53話 母親の在り方
親の思い…。
カインがバルシリガ家に潜入して10日目。
ようやくジェニファを拘束する手配が整ったので、現在カインはスナイデルの執務室へとやって来ていた…。
「スナイデルさん……。」
カインはスナイデルに気を使いながら名前を呼ぶ。自分の妻が黒だった事が確定したので少し落ち込んでいるようだが…。
「いや、ここまで証拠が出たら私としてもきちんと対処しなければならない…。たとえ身内だとしてもだ…。」
内心では色々と思うところがあるが、冷静に判断をしているスナイデル。身内だからこそ有耶無耶にはできないらしい…。
「先日の決闘でも不正を働きましたしね…。何故あれだけザック・バルシリガの勝利を確信していたのか良く分かりました。」
「神聖な決闘に不正をしただけでも重罪だからな。」
実は、ヒロのと決闘で不正をしようとしていたジェニファ。妙にカインの勝利に自信があった理由が裏で細工をした為だったのだ…。
「ヒロの料理に毒薬を仕込んだり、刀にも不良品を用意したり………やりたい放題でしたね。」
とりあえず、勝つためには何でも実行したジェニファに呆れているカイン。
それも、全て自分ではやらずに侍女を通してやるという自分には害が及ばない手法をとっていたのだが……。
「その侍女はこちらで用意した者で未然に防いだから良かったけど、もし実行されていたらバルシリガ家とキサラギ家で戦争が起こっいたぞ。」
皇族同士の争いまで発展しそうな事だったので真剣な表情になるスナイデル。もしそうなれば、お互いの被害が物凄い数になっていただろう…。
「まぁ、予想通りに動いてくれたおかげで助かりましたね。それにザック・バルシリガの犯した罪の隠蔽の証拠もあるので後は……。」
「そうだな…。ではジェニファを呼ぶことにしよう。」
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ジェニファを執務室へと呼び出したスナイデル。現在はカインを合わせた3人が椅子へ腰掛けている…。
「あら、私に何か用でもあるの?」
呼び出された理由が全く分かっていない様子のジェニファ。笑顔でスナイデルを見つめているが……。
「そうだ。これまで犯した罪の事について…。」
真剣な表情で語るスナイデル。カインも黙ってジェニファの様子をうかがっている。
「……そう、証拠がつかめたのね?」
少しの沈黙のあと、否定はせずに聞き返したジェニファ。表情も真剣なものへと変わっている……。
「ああ、全てな…。どうしてこんな事をしたんだ?」
そんなジェニファの態度を見て複雑そうな表情をしながら問いかけるスナイデル。
全く慌てた様子を店なジェニファは…。
「そんなの決まってるわ。ザックちゃんの為よ…もうこの世には居ないザックちゃんのね…。」
「っ!!!!……気が付いていたのか…。」
まさかの発言に驚くスナイデル。カインの擬装は完璧なのでバレているとは思わなかった。
「ザックちゃんは私をずっと避けていたから、こんなにも相手をしてくれるなんてあり得ないわ。
名前は知らないけど、ありがとうね。」
隣に座っているカインを見ながら微笑むジェニファ。
「…それは失礼しました。[元還転化]。」
ジェニファの言葉を聞いたカインは椅子から立ち上がり仙術を発動させた。身体が光に包まれていき元の姿へと戻っていく。
「ようやく、本当の貴方に出会えるわね。」
嬉しそうにカインの方を見ているジェニファ。
そして、本来の姿戻ったカインは……。
「改めましてカインと申します。」
名乗った後にジェニファに向けてお辞儀をした。そんなカインを見たジェニファは……。
「あらっ!!物凄くカッコいいわねっ!!」
驚いた様子でカインの顔を見ている。
そんなジェニファの様子にスナイデルが…。
「……なぁ、ジェニファ。どうして…。」
普段と変わらない自分の知っている妻を見て、やはり罪を犯した事が納得出来無いようだ。本来のジェニファは温厚であり親しみやすい性格をしている。
そんなスナイデルの思いを察して…。
「……さっきも言ったでしょ。ザックちゃんの為。どんなに罪を犯したとしても庇ってあげるのが母親よ。」
今度は真剣な表情になりながら話し始めるジェニファ。自分なりの信念に基づいて行動をしているようだが…。
「だからと言ってっ!!許されることではっ!!」
いつも冷静であるスナイデルが椅子から立ち上がり声を荒げた。そんな珍しい行動をした自分の夫を見て…。
「……ごめんなさい…。」
「ジェニファ……。」
真剣な表情でスナイデルに頭を下げるジェニファ。その様子を見て悲痛な表情をするスナイデル。辺りが沈黙に閉ざされていく…。
そんな2人の様子を黙ってみていたカインだが…。
「何故、決闘の時にも不正をしたのですか?」
少し納得出来ない事が残っていたのでカインがジェニファに質問をした。ずっと考えていたのだが、ザックでは無いと知っているなら必要ないと思っていたのだ。
そんなカインを見てジェニファは微笑みながら……。
「ふふっ、擬装していたとは言え貴方は私の息子なんだから、死なないように手を回すのはあたり前でしょ。」
「ジェニファさん……私には貴方の考えがまったく理解できません。」
カインはジェニファの行動が何ひとつ納得出来ない様子だ。親とは言え庇うにしても限度がある。
「まぁ、貴方も子供が出来て親になれば分かるわ。」
相変わらず笑顔で答えるジェニファ。
その話を黙って聞いてきたスナイデルが…。
「でも、罪は罪だ。残念ながら……。」
本当に残念そうな表情をしながら告げた。
「ええ、覚悟は出来ているわ。ザックちゃんが死んだと分かった時から、私はいつ捕まっても良いと思っていた…。
でも、最後にカインくんと過ごしたかったの。私の想像していた理想の息子だったからね…。」
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結局全てを認めたジェニファは七星天兵団によって拘束された。
バルシリガ家の不祥事が公になりスナイデルは当主としての対応に追われる事になった。
その一方、カインは自分の役目を終えたので次の目的地へと向かう準備をしているところだ。
(親になれば分かるか…。)
ジェニファに言われた言葉の意味について色々と悩んでいるカイン。私利私欲の為ではなく、子供の為に罪を犯してまで庇う気持ちが全く理解出来無いのだ。
今回は親の愛には色々な形があるという事だけ理解した。ミストラルみたいな母親もいれば、ジェニファみたいな母親もいる。
まだ子供であるカインにはまだまだ分からない感情だった…。
(でも、本当は俺みたいな息子を理想としていたなんて……。親ってものは難しいんだな。)
未だ14歳のカインが理解するには当分先の事になるだろう。そもそも恋愛に疎いカインに子供が出来るのかも怪しい……。
(まぁ、とりあえずは目先の目標について考える事にしよう。
まずは…。)
カインは次の目標を決める。だが、次の目的地は皆が待っているオボルでは無かった…。
(……向かうか、ギルドの総本山であるストンブルグへ…。)
次回、ギルドの総本山へ…。
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