50話 決闘前に
2年ぶりの……。
「決闘だっ!!お前に決闘を申し込むっ!!」
ザックに偽装しているカインに対して決闘を申し込むヒロ。本来なら今すぐ殺したいと思っているようだが、両者とも皇族である為に正式な決闘という手段を選ぶようだ。
「なるほど、決闘ですか…。もちろん私は構いませんが、お互いに何かを賭けるという事ですよね?」
ヒロ提案を了承した後で質問をしたカイン。
この世界で身分の高い者が決闘をするという事は、何かを賭けて戦うのが決まりだ。
「当たり前だろっ!!!そして、決闘で俺が望むのはお前の命だけだっ!!!」
カインの方を睨みながら命を懸けろと言ってくるヒロ。皇族であるザック・バルシリガを正式に殺す為の手段として行う決闘なので、賭けるものとしては当たり前である。
「な、な、な、何て事をっ!!ザックちゃんの命を狙うなんて、ぜ、ぜ、絶対に許さないわっ!!!」
ヒロの発言に口を震わせながら怒っているジェニファ。そして、物凄い勢いでカインの前に出て来きたのだが…。
「もしかして、お母様は私が敗北すると思っているのですか?心配はいりません。絶対に私が勝ちますので。」
ジェニファを制止しながら自信満々に語るカイン。どこかヒロを挑発しているようにも感じる。
「まぁ、そうだったわっ!!この程度の男にザックちゃんが負けるはず無いものね。」
さっきまでの怒りをすぐに忘れてカインの言葉に同意するジェニファ。根拠は無いはずなのに何故か自信があるようだ。
「ええ、なので決闘の許可を頂きたいのですが…。」
内心信じ過ぎだろと思いながら、全く顔には出さずにジェニファに許可を求めるカイン。
「分かったわっ!!待っててね、ザックちゃんっ!!」
最後にそう言い残して、物凄い勢いで部屋を出ていくジェニファ。さっきまで反対していた決闘なのに、何故か今度は1番張り切っているようだ。
そして、ジェニファが出ていった事を確認したヒロはカインを睨み付けたままで話しかけて来た。
「俺に勝てると思っているのか?残念ながらお前の命は今日で終わりだっ!!!
弱者に権力を振りかざす最低なお前になんかじゃ相手にならないくらい俺は強いっ!!」
力強く俺は強いと言い放ったヒロの言葉を聞いたカインは…。
(俺は強いと言い切るとはな……。本当なら3人になったところで正体を明かす予定だったが、そんなに自信があるのならこのまま決闘するのも有りだな。)
そんな自信満々のヒロを見ていたカインは、さっきまで考えていたシナリオを変更した…。2年ぶりに戦う幼馴染みとの決闘を、どうせなら楽しみたいと思ったようである。
「……凄い自信ですね。ですが、やってみないと分かりません。私が命を懸けるのですから貴方も何かを差し出すのですよね?」
ヒロを更に煽っていくカイン。
「ああ、お前が勝ったらなんでも言うことを聞いてやるよっ!!」
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カインは決闘を行う会場である七星天兵団第六師団スピリューク支部へとやって来ていた。この場所の闘技場を借りてヒロと決闘をする事に決まったのである。
(スナイデルさん、乗り気だったな…。)
ここの場所の仕様を許可したのはスナイデル・バルシリガである。ジェニファから決闘の話を聞いたスナイデルが物凄い乗り気であり、決闘の手続きをあっという間に終わらせてくれたのだ。
現在のカインは、控室にて”とある人物”を待っていた……。
コンコンッ!!「失礼します。スズ・キサラギ様をお連れしました。」
「分かりました。入って下さい。」
カインの言葉を聞いて入ってきたのは、七星天兵団員とスズであった。相変わらずスズの方は凄まじい殺気をカインに放っていた。
「え、えーと…。」
そんなスズを見て困っている七星天兵団員。ここに居て良いのか迷っているみたいだ。
「私は彼女と2人で話をしたいので貴方は退室して下さい。」
「は、はいっ!!失礼しましたっ!!」
とても慌てた様子で部屋を出ていく七星天兵団員。そして、その場に残ったのはスズとカインの2人…。
「では、とりあえず座って下さい。」
スズに椅子へ座るように話しかけたカイン。
しかし、殺気を放ったまま全く動こうとしない。
「私は貴方には用はありません。さっきの七星天兵団員の人が私を連れて行かないと殺されると言っていたので、仕方無く付いて来ただけです。
顔も見たく無いのでこれで失礼します。」
そう言い残して部屋を出て行こうとするスズ。恨みのあるザックに対して、怒りの感情しか無いようだ。
そんなスズを見ていたカインは…。
「はぁ…。昔のスズに戻ったみたいだな。」
溜息を吐きながらも、懐かしそうに顔をほころばせるカイン。出会った頃のスズを思い出しているようだ。
そして、その言葉を聞いたスズの歩みが止まりカインの方へ振り返った…。
「何を言っているのです?」
さっきまでは全く興味が無いという態度をしていたスズ。しかし、カインの言葉を聞いて興味が湧いたようだ。
「いや、久しぶりにスズに冷たい態度を取られたから懐かしくてな。昔はこんな関係だったなと思っただけだ。」
スズに対して微笑みながら言うカイン。出会ったばかりのスズには今のヒロと同じ扱いをされていたので、とても懐かしいと感じていた。
「えっ……。ま、まさか…。」
その言葉を聞いたスズは、目を見開きながらカインを見つめる。そして、その目からは涙がこぼれ始めていた。
「ははっ、やっと気が付いたみたいだな。2年ぶりか……[元還転化]。」
ピカァッ!
笑いながら、仙術である元還転化を発動させるカイン。淡い光に包まれながらも、ザックの姿から元の身体へと戻っていく。
そして、完全に光が消えた場所には本来の姿に戻ったカインが存在していた。
そんなカインの姿を見ていたスズは…。
「カ、カイ兄ぃぃぃいーーっ!!!」
泣き叫びながらカインの元へ走っていく。そんな様子を見たカインも椅子から立ち上がり、向かってくるスズに対して手を広げた。
ギュウウウウウッ!!
泣きながら走っていったスズはカインを強く抱きしめる。かなり勢いがあった為2人は一緒に椅子にダイブをした。
そんな椅子な上でカインもスズを優しく抱きしめる。
「ごめんな、心配をかけて。」
スズの頭を撫でながら優しい言葉で謝罪をするカイン。普段は絶対に見せないスズの様子から察して、余程自分が心配をかけたと感じたみたいだ。
「ううん、カイ兄の事信じていたから…。またいつか絶対に会えるから、その時まで私も頑張ろうって…。」
涙を流しながらも笑顔をカインに向けるスズ。
そんなスズに対してカインは…。
「相変わらずスズは可愛いなぁ…。でも、2年間でとても美人に成長しているし初め見た時はびっくりした。」
「えっ、あ、ありがと…。カ、カイ兄も背も高いし、もっとカッコよくなって……。」
美人と言われて頬を染めるスズ。そして、改めてじっくりとカインを見て更に顔を赤くしている。
しかし、そんなスズに対して爆弾を投げるカイン…。
「スズは美人だし皇族だし俺には完全に高嶺の花だな。もしかして、婚約者とかもう居るのか?」
自分に好意があると全く思ってない為に言ってしまう…。
「そ、そんなわけ無いでしょっ!!こんな私に婚約者とか出来ませんっ!!」
カインの発言に対して全力で否定するスズ。好きな人に婚約者がいると思われたら最悪なので必死である。しかも、カインは恋愛において一度勘違いをしたら非常に引きずるタイプなので、きっちりと完全否定しておく必要がある。
「必死なのが怪しいな…。別に隠さなくてもいいのに…。」
せっかく完全否定したのに余計に怪しまれる事になってしまう。そんなカインの発言を聞いたスズは…。
「わ、私が好きなのは……カ、カイ兄だから…。」
顔を真っ赤にしながら告白するスズ。成長してお年頃になった現在では以前よりも恥ずかしく感じるのだ。
「ん?俺もスズの事は好きだ。なんたって可愛い妹分だからな。」
スズの告白に対して、当たり前のように微笑みながら告げるカイン。完全に異性として見られていない発言をされたスズは…。
「…………まだ、頑張りが足りないのかなぁ…。」
物凄く悲しそうな顔をしながら下を向いてしまった。まだまだ自分には魅力が無いと感じて落ち込んでいるようだ。
しかし、カインは何でスズが落ち込んでしまったのか理解出来ない為に的外れな発言をする…。
「いや、スズはかなり成長したと思ったな。さっき客間で俺を殴った力は中々のものだった。」
殴られた事を面白そうに笑っているカイン。しかし殴った方のスズは…。
「そ、そういえばっ!!あれはカイ兄って事になるんだっ!!!…え、えーと………ご、ご、ごめんなさいっ!!」
かなり動揺しているスズ。大好きな人を勘違いとはいえ思いっきり殴ってしまった。どうしたら良いのか分からずに凄い慌てながら必死に頭を下げた。
「別に気にして無い。そんなに慌てるなんてスズはやっぱり可愛いなぁ…。」
動揺しているスズに微笑みながら再び頭を撫でていくカイン。久しぶりに会った妹分がとても可愛いみたいだ。
「こ、子供扱いしないでよっ!私だって成長したんだからねっ!!」
口を尖らせながら不満そうな顔をしているスズ。自分の事を子供扱いされるが気にいらないようだ。それでも撫でられるのは嬉しいので頭は動かさない…。
「それは分かってる。初めて見たけどその着ている服も可愛いし、スズの髪も昔と違ってかなり長くなったようだな。」
スズの着ている女袴と黒髪を纏めている簪を見ながら話すカイン。スズの付けている見慣れない物が珍しいようだ。
「これはね、私の故郷の服装なんだよ。この髪留めも故郷の装飾品で初めは違和感があったけど今では気に入っているかな。
それに、髪も伸ばしてみたかったし…。」
故郷の品を説明していくスズ。最後の言葉は、少しでも大人に見られたいと思い髪を伸ばしていたという事だ………それもカインとの再会を考えてである。
「なるほど、よく似合っていて可愛いな。今度俺も作ってみよう。そしたらスズは受け取ってくれるか?」
スズの説明を受けて、さっそく工作意欲が湧いてくるカイン。出来たらスズにプレゼントすると言っている。
「も、もちろんだよっ!!!嬉しいなぁ…。一気に幸せになった気分…。」
自分の為に作って貰えると聞いて嬉しそうにしているスズ。久しぶりにカインと再会出来たし、プレゼントも貰えるとあって幸せを感じているようだ。
しかし、忘れている事がある…。
「でも、とりあえずはヒロとの決闘を頑張るけどな。」
カインが当たり前のように発言するが…。
「あぁぁーっ!!!決闘の事忘れてたぁっ!!そ、そういえば何でカイ兄がザック・バルシリガに?」
「それはな……。」
会えたことが嬉しすぎて完全に忘れてしまっていたスズ。そんなスズに対してこれまでの経緯を説明していくカイン。
そして、ある程度話し終えた後…。
「なるほど…。潜入して証拠をね…。
でも、カイ兄とバカ兄貴が決闘する意味あったの?」
カインの話を聞いて大体の事を理解したスズだったが、1つ疑問に思った事を質問した。
「ん?…ああ、それはヒロが俺に対して絶対に勝つみたいな事を言ってきたから、それなら戦ってみて判断しようと思ってな。」
2年ぶりの幼馴染みとの戦いを楽しみにしているカイン。わざわざヒロには正体を黙っておいて全力で戦ってもらおうと思っていた。
「それは、ザック・バルシリガに勝てると言っただけなんだけど……。まぁ、最近調子乗っていたから痛い目に合ってもらうかな…。」
完全に趣旨が変わってしまった決闘だが、ヒロには丁度いいと判断した。
これから起こる戦いを想像してボロボロになるヒロが頭に浮かぶスズ。
「俺もヒロに2年間の修行の成果を見せてやる。」
カインは物凄いやる気を見せており、ヒロとの決闘は全力で戦うつもりのようだ。
(…兄貴、死んだかな…。)
ボロボロどころでは無くなりそうな話になると思いはじめたスズ。
この後も、2年ぶりの再会を果たした2人は色々な話をしながら決闘まで時間を潰すのであった…。
次回、鼻をへし折る…。
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