54話 推薦状
カインが動き出す…。
出発の準備を終えたカインは次の目的地へと向かうの為、スナイデルとリンシアの2人と別れの挨拶をしていた…。
「カインくん、色々と身内が迷惑をかけてすまなかったね。今度遊びに来た時はゆっくりしていくと良い。」
バルシリガの当主として不祥事の対応に追われていたスナイデルだったが、カインの見送りには顔を出していた。
「いえいえ。お忙しい中、俺の見送りに来てくれてありがとう御座います。」
忙しいのに、わざわざ来てくれたスナイデルに笑顔で感謝するカイン。
「ははっ、カインくんは私の息子みたいなものだからね。リンシアとも上手く行っているようだし…。」
スナイデルは嬉しそうにしながら、カインの隣にいるリンシアを見ていた。個人的には本当の息子にしても良いと思っているようだ。
そんなふうに見られていたリンシアは…。
「もう、お父様ったら……でも、その通りですっ!!」
恥ずかしがりながらも完全に肯定する。リンシアも兄妹以上の関係を望んでいるようだ。
しかし、カインは…。
「もちろんです。リンシアは俺の妹ですからね。」
やはり、通常運転でリンシアとは違う意味で答えた。どんなに親しくなっても恋愛に発展しないのがカインという男だ…。
「はぁ…。リンシアよ、カインくんは強敵だぞ。」
全く理解していないカインの発言を聞いて、溜め息を吐きながら苦笑しているスナイデル。娘の幸せを考えると応援したいが相手が悪いらしい…。
「大丈夫です。私も次にカインお兄様と会う時までに、もっと女を磨いておきますのでっ!!」
カインに自分を女として見てもらう為に頑張ると言っているリンシア。
その様子を見ていたカインは…。
(なるほど…。リンシアに負けないように俺も頑張らないとな。)
リンシアの恋愛に対するやる気を戦闘の方に置き換えるカイン。これ以上強くなってどうするつもりなのだろうか…。
「では、そろそろ出発します。」
「気をつけてな。」「カインお兄様、また来て下さいねっ!!」
カインは2人に手を振った後、転移術を発動させる。
「また会いましょう、[転移+《ナタール》]。」
淡い光に包まれていくカイン。こうして波乱の10日間過ごしたスピリュークを旅立って行くのだった…。
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「グランドマスターに会うために推薦状を書いてくれだとっ!!」
1ヶ月ぶりにナタールへと帰って来たカインは、ギルドマスターであるイジェルの元へやって来ていた。
依頼達成の報告はもちろん、他にも目的があって来たのだが…。
「そうです。冒険者ギルドのグランドマスターと会って話したい事があるんですよ。」
驚いたように大声を出したイジェルに対して、平然と話を続けていくカイン。
ギルドのグランドマスターとは、冒険者ギルドを管理している人の中で1番偉い人だ。ギルドの総本山であるストンブルグに居るのだが…。
「だからって、そんな簡単に会える人じゃ無いんだぞっ!!何を話すのか知らないが正式な手続きも必要となる。」
そんな簡単な話じゃないと分かっているイジェル。
ギルドマスターの自分でも滅多に会えないので、普通のAランク冒険者では絶対に会ってくれないのだ。
「そこをイジェルさんの力でなんとかお願いします。」
しかし、平然と頼み続けるカイン。
「はぁ…。無茶苦茶だなぁ…。残念ながらSランク冒険者ならともかく、Aランク冒険者になったばかりのお前では会わせられない…。」
溜め息を吐きながら、カインがグランマスターに会うのはどうしても無理だと言っているイジェル。
「では、Sランク冒険者になれば良いんですね。」
世界で10人しかいないSランク冒険者になると簡単に発言するカイン。普通の人なら笑って済む話だが…。
「……まぁ、カインなら可能性は0では無いな。でも、どうやったらSランクになれるか知っているのか?」
「いや、知らないですね。どうやったらSランクになれるのかを説明してもらえますか?」
Sランクという存在は知っているカインだったが、どうやったらなれるのかまでは知らないようだ。普通に過ごしていてもSランク冒険者には会うことすら無いのだ。
「そもそもSランク冒険者は10人しかいない…。何故なら10人しか存在出来ないからだ。」
「10人しか存在出来ない?」
イジェルの言った言葉を聞き返すカイン。
「ああ、Sランク冒険者というのはランキング戦で勝ち上がった上位10名の冒険者がなる決まりとなっている…。
ちなみにランキング戦というのは、5年に1度開催されるAランク冒険者以上が出場する事が出来る武道大会の事だ。Aランク冒険者といっても各ギルドの推薦状が無いと出場出来ないがな。
ギルドの信頼と実績のある者しか選ばれることは無い…。」
カインに分かりやすく説明していくイジェル。その説明を黙って聞いていたカインは…。
「じゃあ、その推薦状お願いします。」
「お、おいおいっ!!簡単に言うなよっ!!」
軽く頭を下げて頼んで来たカインに対して大きな声で言い返すイジェル。
「ナタール支部からも推薦状を出せるんですよね?それとも、他に推薦したい人がいるのですか?」
それでも平然と質問していくカイン。
「……今年はチンバンを推薦しようと思っていたが…。」
カインを見ながら複雑な表情をするイジェル。
「いや、あの人弱いからあり得ないでしょ。」
カインは、模擬戦でボコボコにしたチンバンがランキング戦に出場する事は納得出来ない。
「はぁ…。だろうな…。チンバンもお前が望んでいると知ったら絶対に譲るだろう。」
カインの発言を聞いて溜め息を吐くイジェル。
「それなら…。」
「ああっ!!推薦してやるよっ!!!」
殆ど投げやりな感じで推薦すると言ってきたイジェル。なんだかんだ言っても結局は推薦する事になったので複雑な心境だ。
「さすがイジェルさん、ありがとう御座います。」
笑顔でお礼を言うカイン。
そんなカインを見たイジェルはふと思った…。
「ちょっと待てっ!!お前、初めからそのつもりだっただろっ!!……よくよく考えてみれば、普通はグランドマスターに会いたいから推薦状を書いてくれとは言わないよな…。」
確かにカインは初めから推薦状をイジェルに頼んでいた。まだランキング戦の話をしていなかったのに…。
「ようやく気が付きましたか。お疲れ様です。」
笑顔でイジェルを労うカイン。
「くそっ!!はめられたっ!!やっぱりカインを推薦するのは「一度言ったことを撤回するなら母さんに言いつけますよ」……わ、わかったよ。」
カインに、ここまでの流れを全部誘導された事に気が付いて推薦を撤回しようとしたイジェル。しかし、ミストラルの事を言われて大人しくなる…。
イジェルは小さい頃から100年以上お世話になっているので、ミストラルには絶対に頭が上がらないのだ。
「では、また明日取りに来ますね。」
最後にそう言い残して部屋を出て行くカイン。
そんな後ろ姿を見送りながら…。
「カインのやつ、ミストラル様に似ているな…。ダメだ…逆らえない…。」
年下の14歳の少年に言い負かされたイジェルは、カインとミストラルの血の繋がらない親子に対して恐怖を抱くのだった…。
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イジェルに推薦状を貰って直ぐにナタールを出発したカイン。現在はランキング戦が開かれる場所、ギルド本部のある都市ストンブルグへと向かっていた。
(この調子なら10日で着きそうだな。)
転移門も使えない、転移術も行ったことのある場所にしか使えないので、カイン特製の魔導四輪『ジェットブラック』で移動していた。
空を飛ぶことも出来るので、徒歩なら3か月以上かかる距離を10日で到着することが可能である。
(うーん…。Sランク冒険者か…。)
この世界でも最高位の存在である、神獣、七星天兵団の師団長、副長……それと並ぶ者達がSランク冒険者だ。
カインは四色のエレメントを使いこなし、冒険者達の頂点である存在達を相手にどう戦うかを考えていた。
(ランキング戦ではエレメントの顕現も可能だし、エレメントが覚醒していない生身の俺では正直辛い戦いになるだろう…。
覇気を上手く使って立ち向かうしか無いか…。)
エレメントが覚醒していないカインにとって、唯一のアドバンテージである覇気を上手く使わないと上位10名には入る事が出来ない。
1ヶ月後に開かれるランキング戦について色々と考えていくカイン。
(まぁ、ゆっくりと考えていくか…。)
まだまだ時間的にも余裕があるので考える時間があると思っていたその時だった…。
ファンファンッ!!ファンファンッ!!
突然、アラーム音が車内に鳴り響いた。
(……何か敵意を察知したようだが…。)
ジェットブラックに搭載されている索敵機からの警告音。その音を聞いて、この魔導四輪に攻撃しようとしている者がいるのだと判断した。
そして……。
ドォォォォンッ!!!!
爆発音とともにジェットブラックの車体が揺れる。何者かから攻撃を受けたらしい…。
(ジェットブラックには防御結界を張っているから破壊される問題ないだろう。
後は攻撃した者を確認しに行くか……。)
そんな状況でも冷静に分析していくカイン。このジェットブラックを攻撃した目的を聞き出す為に、操縦を自動飛行運転へと切り替え外へと出て行った。
(こ、これは……。)
外へ出たカインは予想外の存在がいた事に驚いた。
「えーと…。君は?」
とりあえず、外へ出て直ぐに視界に入ってきた者へと質問をするカイン。
「ガルルルルッ!!!!」
唸り声を上げる全長10mはある橙色のドラゴン。
そして、ジェットブラックの隣を飛んでいるドラゴンの背の上には、桃色の髪に2つの短い角を持つ竜人族の美少女が立っていた。
その竜人族の女の子はカイン対して言い放つ…。
「お前こそ何者じゃっ!!この空は妾の領域じゃぞっ!!」
次回、ゲイドルビュード家…。
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