51話 幼馴染みとの決闘
ヒロは勝てるのか?…。
「おい、死ぬ覚悟は出来たか?」
ヒロは10m先で向かい合っているザックに偽装したカインに対して言い放つ。
ようやく決闘の準備が整い、現在カインとヒロの2人は闘技場の舞台の上に居た。
この闘技場には観客席もあり何千人も観戦できる造りとなっている。なので審判を務めるスナイデルやジェニファはもちろん、七星天兵団の団員達も決闘を見に来ていた。将来上司となる次期バルシリガ当主の実力を見に来たのである。
そんな大勢いる観客の中で唯一ヒロの身内であるスズも最前席で2人の様子をジッと見つめていた…。
「戦う覚悟はありますが死ぬ覚悟は出来てません。」
「ちっ、後で命乞いしても遅いからなっ!!」
平然と答えたカインに舌打ちをするヒロ。カインの余裕のある態度が気にいらないようだ。
「まぁ、どちらにしても命乞いはしませんよ。
始める前にルールの再確認をしましょうか。」
今回、決闘のルールを事前に決めていた。
●武器や防具については七星天兵団が用意。
●エレメントの顕現は禁止。
●回復魔法や回復アイテムの使用禁止。
●代理は不可で本人が戦う事。
●相手が負けを認めるか戦闘不能で敗北。
●相手を殺した場合でも殺した方の勝利。
「……というのが事前に決めていたルールですが、異存はないですよね?」
もう一度確認して再度ヒロに異議は無いかを聞いていくカイン。
「ああ、どちらにしても俺の勝ちは揺るがない。今までお前がやって来た事を命を持って償ってもらう。」
そう言いながら七星天兵団の用意したBランクの太刀を抜き、両手で構えながら剣先をカインに向けるヒロ。
その身体からは闘気が溢れ出ているようだ…。
「随分やる気のようですね…。では、そろそろ始めましょうか。」
対するカインも七星天兵団から借りたBランクの剣を右手で抜き、ヒロへと剣先を向けた。
「よし、2人とも準備が出来たようだな。」
2人の準備が出来た事を確認したスナイデルが開始の合図をする。
「では、始めっ!!」
スタートと同時にヒロが動き始める。
「うぉぉぉおおーーっ!!!」
雄叫びを上げながらカインとの距離を一気に詰めていく。魔法が主体であるザック・バルシリガを相手にするには有効な手段である。
「剣なる風よ[ウインドブレイド]。」
カインが風系統の中級魔法を詠唱短縮で発動させた。本来は無詠唱で発動出来るのだが、ザック・バルシリガとして戦うつもりなので手加減しているのだ。
そんなカインの魔法で作られた風の刃がヒロへと迫っていくのだが……。
「こんな攻撃、無駄だぁぁーーっ!![鬼斬]っ!!」
カインに詰め寄る速度を全く落とさず、カインの放った風の刃に向けて闘気を纏った太刀で振り払った。
ヒュッ!!ブォォッ!!
鋭い閃光とともに風の刃を断ち切るヒロ。
「うぉっ!!」「ま、魔法を斬ったぞっ!!」「さすがキサラギ家…。」「あれが月鬼流か…。」
魔法を太刀で斬るという普通ではありえない離れ業をしたので、周りの観戦者達がざわめく…。
そんな中、ヒロは速度を全く落とさずに更にカインとの距離を詰めていき…。
「一撃で決めてやるぜっ!![鬼閃一文字]っ!!」
闘気を纏った太刀を高速でカインに振り下ろした。物凄い闘気が込められている闘技によって、ザック・バルシリガとの決闘をこの一撃だけで決めるつもりらしい。
「ザ、ザックちゃーーんっ!!!」
その様子を観客席で見たいたジェニファは思わず席から立ち上がって叫び始める。このままではカインが真っ二つになってしまうと思ったのだ。
確かに相手がザック・バルシリガなら反応出来ない速度と力を持つ一撃だ。本当にそれが本人なら…。
キンッ!!!
高い金属音が辺りに響く。カインがヒロの放った闘技を剣で受け止めたのだ。しかも片手でその場を一歩も動いていない状態でだ。
「おおっ!!」「片手であの闘技をっ!!」「さすがザック様ですっ!!」「あんなに強かったんだ…。」「す、すげぇ生身で…。」
決闘を見ていた七星天兵団の者達も驚きの声を上げた。相当な威力を持った闘技を何もしていないただの剣で受け止めた事に感心しているようだ。
それは受け止められた本人が1番衝撃的だった…。
「なっ!!受け止めただとっ!!」
自分の渾身の一撃が簡単に受け止められた事に驚くヒロ。
2年間地獄のような環境(ナンパ出来ない環境)で鍛え上げた闘技を魔導師である(と思っている)ザック・バルシリガに防がれたので驚くのは仕方無い。
「……[エアストーム]。」
そんな驚いているヒロに対して、今度は何も持っていない左手を向け無詠唱で魔法を発動させたカイン。
ゴォォオッ!!
ヒロの足元から竜巻が発生して、身体を巻き込み吹き飛ばしていく。
「う、うぉぉぉおおーーっ!!!」
攻撃を仕掛けた時とは全く違う意味の叫び声を上げながら、宙を舞っていくヒロ。そして、竜巻によって身体のあちこちにも傷が刻まれていく…。
「さすがザックちゃんっ!!!」
さっきまで心配そうに見ていたジェニファだったが、今度は正反対の意味で興奮していた。
「ザック様ってあんなに器用だった?」「てか、剣術そんなに出来なかったような…。」「いつの間にあんな力を…。」「エレメント使わなくても強いんだな…。」
カインの右手で攻撃を受け止めて左手で魔法を発動させるという達人技に対して、観戦者達も色々と思うところがあるようだ。
(……やり過ぎたか?でも、ザック・バルシリガの実力を知らないからな…。まぁ、小手調べみたいなものだから大丈夫だろ。)
周りのざわめきを聞いて、やり過ぎたと思い始めるカイン。しかし、これでもかなり手加減しているので問題ないと思っていた…。
そんな事を考えている中、ようやくヒロが空から着地をしてきた。
「く、くそ…。油断したぜ…。
だが、これからが本番だっ!!」
息を荒げながら悔しがるヒロ。そして、ザック・バルシリガ(だと思っている)が予想外の実力者だと分かり顔を引き締めて行く。
「では、全力でお願いします。」
余裕の表情をしているカイン。殺したい相手のそんな表情が気にいらないヒロは濃い殺気を放ち始める。
「いい気になってんじゃねぇっ!!!」
再びカインに詰め寄っていくヒロ。先程よりと早い動きで攻撃を仕掛けているが……。
「遅いな…。」
ボソッと呟いたカインは、ヒロが反応出来ない程の速度で逆にヒロとの距離を詰めた。これは縮地法では無く、単純な身体的速度で上回っているのだ。
「は、早いっ!!」
一瞬で距離を詰められたヒロは、驚きながらも咄嗟に太刀を振るう。非常に鋭く早い一撃なのだが…。
キンッ!!!
しかし、ヒロの攻撃を完全に見切っているカインには全く意味が無い。簡単にヒロの攻撃を受け止めた。
「うぉぉぉおおーーっ!!!」
雄叫びを上げながら、受け止められても攻撃を続けていくヒロ。
キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!
全てを受け止めるカイン。このままではいくら攻撃しても意味が無いだろう。埒が明かないと判断したヒロがカインとの距離を取ろうとするが…。
「くそっ!!」
思わず声が出るヒロ。カインが距離を取らせてくれなかったのだ。
そんな1mの間合いを維持したままで今度はカインが攻撃を仕掛けた。
「……攻撃は見た、守りはどうかな。
[サイクロンブレイク]。」
凄まじい闘気纏った剣がヒロへと高速で迫っていく。サイクロンブレイクは風系統の上級闘技であり、斬撃性に特化した全てを切り裂く技だ。
その技を見たヒロは突然叫び始める…。
「そう言う事かぁぁぁぁーーっ!!
ちくしょぉおーー[滅鬼十文字]だっ!!」
カインの闘技に対抗して同じく上級闘技を咄嗟に発動させた。風系統と無系統の闘技が衝突して、物凄い衝撃波が発生する。
ドォオオオオオオッ!!!!!
2つの上級闘技が衝突した事で発生した衝撃波は、勢いそのままで闘技場内にある観客席にも迫っていく。
「ぐわぁぁーっ!!」「やばいやばいっ!!」「うぉぉーーっ!!!」「ちょ、この闘技場の障壁はどうしたんだよっ!!」「そ、それはスナイデル様が不要だとっ!!」「た、助けてくれぇっ!!」
凄まじい衝撃波が観客席にいた七星天兵団の団員達にも直撃した。
小隊長以下のクラスの団員しか居なかったので、まともに防げる者は居なかった。スナイデルにより、防御障壁も無かったので団員達は衝撃波によって吹き飛んでいく。
「ははっ、いい闘技だなっ!!!」
吹き飛ばされている七星天兵団の団員達を見ながら笑っているスナイデル。自分にも衝撃波が来たのだが軽くいなしていた。
「ザ、ザックちゃんっ!!!凄いわぁぁあ~っ!!」
カインの放った闘技に感心しているジェニファ。自分の周りにだけ魔法で風の障壁を発生させて衝撃波を防いでいた。
そして、その衝撃波はスズにも届いおり…。
(サイクロンブレイクはカイ兄が作った闘技だから、兄貴も気が付いたみたいね…。それよりも無事でいられるかだけど…。)
そんな事を考えながら、水系統の闘技で障壁を発生させて衝撃波を防いでいた。観客席でさえこれだけの衝撃波が届くのだから、一番近いところで反動を受けるヒロに対して同情していた…。
「うぉぉぉおおおーーーっ!!!」
スズの予想通り、カインの闘技を何とか防いだものの完全に力負けしたヒロは一直線に壁へと吹き飛ばされていた。
なんとか体制を立て直そうとするが、物凄い速度で吹き飛ばされたので全然間に合わず…。
ドォォォオオオンッ!!!!!
残念ながら物凄い勢いで壁へと叩きつぶされてしまった。全身骨が何本も折れ、ボロボロになったヒロは意識が遠のいていく中で小さく呟いた……。
「後で…覚えてろよカイン…。」
次回、負けた者…。
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