41話 有名人の帰郷
オボルの地へ、従者達襲来…。
時は遡り、カインがバルシリガ家のある都市スピリュークへ魔導飛行船で連行される前。
カイン達は、ナタリシア城内の庭にいた。
「はぁ…。何で俺が……。」
溜息を吐きながら項垂れるカイン。ザックに変装してバルシリガ家の本拠地へ向うので、色々とバレないように気を使う事になるのだ。
そんな、元気の無いカインに対して……。
「こっちは我に任せろっ!!これまでに問題を起こした事ないから大丈夫だっ!!主は安心して”逝ってこい”っ!!」
カインを元気付けようと堂々と述べるアルディオ。だが、その発言に納得出来る訳が無い…。
「お前は問題しか起こしてないわっ!!それに”いってこい”の意味が違うだろっ!!
はぁ…。ソフィ、この駄犬を頼む。」
もはや空元気になったカイン。とりあえず、この馬鹿な神獣はソフィアに託すことにした。
「はい、頑張ります。もし、問題を起こしてもカイン様に報告すると言えば大丈夫です。」
笑顔でカインに返事をするソフィア。
しかし、告げ口されるアルディオの方は……。
「ソフィアよ…お手柔らかに頼む…。」
さっきまで元気一杯だったが、カインに怒られるのは嫌なので少し静かになった。
「まぁ、上手くやってくれ。さっき渡した”親方への手紙”と”神樹の葉”を渡せば大丈夫な筈だ。
とりあえず、俺も直ぐに出発しないと行けないから、オボルまでは送るけど後は任せた。」
カインは直ぐに飛行船で出発しないと行けないから、従者達を連れて行ったら直ぐに戻るつもりだ。
転移術は、一度行った場所にしか転移出来ない。ランダムなら出来るが場所を狙うことは無理なのだ。
なので、オボルまではカインが送る事になっている。時間も無いので早速転移術を発動させた。
「では行くぞっ![転移+《オボル》]っ!」
カイン達3人は光に包まれていった……。
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ここはオボルの近くにある平原…。
いきなり光のゲートが出現して、人の姿をした3つの影が中から現れた。
もちろん、カイン達3人である。
「あそこに見えるのがオボルだ。俺は直ぐに戻るから後は任せた。
……このまま、一緒に行きたいが…。」
ここから300mほどの場所に、大きい塀に囲まれた街が見える。カインはその街を指差しながら従者達に教えた。
しかし、本当はオボルに行きたかったので最後にボソッと呟いた。
「うむっ!ちゃんと主の親方に武器を作ってもらえるように頼んでみるぞっ!!
それに、ソフィアの事は我に任せるが良いっ!!」
いつものポーズを決めてドンッと胸を叩くアルディオ。
「面倒を見られるのはアルディオですよ…。」
面倒を見るのは自分の方なので、ソフィアは全く逆の発言をしているアルディオに呆れている。
「…………物凄く心配だが、時間が無いので俺は戻る事にしよう。こっちのバルシリガ家の件が片付いたらお前らを向かえに行くけど、何日かかるか分からない。
とりあえず、オボルの街でゆっくりしてくれ。」
ザックなりすまし作戦は、どれだけの日数がかかるか分からない。それに、最近忙しくて休みが無かったので、従者達にもオボルでゆっくり過ごして欲しいと思っている。なので、1人で行く事にしたのだ。
「分かりました。カイン様の事をお待ちしております。」
カインに向けて丁寧に頭を下げるソフィア。
「よしっ!!では、寝て過ごそうっ!!」
そして通常運転のアルディオ。基本的にこの駄犬は、寝るか戦闘しか出来ない…。
「……じゃあ、またな。」
言ってる事は違っても、どちらも可愛い従者なので2人の頭を撫でながらお別れの言葉を告げるカイン。
「うぅ…カイン様…。」「あ、主ぃ……。」
主人であるカインが行ってしまうので、急に寂しくなってきた2人。カインに撫でて貰いながら泣いてしまった。
その様子を見て苦笑するカイン。
「…甘えん坊な従者達だなぁ。
また、直ぐに会える…じぁあな。」
カインは、最後に従者2人を抱きしめて転移術を発動させる。
「……[転移+《フォレスタード》]っ!」
カイン1人が光に包まれていく。
輝きもだんだん薄くなっていき、最終的に光が消えた場所にはカインが居なくなっていた…。
「……寂しいです…。」
涙を流しながらソフィアの耳が垂れている。短い間だと分かっていても、敬愛するカインとの別れが寂しいのだ。
「……うむ、我も2年以上一緒に居たからな…。別れとは寂しいものだな…。」
アルディオもいつもの元気が無い。
※ちなみに、深淵の樹海へ行った時もカインとは別行動だった。なので、このやりとりは2回目である。それに話した言葉も全く同じだ。
なので、今回が初めての別れではない※
そんな”デジャヴを感じない”従者2人は、トボトボとオボルの街へ向かうのだった…。
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「おおっ!!ここが主の故郷かっ!!
普通過ぎて拍子抜けだなっ!」
これは、オボルの街の中に入って一番最初のアルディオの言葉だ。馬鹿にしたようにも聞こえる発言により、かなり視線を集めているアルディオ。
「アルディオっ!!カイン様に言い付けますよっ!!」
直ぐに魔法の言葉を使うソフィア。
「すまない、つい本音が漏れたのだっ!」
「はぁ…最後の一言は余計です…。」
前途多難な状態に早くも疲れてきたソフィア。最近カインに鍛えられて(常識面)来たので、その苦労も分かってきたようだ…。
そんな2人は、とりあえず宿屋を目指して歩いていた。メリルの鍛冶屋には寝室が1つしか無いので泊まれないとカインに聞いている。なので、宿屋で寝泊まりをするしか無いのだ。
「何か賑やかじゃないか?」
アルディオがソフィアに問いかける。
宿屋に向かっていた2人だったが、騒がしい声がする事に気が付いた。何やら人がたくさん集まっているようだ。
そして、みんな空を見上げていた。
「お祭りですかね?カイン様に聞いた話では、こんな時期には無かったと思いますが…。」
事前に、故郷の話をカインから聞いているソフィアは疑問に思っていた。ちなみにアルディオは話を聞いてないので不思議に思ってない…。
「とにかく面白そうだっ!!
我も、お祭りにまぜるのだっ!!」
人だかりが出来ている方へ走って行ってしまうアルディオ。
「ちょ、待って下さいっ!!」
慌ててソフィアは追いかけて行く。
ザワザワ、ザワザワ…。
近づくに連れて話している内容も理解出来るようになって来た…。
「おい、まだなのか?」「押さないでよ。」
「わくわく。」「時間は確か…。」「黙れハゲ。」「ママあそこ見てよ。」「若いもんには負けんっ!」「………おまえ誰だ?」
いや、よく分からなかった…。人が集まり過ぎて内容が入って来ない。
「なんなんだっ!!この集まりはっ!!」
その人混みの中へ突入するアルディオ。この中でも1番大きな声なので、かなり目立っている。
「アルディオっ!!勝手に行かないで下さいっ!!」
ソフィアもアルディオに追いついたようだ。勝手に走って行ったアルディオに少し怒っている。
「我は、この賑やかな事が気になるのだっ!!
おい、そこのハゲ。これは何の集まりだ?」
1番近くにいた強面のハゲ頭に声をかけるアルディオ。確かにこの男はハゲているが、ぶっちゃけ過ぎだ……。
「アルディオっ!もっと言い方があるでしょうっ!!」
カインにお目付け役を頼まれているソフィアは、すかさずアルディオに注意をした。日頃の勉強のおかげで常識を掴んできている。
アルディオは言い方を変えて…。
「……おい、そこの髪の無い残念な男っ!!つまり、ハゲ男だっ!!
ハゲ男、これはなんの騒ぎだっ!!」
「………何で悪化するんですか…。」
何故かハゲより言い方が悪くなった。頭の悪い駄犬に呆れるソフィア。やる気かガクッと下がる。
「お前ら知らないのか?
今日は有名人がこの街にやって来るんだぜっ!!もう少ししたら魔導飛行船で登場ってわけだっ!」
アルディオの暴言を全く気にしていないハゲ男。普通にアルディオの問に答えてくれた。
「おおっ!有名人かっ!!」
有名人と聞いて興奮しているアルディオ。有名人と言う言葉に反応するという、かなり庶民的な神獣である。
「ハゲ男さん、有名人とは誰の事ですか?」
もう言い方を気にしなくなったソフィア。ハゲ男と言う名前に定着させて質問をした。
もちろん、ハゲ男本人も気してない…。
「ははっ、驚けっ!!なんと皇族様だっ!!」
物凄い得意げに言ってくるハゲ男。しかし、目の前の人物も皇族である。
「……………そうですか…。」
返事に困って、真顔で答えるソフィア。昔みたいに〈目の前にも居る私も皇族です〉とは言わない…いや、言えない。
「おい、ハゲ男っ!!目の前にも皇族居るぞっ!!」
だが、まともに言える奴も存在した。何故なら何も考えていないバカだからだ。
しかも、いつもと同じドヤ顔のポーズである。
「はぁ?このメイドが皇族だと?
何処にメイド服を着た皇族が居るんだよっ!」
ソフィアのメイド服をジロジロ見ながら否定するハゲ男。そして、やれやれといった感じで首を横に振っている。
「何処に居るだとっ!!ここだっ!!」
ビシッとソフィアに指を差すアルディオ。いつにも増してドヤ顔である。
指を差されたソフィアは……。
「ハゲ男さん、このバカは無視して下さい。」
真顔でハゲ男に”命令”するソフィア。少し怒気を含んだ口調である。
「わ、分かった。」
そんなソフィアに圧倒されて頷くハゲ男。
「本当の事ではないかっ!!何故我が無視されるんだっ!!」
間違ってないが、別の意味で間違っているアルディオ。真実をすべて話すのは良いことだけじゃないのだ…。
「……ハゲ男さん、その皇族はどこの家の方ですか?」
完全にアルディオを無視して質問するソフィア。駄犬をまともに相手したら疲れるのだ。
「その皇族はな、元々このオボル出身だったんだ。だがな、孤児だったにも関わらず四色のエレメントを覚醒させてナニカをわずか12歳で倒したんだぜっ!!
今では英雄の1人だっ!」
まるで自分の事のように自慢しているハゲ男は、とても嬉しそうに話している。
「オボルの出身で皇族にですか…。」
ハゲ男の言葉を聞いたソフィアには心当たりがある。そもそも、最近皇族になったものは1人しか存在しない。
「誰だっ!!誰の事なんだっ!!
我にはさっぱり分からないぞっ!!」
しかし、完全に常識から浮世離れしている神獣には分からなかったようだ。
そんなアルディオに呆れながらハゲ男が…。
「お嬢ちゃん、どんな田舎から来たんだ…。」
「……アルディオの場合そういう問題では無いのです…。」
田舎だから分からないのでは無い。大都会に居ても、常に興味のある話しか聞かない覚えないの神獣には関係無いのだ。
気を取り直してハゲ男が話を戻す。
「まぁ、そろそろ魔導飛行船が七星天兵団、第四師団のオボル支部へとやって来る。お嬢ちゃん達もここで見ているといいぜ。」
「うむっ!楽しみだっ!!」
ワクワクが止まらないといった感じのアルディオ。オボル出身じゃないアルディオには、そんな面白い事でもないような気がするが…。
「おいっ!あれじゃないかっ!」「どけっ!我が見えんっ!」「おお、やっと来たっ!!」「我にも見せろーっ!」「アフェリー様ぁーっ!!」「あれが魔導飛行船かっ!!」「我も見たいぞっ!!」「おお、でかいなっ!」「ママ、この人のせいで見えないよーっ!」
当たりがざわつきはじめる。ようやく話題の人物が乗っている魔導飛行船が到着したようだ。
そんな中、ソフィアは1人呟いた…。
「エルミナ・アフェリー…。」
次回、エルミナ帰還…。
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