44話 苦節…。
メリル親方登場…。
従者の2人がオボルに着いた日の翌日。
本来は着いたその日にメリルの鍛冶屋に向かう筈だったのだが、アルディオが色々と暴れた為に夜になってしまった。
なので、翌日に改めて訪れる事にしたのだが2人はまだ宿屋にいた…。
「やっぱり無いぞっ!!我のポケットに入れていた筈なのにっ!!!」
「どうしてもポケットに入れたのですかっ!!!普通はアイテムボックスに入れるものでしょうっ!!」
「我のアイテムボックスθには武器しか入ってないのだっ!!」
「勿体無い使い方をしないで下さいっ!!!」
朝っぱらから言い争いをしているアルディオとソフィア。どうやら何かを無くしたみたいだが…。
「うむっ…無くしたのなら仕方無いな。」
1人で納得しているアルディオ。首を縦に振ってウンウンと頷いていた。
「そんなわけ無いでしょうっ!!!アルディオが我が渡すと言って聞かないから管理させたのですよっ!!そんな態度を取るならカイン様に言い付けますっ!!!」
あまりにも無責任なアルディオに怒るソフィア。早くも魔法の言葉を使う…。
「………あ、主にだけは…。」
一言で狼狽える駄犬。カイン以外なら大丈夫だが、カインだけには怒られたくないのだ。
「はぁ…。それなら思い出してくださいよ。」
ソフィアは溜息を吐きながらアルディオに呆れている。アルディオはバカだが純真な神獣なのだ。
「うーむ…確か最後に見たのはあの時だったか…。」
自らの記憶をたどっていくアルディオ。一番最後に見た記憶を思い起こしていく。
「あの時とはいつの事ですか?」
「確か昨日の夜…急に寒くなってきて…。」
少しずつ思い出していくアルディオ。普段使わない頭を使ってるので、目を瞑ったまま眉間にシワを寄せている。
「確かに昨夜は寒かったですね。
多分カイン様と一緒に寝なかったからでしょう…。」
いつもはカインと同じ布団で一緒に寝ているので、1人で寝たら寒いのは当たり前である。
「そしたら……鼻水が出てきて……。
あっ!!!思い出したぞっ!!!!!」
突然目を開いて大声で叫び始めるアルディオ。ようやく無くし物の事を思い出したらしい。
「ふぅ…。それは良かったです。
それで、いつ無くしたのですか?」
軽く溜息を吐いて一安心するソフィア。結局どこにあるのかをアルディオに聞いてみるが……。
「我が”手紙”で鼻をかんだ時だっ!!!
そして、汚くなったので捨ててしまったぞっ!!!!!」
ドガッ!!
突然、ソフィアがアルディオを横蹴りした。
そして、蹴飛ばされたアルディオが凄い勢いで近くの壁に迫っていき……。
ドォォォンッ!!
大きな音とともに宿屋の壁が吹き飛ぶ。ソフィアはそれだけ強く早い蹴りをアルディオに放ったのだ。
「何をするのだっ!!!!」
しかし、直ぐに起き上がってソフィアに抗議するアルディオ。壁は壊れたが全く無傷である…。
「こちらのセリフですっ!!なんで大切な手紙で鼻をかむんですかっ!!!思わず蹴ってしまいましたよっ!!!!」
殆ど無意識でアルディオを蹴ってしまったソフィア。カインから渡された大切な手紙を鼻をかむ為に使うなどありえない…。
「鼻をかむのに丁度いい紙がポケットの中に入っているのが悪いのだっ!!!」
「自分でポケットに入れたのでしょうっ!!!勝手に入ってたみたいに言わないで下さいっ!!!」
「勝手に入ったのではないっ!!我が入れたのだっ!!!」
「だから、そうだと言ってるじゃないですかっ!!」
壊れた壁の前で口論になった2人。全く噛み合わないアルディオに怒りが増してくるソフィア。全く反省していないアルディオに我慢の限界がくる。
「……分かりました。カイン様にアルディオが言いつけを破ったと報告させて頂きます。今回の件は私も我慢出来ません。」
頬を引きつらせながらカインに全部報告すると告げるソフィア。もはやアルディオにとって死刑宣告である。
「や、や、やめるのだっ!!!あ、主に二度と一緒に寝て貰えなくなるではないかっ!!!!」
物凄い動揺しながら慌てふためいているアルディオ。ご主人様大好き従者にとっては、一緒に寝て貰えなくなるのは大問題なのだ。
「自業自得です…。メリルさんに渡す大切な手紙を捨てるなど言語道断。さすがに今回ばかりは罰を受けてもらいます。」
「……な…な、なんだと…。」
がっくりと項垂れるアルディオ。さすがのソフィアも今回の件は許容出来ないみたいだ。
そんな従者達のところへ……。
「だ、大丈夫ですかっ!!!物凄い音が聞こえ…………か、壁が吹っ飛んでる!!!!!」
爆発音を聞いていた宿屋の従業員が慌ててやって来たようだ。壁が吹っ飛んで外が見えているので非常に驚いている。
「あ、えーと……。」
自分がやったので中々言葉が出ないソフィア。
「一体何があったんですっ!!!!
何かに襲われたのですかっ!!!!」
宿屋の従業員はこの2人がやったとは思っていない。見た目は美少女で明らかに無害そうな2人が、まさか単細胞バカと非常識バカだとは思わないだろう。
「我が襲われたのだっ!!!思いっきり蹴られて大変だったぞっ!!!」
ぶっちゃけるアルディオ。この神獣は絶対に嘘をつかない……いや、つけない。
「ま、待って下さいっ!!これは!!」
「た、大変だっ!!すぐに七星天兵団に連絡してきますっ!!!!!」
アルディオの言葉を真に受けた従業員は、ソフィアの言葉が耳に入らなかった。物凄い慌てながらこの場を走り去って行ってしまう。
「…………………。」
また面倒な事になってしまい言葉が出ないソフィア。走り去っていった従業員の方を見たまま固まっている。
「ソフィアよ、大丈夫か?」
ソフィアの頬をつつくアルディオ。
その後も全く動かないソフィアの柔らかな頬を、しばらくの時間アルディオがぷにぷにしていた…。
結局、その日もメリルの鍛冶屋には行けない従者達であった……。
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「みんな元気にしてるかなぁ…。」
馬車の窓から、懐かしい風景を眺めて呟くエルミナ。
現在はオボルの孤児院へ向かっている。オボルに到着して5日目でようやく自由時間となり、ずっと行きたかった孤児院へ顔を見せる事に決めたのだ。なので、お忍びという形でアンドラと2人で行動していた。
「……………………。」
そんなエルミナを無言で見つめるアンドラ。
結局、カインが行方不明になっている事を言い出せなかったので少し罪悪感を感じている。
「あっ!孤児院が見えてきたよっ!!」
1人ではしゃいでいるエルミナ。2年ぶりに帰ってこれたので、とても嬉しがっているようだ。孤児院に近づいているという事は、ヒロとスズの家も近くにある。
「ここで、止めてね。」
エルミナは、ヒロ達の家の前で馬車を止めるように御者をしている七星天兵団員にお願いした。一番最初はカインに会いたかったのだが、この時間帯では孤児院に居ないと思ったので先にスズとヒロに会うことにしたのだ。
そして、馬車が止まったら直ぐに降りて走ってヒロ達の家へと向かって行った。
「…………ふぅ…。」
家の扉の前で深呼吸をしているエルミナ。2年ぶりに会う幼馴染達と会うことに緊張しているようだ。
結局、エルミナはキサラギ家には行けなかった。魔導飛行船での移動となるので、皇族や天族の挨拶回りでは近い場所にしか行けなかったのだ。
ちなみに、その訪れた皇族や天族にはナイトリーツ家も含まれている…。
コンコンッ!
決心してドアをノックしたエルミナ。そして、誰かが出てくるのを待った。
…………………………………。
しかし、しばらく待っていても人の気配も無く返事もしない。
「…………誰もいないなぁ…。」
期待してたのに誰もいないようなので、かなり残念がっているエルミナ。本心は、カインもこの家に一緒に居れば良いなと思っていたのだ。
(出直すしか無いかな……。とりあえず、孤児院へいってみよう…。)
仕方無く出直すことにして、先に孤児院へと向かうことにした。
幼馴染達が不在で少し落ち込んだエルミナだったが、気持ちを切り替えて孤児院へと入っていく。
そして、子供たちの姿も見えてきて…。
「みんなぁ、ただいまぁっ!!」
大きく手を振りながら孤児院の子供たちに呼びかけるエルミナ。すると、向こうの子供たちもエルミナに気が付いて走り寄ってきた。
「エルミナちゃん、おかえりっ!!」「エルミナ姉ちゃんだっ!!」「エル姉おかえりっ!!」「ほんとだっ!!」「エルミナだっ!!!」「英雄様のおかえりだっ!!」
一瞬で子供たちに囲まれるエルミナ。みんなもエルミナが来てくれて嬉しそうだ。そんな子供たちを見てエルミナは…。
「2年も見ないうちに大きくなったね。でも、顔は変わってないから安心したよ。」
そんな言葉に対して子供たちも言い返す。
「エルミナちゃんは、ますます可愛くなってるけどね。」
「背もかなり高くなって美人だし、着ている服も凄いしやっぱり皇族様は凄いなぁ。」
「エルミナ姉ちゃん、綺麗…。」
現在エルミナは身長165cmくらいに伸びており、綺麗な銀色の長い髪も持つ超絶美少女へと成長している。そんなエルミナの容姿を見て、女の子達は口々に綺麗だと感想を言っているが男の子達は呆然と立ち尽くしていた。完全にエルミナに見惚れているようだ…。
そんな色々な目で見られている事に対して、エルミナは少し照れながら…。
「ふふっ、ありがとう。私も成長した皆と会えて嬉しいよ。でも、色々と話したい事もあるけどあまり時間がないし、院長先生にも挨拶したいから…。」
少し申し訳なさそうにしているエルミナ。自由時間もそれほど長くないので、あまりゆっくりとは出来ないのだ。
「私達の事は気にしないで。……あんな事があったけど、エルミナだけでも帰って来てくれて嬉しかったし…。」
仲の良かった同じ年の女の子が、気にしないでと言ってくる。しかし、その言葉を聞いたエルミナには気になることがあった…。
「あんな事って?」
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「長い道のりだったのだっ!!メリルの鍛冶屋と深淵の樹海は同じくらい遠いのだなっ!!」
「そんなわけ無いでしょうっ!!普通に来ていれば1日目でたどり着いていましたっ!!」
苦節4日……5日目にして、ようやくメリルの鍛冶屋の前までやって来れた従者達。あの後、破壊犯について色々と聞かれたり、手紙の捜索や修復をしたりして非常に大変だったのだ。
しかし、自業自得なので仕方無い…。
「それにしてもさすが主だなっ!!まさか予備の手紙を用意していたとはっ!!」
ウンウン頷きながらカインに感心しているアルディオ。実は、カインが予備の手紙をアルディオのアイテムボックスθに入れていたのだ。大方この展開を予想していたのだろう。
「さすがカイン様です…。わざわざ捜索して修復する必要がありませんでしたね…。」
もちろん、捜索も修復もしたのはソフィア。アルディオはゴロゴロして見ていただけだ。しかし、そのお陰で予備の手紙をたまたま発見出来た。
そんな話をしながらメリルの鍛冶屋に向かっていた2人は、ようやく目的地に到着した。
「頼もうっ!!我が来たぞっ!!」
大声で入っていくアルディオ。いきなりドヤ顔で大きな胸を張るポーズを決めた。
そして、鍛冶屋のカウンターには……。
「……我が来たぞって、わしはお嬢ちゃんと初めてあった筈だけどね。」
2年前と姿が全く変わらない、背の低い赤髪のおさげをしたドワーフ…メリルがそこには居た。
次回、出会う者達
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