4話 命名ナンパ野郎
ようやくあの子が…。
ティアと知り合ってから、もう2ヶ月が経った。時折オルナティブに2人で行き、ティアと一緒に魔法の鍛錬を行っている。
最近では、3人ともかなり魔力の使い方が上手になって来ているようだ。
ギルド内にある魔法研究室にて…。
「はぁ…。ティアもエルも、あっという間に二重詠唱ができるようになったね。俺なんて半年もかかったというのに…。」
「いやいや、私達はまだ安定してないし。それに、カイくんのそれは無詠唱込みの日数だよねっ!二重詠唱だけなら1ヶ月もかからなくて、ミスティさんもびっくりしていたんだし。」
「えっ!それはかなり凄いよっ!私のお母さんは、かなりの使い手なんだけどね。その天才と言われている、お母さんと同じくらいの習得速度なんじゃないかな?」
「ティアのお母さんねぇ…。俺は会ったことはないけど、話を聞く限りミスティさんと、どっちが凄いのかなぁ。」
「うーん…。私はミスティさんを知らないけど、実際魔法にかけては負け無しって自分でも言ってるからね。」
「ふーん。それは是非ご教授願いたいものだ!」
カインとエルミナは、ここ2ヶ月で10数回訪れてはいる。しかし、まだティアのお母さんとは会えていない…。
各地を股にかけて活躍していると”聞いている”。
「ま、まぁお母さんの話はまた今度と言う事で…。そ、そういえばカイン達には、もう一人のパーティメンバーがいるって聞いてるけど、一体どんな子なのかな?」
「うーん。カイくんと違ってかなり熱血のナンパ好きの奴って感じかな?」
「うん、あいつがあの歳でナンパ野郎な事だけは否定はできないかな…。」
二人とも苦笑気味である。
「ナ、ナンパって…。私達と同じ歳だよね?12歳でナンパって…。ちょっと想像は出来ないかな。」
「まぁ俺と違って実際モテているし、あいつは人気者だからね。ちょっと調子に乗ることはあるけど、人情深い奴だよ。」
カインは堂々と言っていたが、二人の反応は微妙である…。
(カインくんも十分モテると思うんだけど…。エルミナちゃんの言う通り、さすがって感じかな。)
(カイくんがこんな感じだから、余計にナンパ師になっているんだと思うんだけどなぁ…。)
と、いった感じだ。
ちなみに、このナンパ師がナンパする時は、だいたいカインと一緒にいる事で、勝率を上げるという必勝法を持っている。
ナンパ師も顔立ちは整っているが、やはりカインの方が圧倒的に人気である。
「まぁ、あいつは明るい性格で少し調子に乗ることもあるけど、俺達のパーティの盛り上げ役って感じかな。」
「ふーん…。そういえば、何でその彼は、一緒に魔法の鍛錬をしないの?」
「あいつは、魔力量が少なくて、魔法を使うと直ぐに枯渇してしまうんだよ…。それで【闘気】をメインに使う両手剣士だからね。」
この世界には、魔力の他に【闘気】が存在する。魔力量もあるが闘気は気量と呼ばれる、人によって最大量がかわるものがある。
この闘気は主に【闘技】と呼ばれる、闘気を使った技を用いて攻撃することができる。
闘気も魔力も相手に直接ぶつける事によって、量の多い者なら相手を威圧する事も可能だ。
「そうなんだ。私はお母さんと同じ、魔力メインの魔剣士だから闘気は苦手なんだよね…。エルミナちゃんは闘気は使えるの?」
「うーん。私は剣もダメだし、完全に魔法によるサポートタイプだからね。闘気は最低限の護身にしか使えないよ…。」
2人は、闘気についてはあまり得意ではないみたいだ。カインは幼い頃から1日中剣を振ってるうちに、我流で闘気の扱いをしてきたので、魔力よりも今の所は扱いは上手である。
「なるほどね…。ねぇ、今度一緒に、皆で討伐クエストに行かないかな?私はあまりパーティで戦った事が無いから一度やってみたかったんだよ。2人のことは信頼してるから安心出来るし。」
「うーん、俺は大丈夫だけどね。もれなくアイツも付いてくるけど、そっちの方は大丈夫なのかな?」
「うん、ティアちゃん的にはいない方がいいかも?」
「……なんかパーティメンバーなのにナンパ君の扱いが…。」
「いや、ティアちゃんも、一応名前教えているのにナンパ君て…。」
「まぁ、あいつの事だからね。とりあえず、それで良いと思うよ。また日付決まったらその時はよろしくっ!」
「うん、楽しみに待ってるね。」
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「………ってな感じでお前の事は、ちゃんと紹介しておいて上げたからなっ!ありがとうは?」
「ちょっ、うぉぉっーーいっ!!
なんでその内容で、礼を言わなきゃならないんだよっ!!!俺の第一印象最悪じゃねぇかっ!!!
カイ、お前ふざけんなよっ!!!」
「うるさいなぁ。どうせ下がるんだから、底辺からで丁度いいんじゃないかな。」
「おま、お前なぁ!!なんで下がる事が前提なんだよっ!!
てか、何だよ名前すら言ってもらってねぇじゃんっ!!!
12歳なのにナンパしかしてない、単に嫌な奴みたいになってねぇか?!」
「さっきからうるさいなぁ…。食事中は静かに食べよう。」
「おいっ!!!誰のせいだよ!誰のっ!!」
カインはパーティメンバーの【ヒロ】と、ヒロの家で晩ご飯を食べている。昼間の出来事を伝えたんだが、さっきからうるさい…。
ヒロは孤児院の出身では無いが、昔からカインとエルミナと一緒に過ごしている事が多い。
孤児院の近くにある、ごく普通?の家庭で育った、黒髪の元気な男である。
現在は、Aランク冒険者の両親とは別で妹と2人で暮らしている。たまに、両親の知り合いである孤児院の院長が面倒を見ているのだ。
「ヒロはさっきからうるさいっ!!…ごめんねカイ兄、こんな馬鹿な兄貴で…。」
「大丈夫だよ。スズが気にする事はないよ。」
「うん、カイ兄は優しいなぁ…。」
ヒロの1つ下の妹で名前は【スズ】である。肩までの黒髪のストレートでまさに大和撫子だ。
ヒロとスズの両親は東方の出身で、黒髪である事が多いらしい。この二人は両親に似て闘気の量が多く、メイン武器は刀である。
「おいっ!我が妹よっ!!!なぜカイに加勢する?てか、なんでカイは兄と呼んでるのに、いつまで経っても俺の事は呼び捨てなんだよっ!!」
「そこは、やっぱりカイ兄とヒロの存在その者の差ってやつ?」
あっと言う間に撃沈。
ヒロは自分から分かっているのに、傷口を広げる…。
「ぐっ!!……それを言われると否定できないから、何も言えねぇ…。」
ヒロはすっかり項垂れている。そもそも土俵が悪い…。
「まぁまぁ、スズ。
いくらこんな兄でも一応兄なんだから、少しくらいは慕ってあげないと。」
「うーん、カイ兄か言うなら仕方ないなぁ…。
とーーーても不満。だけど一応兄だから、人前ではそういう事にするよ。」
全く持って酷い言われようである…。
ヒロは可愛い女の子に片っ端から声を掛けたり、かっこつけたりしているので、スズからはもうほとんど相手にもされてない…。
「………なぁお前ら楽しんでだろ?」
「「そんな事は無い。」」
「おいっ!!!そこでハモるなっ!!!」
だいたい、この3人のやり取りはこんな感じである…。
「はぁ…。もう良いよ…。それより、ティアちゃんだよティアちゃんっ!!お前が言うにはとても可愛いんだろ?
うひょーっ、楽しみだなぁっ!!」
それでもめげないのが、ヒロの長所と短所でもある…。
「カイ兄、あの馬鹿は本気で置いていったほうがいいと思う。」
「あぁ。確かにさっきは、ふざけてたけど現実的になったな…。」
いつまで経っても相変わらずなヒロはヒロだった…。
さすがナンパの神童。
「まぁ、ヒロは無視しておこう…。スズは、この前ランクDになったんだよね?これでようやく俺らのパーティに入れるね。」
そう、今まではパーティメンバーは、カインとエルミナとあと一人と言われていた。それは、ヒロの事ではあるが、何故スズが入ってなかったのというのは…。
「うん。自分自身、ようやく足手まといには、ならないくらいになれたと思う。これからはよろしくね、カイ兄っ!!」
スズは、かなり真面目な性格である。カイン達は同年代よりもレベルが高い。なので遅くにして剣を習いはじめたスズは、自分を律して目標を掲げていた。
それがランクDの冒険者になってからという事だ。
「じゃあ。次の討伐クエストは、新たにスズとティアの2人を迎えて4人で行こうっ!」
「うんっ!前衛として力の限り頑張るねっ!」
こうして、新たな決意を胸に進むのであった。
この若い4人に一体どんな困難が待ち受けているのだろうか…。
「おーい、俺の事は忘れてるぞぉ…。4人じゃなくて5人だろ?」
「「………。」」
完全にヒロはその存在を無視されていた…。自業自得である。
次回はいよいよあの師匠が帰還…。