じていた。
この世界に裏切り者が存在しており、侵略者の手助けをしていると言うのなら……確かに革命が必要なのかもしれないな…。」
ずっと黙ってカインの話を聞いていたイジェル。信じられない内容ではあったが、きちんと真実として受け止めているようだ。
「では、良いんですね?」
イジェルに最終確認として問いかけるカイン。
「ああ、わしもお前の革命に協力しようっ!」
しっかりと頷いたイジェルは、椅子から立ち上がりカインに握手を求めて手を差し出した。
「ええ、よろしくお願いします。」
嬉しそうに答えながら、カインはイジェルの手を握り握手を交わしていく。
「おう、任せとけっ!!
……とりあえず、レインという偽名で新たに冒険者登録をして推薦状を書いておく。その他がわしがする事はあるか?」
直ぐに行動に移ろうとするイジェル。非常にやる気になっているみたいで、カインに指示を仰いでいる。
「………今回の革命の事は、現在イジェルさんにしか話してません。そこで、オボルへと向かった従者達や仲間に俺は当分の間1人で行動すると伝えて欲しいですね。もちろん、レインの事は伏せておいて下さい。」
少し悩んだ後、イジェルに支持を出していくカイン。実は、今まで誰にも革命の計画については明かしてなかったようだ。
「…どうして1人で行動するんだ?」
そんなカインに対して疑問に思ったイジェルが問いかける。自分よりも親しいはずの従者達や仲間に黙って1人行動する事を不思議に思ったようだ。
「……エレメントを顕現させなくても、1人で実現できると世界中に証明することに意味がある。無能者だからとか偏見を無くす為に、無能者レインとして名を上げる必要がある。
もし、俺が覚醒して五色のエレメント顕現者である事が公になってしまうと、今回の革命が無意味になってしまうだろう。無能者だからこそ、革命をする事に意味があるんだ。」
イジェルに対して使う丁寧な言葉遣いは止めて、自分に語りかけるようにいつも通りの口調で話したカイン。
再度、今回の革命についての決心を固めているようにも見える。
「なるほど…。無能者として革命を起こしても、後々五色のエレメント顕現者であると知られたら、今までのエレメント主義と変わらない可能性もあるか…。」
カインの言葉に納得するイジェル。やっぱり無能者では無く、エレメント顕現者だからやり遂げたと思われては意味が無いのだ。
「なので、レインの正体については身内にも内緒にします。イジェルさんと”他に信頼出来そうな人”を見つけたら話すかもしれません。」
元の丁寧な言葉遣いに戻したカイン。
「…分かった。だが、そろそろ変な格好をしている理由を教えてくれ……偽装するにしても、それだけは理解できんっ!」
カインの格好を見て、もう我慢が出来なくなったイジェル。
実は、ギルドマスターの部屋に入った時からカインが変な仮面をかぶっていた。
最初仮面を見た時に理由を聞いたのだが、逆にカインが偽名を使ってランキング戦に出場する事についての話を進めてしまった為、中々聞き出せなかったイジェル。
しかし、もう気になり過ぎて我慢が出来なくなってしまったようだ。
そんなイジェル対してカインは爆弾を投下した…。
「俺の顔は世界一不細工だから、レインになったからには顔を隠したいんだ…。」
という言葉を非常に真剣な表情で話したのだが…。
「お前は世界中の男を敵に回したっ!!!!わしもその1人だぁぁぁああーーっ!!」
物凄い勢いでカインに掴みかかっていくイジェル。叫んでいるのに無表情なので非常に怖い…。
「な、なんでだよっ!!俺はっ!!!」
慌てて抵抗するカイン。
「うるせぇっ!!鏡を見てから言いやがれぇぇっ!!!わしなんか、100歳になったのに未だに彼女すらいないんだぞぉぉぉおおおーーーっ!!!」
顔を真っ赤にしながらカインの胸ぐらを掴んで激しく揺さぶっていくイジェル。どうやらカインは絶対に踏んではいけない地雷を踏んでしまったようだ。
(何故、俺が怒られるんだ……。)
カインは、イジェルが感情的になる理由が全く分からないので、納得出来無い表情をしている。革命の同士として、さっき交わした握手を返上したい気持ちになっていくカインだった…。
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(今思い出してもよく分からないな…。)
そんな10日以上前の出来事を思い出していたカイン。未だにイジェルが激怒した意味が全く分かっていなかった。
仮面が原因かもしれなかったので、一応サングラスに変えたというわけである…。
(……まぁ、とりあえずランキング戦に向けて鍛錬をして行くしかない。無能者として…超絶者として1位を目指していく為に…。)
とりあえず、目の前の目標に向けて行動していく事を決めたカイン。
鍛錬する為の道具をアイテムボックスΩから取り出して、1人で黙々といつものメニューをこなしていた…その時。
ザワザワッ!!ザワザワッ!
突然、周りの冒険者達がざわめき始めた…。
(ん?何かあったのか?)
カインも、ざわめきを聞いて鍛錬を途中で中止して周りの様子を伺ったのだが…。
(俺のことを見ている?……やっぱり、この格好が気になるのか?)
周りの冒険者達の視線はカインを捉えていた。さっきと同じように、目立つ格好が原因だと考えているカイン。
しかし、問題は別にあった…。
「お、おいっ!見たか?」「あ、ああ…。幻かと思った…。」「生身で…マジで化物だな…。」「エレメントを顕現させてないよな?…。」「改めて見ると変な眼鏡もカッコよく見える…。」「あいつは腕力の強い超パワー型か…。」
冒険者達はカインの格好を見ていたのではなく、鍛錬を見て騒いでいたのだ。身体能力を倍加させるエレメントを顕現せずに、生身でありえない事をしているカインを見て目を疑っている者も多い。
(こんな簡単な鍛錬に驚くわけ無いし…。)
カインが行っていた鍛錬は……直径10m、重さ1tの金属の塊を5つ持って超高速でお手玉をする事だ。1つを持つだけでも大変なのに、回転の速さは100km/hを超えている。
生身であんなに巨大な重金属を使ってお手玉するなど、冒険者のランカーでも余程腕力に自身がある限られた者にしか出来無い。
しかも、カインはすべての能力値がバランス良く分配されているのでパワー型でも無いのだ。周りの冒険者達は、まさかカインが超絶バランス型だとは絶対に思わないだろう。
(落ち着いて鍛錬出来無いな…。仕方無いもっと地味な鍛錬に変えるか…。)
周りの目線をうっとおしく感じているカイン。仕方無いので、もっと地味な鍛錬方法に変えていく…。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
巨大な金属の塊をアイテムボックスΩに収めたカインは、次の鍛錬を開始した。
20m間隔で10個の地点を決めて、縮地法による一瞬で加速して100%の速度で動き、地点に到着すると一瞬で0%まで減速させて停止する動きを繰り返していく。この鍛錬では瞬発力はもちろん、一瞬の超加速や全停止よって肉体にかかる負荷を利用して、強制的な肉体強化の鍛錬にもなっていた。
その為、あまりの超スピードにより10個の地点で同時にカインが存在しているかのような残像が出現している。
なので周りの冒険者達からは、カインが10人に分身したかのように見えていた。
「うぉっ!!早ぇっ!!」「てか、消えてるぞっ!」「なんだよっ!あの移動速度はっ!!」「そもそも移動しているのか…。」「赤髪がいっぱい居るぞっ!!」「超パワー型じゃなかったのかっ!!」「嘘だろ…本当に生身なのか…。」「ははっ、…今度こそ幻だ…。」
またもや、生身でありえない動きをしているカインに対してざわめき始める冒険者達…。
本人の思惑とは違い、さらに注目を集めていくカイン。
(くそっ!この格好が悪いのかっ!)
全く見当違いな考えをしているカイン。もはや格好など鍛錬に比べたら非常に薄れてきている。
(こ、こうなったら別の鍛錬に……。)
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その後も色々と鍛錬方法を変えていくカインだったが、目立つ事には変わりなかった。何かをする為に周りがざわめく…何をしても超一流である事が問題になったのである。
この1日だけでレインの名前はストンブルグ中に知れ渡る事になった。そして、赤髪にサングラスかけた男はその日からこう呼ばれる事になる……『【覇神】レイン』と……。
次回、ランキング戦…。
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