40話 第六師団副長
ザックとは違う父親…。
深淵の樹海を出たカイン達は、ナタリシア城にあるミストラルの執務室前に居た…。
非常に部屋の中へ入りたくたない心情の中、仕方無く扉をノックするカイン。
コンコンッ!
「……誰だい?」
部屋の中からミストラルの声が聞こえてきた。
「ランクB冒険者のカインです。任務を達成した為、ミストラル様に報告に参りました。他のメンバーも一緒です。」
念の為、外向きの対応をするカイン。
「……分かった、入っておいで。」
「ナタリシア団長っ!!!今は、私と話をしているんだぞっ!!!」
「彼等もザックの件と関係あるからねぇ。
……カイン入っておいで。」
部屋の中で少し揉めていたようだが、許可を貰ったのでカイン達は入る事にした。気が重いが仕方無い…。
「……失礼します。」
カインは扉を開けてミストラルの執務室の中へ入っていく。すると、中にはミストラルとザックに少し似ている顔で金色短髪のエルフが居た。
彼の名はスナイデル・バルシリガ。皇族であるバルシリガ家の現当主だ。
「………君は何者だ?」
スナイデルは、カインを警戒しているようだ。
「カインは、あたしの息子だよ。あんたの息子の捜索と捕縛をお願いしていた。」
カインの代わりにミストラルが答えた。
「団長の息子だとっ!!!…………確かに、とんでもない力を秘めているようだが…。
……それより、ザックの捕縛とはどういう事だ?」
さすが七星天兵団の第六師団副長なので、カインの力を感じ取っているようだ。
しかし、今はザックの事を優先した。まだ説明を受けてないので、ザックの捜索は分かるが捕縛となると事情が変わってくるのだ。
「ザックは、許可無く深淵の樹海へ侵入したんだよ。」
「なんだとっ!!!あの馬鹿は何をやっているんだっ!!!
……深淵の樹海の侵入なら最悪死罪か…。」
侵入したと聞いた瞬間、スナイデルは怒鳴り声を上げた。ザックに対して怒っているようだが、息子が死罪になるかもしれないので直ぐに暗い声になる…。
その様子見ていたカインは……。
(好き勝手やっているザックを、親は擁護していると聞いていたがあの人は違うようだ。
心配しているが怒っているようだし、この親ならザックみたいには奴にはならない筈だが……。)
予想していたよりも、まともだったザックの親に疑問を持つカイン。どうしてザックみたいな性格になったのかと思っていた。
「……まぁ、とりあえずカインの報告から聞こうかねぇ。」
ミストラルはカインに報告するように促した。
「結論から言えば、ザックは死にました。」
「ザックが死んだだとっ!!!!
……………原因は?」
一瞬取り乱したスナイデルだったが、直ぐに落ち着いて原因を聞いた。
「ナニカに存在を乗っ取られたようです。」
淡々と真実を述べるカイン。
「ナニカに存在を……どういう事だい?」
現在では知られていない事なので、ミストラルは理解出来なかったようだ。まぁ、仕方無い事だが……。
「そもそも、ナニカとは別世界から侵略して来たモノだそうです。この世界へと渡る為に、強い負の感情を持つ者を媒介して出現します。」
「………息子が負の感情によってか…。
その話が真実かどうかを証明できるのか?」
突拍子無い話なので、完全には信用できないスナイデル。だが、冷静に質問を続ける。
「……この話は、神樹の守護者でもある天鳥レイバトリオから聞いた内容です。なので、十分信用できる話だと思います。」
レイバトリオの事をスナイデルがどう思っているか分からないが、真実を話してみるカイン。
「………神獣様が…。分かった、ザックの死の原因を教えてくれてありがとう。」
スナイデルはカインに向けて頭を下げてきた。
まさかの行動に驚いたのはカインとアルディオ。
(っ!!!…身分関係なく頭を下げられる人か…。しかも、常に状況を冷静に判断できいる。
さすが第六師団副長だな…。)
カインは、驚きながらもスナイデルに感心していたのだが……。
「ザ、ザックの親なのに、頭を下げただとっ!!!!我は、夢でも見ているのか……。」
「………お前…口に出すなよ…。」
カインが心の中に留めていたことをアルディオは思いっ切りぶっちゃけた。通常運転のアルディオに呆れているカイン。
「はははっ、お嬢さんは面白い事を言うな。なんで、私が頭を下げたら駄目なんだ?」
アルディオに笑いながら話しかけるスナイデル。頭を下げるのを当たり前だと思っているようだ。
その問に答えたのはミストラル。
「まぁ、そう思われるのも仕方無い事だねぇ。
本来のザックをあんたは知らない…。だから、今日ここでその話をしようかねぇ…。
第六師団本部では、あんたの面子もあるからここでね…。」
現在、ミストラルに代わってスナイデルが七星天兵団、第六師団の運営をしているのだ。
なので、スナイデルの体裁を考えてザックの事を内密に解決する必要があった。
「私の息子の事は、妻に全て任せている。
特に、何も問題無いと聞いているが?」
忙しいスナイデルに代わって、妻がザックの面倒を見ていたようだ。それも全てを任せていたらしい。
「それが、大問題なんだよねぇ。あんたの妻ジェニファ・バルシリガは色々と隠蔽しているよ。ザックがやらかした罪を全て抹消してね。
今日も何か言われてきたんだろ?」
ミストラルはジェニファの話になると、急に真剣な表情でスナイデルに話し始めた。
「………そうだ。妻からザックが団長に捕まったと聞いて来た。」
スナイデルは少し考える素振りを見せながら、ミストラルの問に答えた。
「あたしは、ザックの犯した罪の証拠を今まで集めてきた。裏で操っているジェニファの証拠もね。
だが、確実な証拠はまだ無い…。だから、あんたにも協力して貰いたいんだけどねぇ。」
「………ジェニファを捕まえるのか?」
スナイデルにはミストラルの言いたい事が分かった。思う所はあるようだが、私情抜きで冷静に判断している…。
「そうだねぇ…。ジェニファはやり過ぎた。皇族と言っても何でもしていい訳じゃない。
その事を分かって貰わないとねぇ…。」
少し怒気を含んだ感じで言い放つミストラル。
深く考えた後、スナイデルも決心をする……。
「……分かった…。協力しよう…。」
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あれから6時間後……。
「……どうして俺まで一緒にバルシリガ家に行く事になったんだ…。」
物凄く元気が無いカイン。
「はははっ!カイン君には期待しているよ。」
項垂れているカインの肩を笑いながら叩いているスナイデル。
全く心情の違う2人は、現在魔導飛行船のデッキにいた。七星天兵団の第六師団所有の飛行船である。
「……俺は何をすれば良いんですか?」
一応スナイデルに内容を聞くが…。
「それは、着いてからのお楽しみだ。」
「……全然楽しみじゃない…。」
本当なら、”別の組”の場所へ行きたかったカイン。だから、余計に乗り気じゃないのだ。
しかも、向かっている場所が……。
「バルシリガ家の本拠地である、スピリュークは中々良い所だぞっ!!」
そう、カインは皇族バルシリガ家の本拠地でもある都市『スピリューク』へと向かっている。それに、何故かスナイデルに気に入られたカイン…。
「………俺は、”新武器”の開発の方へ行きたかったです。」
少し不満そうに言うカイン。
「まぁ、そっちは君の従者達に任せるんだ。こっちはカイン君にしか出来ないからね。」
「はぁ…。分かりました…。」
全然乗り気じゃないが、仕方無いので諦めるカイン。元々、とある従者のせいでこうなったので非常に不本意である。
あの時に全ては決まったのだ……。
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時は遡る。
スナイデルの妻、ジェニファを捕まえる為の作戦をミストラルの執務室で考えていた時の話…。
「本当はザックにも協力して貰う予定だったけど、死んでしまったからねぇ…。」
予定が狂い悩んでいるミストラル。
「確かに、この作戦にはザックが必要だな。私も堂々と向かう訳には行かないし…。」
スナイデルも非常に悩んでいるようだ。
2人は頭を悩ませながら作戦を練っている…。
そんな2人とは違い、隣の長椅子ではカイン達が今後の事を話し合っていた。
「メル、神樹の葉を使って武器を作れる鍛冶師に心当たりがあるんだよな?」
「うん…代々ナタリシア家の武器を作ってる人…。」
メルトはナタリシア家との繋がりを持つ鍛冶師に依頼しようと思っているようだ。
ちなみに、現在メルトはカインの膝の上…。
「俺も心当たりがあるんだが……とりあえず、説教を受けるだろうな。」
自分の親方を想像して怒られる風景が見えてきたカイン。まぁ、怒られない訳がない…。
「まぁ、行くしかないか…。一般的に流通させる為には、鍛冶師達に頼むしかない。
だが、神樹の葉を使うとなると普通の鍛冶師には不可能だろう。親方クラスの鍛冶師じゃないと無理だ。」
今回、一般用対ナニカ武器を作るのに使う素材は神樹の葉である。神樹の素材にもランクがあり、葉<枝<根<樹液<琥珀(神羅石)<果実≪木材となっている。
そのランクによって能力も決まってくるので、一般的に流通させる素材は数も多い神樹の葉を起用する事になったのだ。
(※神樹の木材……カインが頼めば神樹が木材となって出現する。試したカインは、非常にドン引きしていた…。)
「カイン様の故郷に居る方ですよね?私も、一度訪れてみたかったので楽しみですっ!!」
カインの故郷へ行ける事を非常に楽しみにしているソフィア。尻尾をブンブン振っている…。
「我も興味があるぞっ!!!
主の故郷となると、さぞや過酷な場所なのだろうっ!!」
「そうですねっ!!カイン様を作り上げた所なので、非現実な事が日常的に起る地獄のような場所なのでしょうっ!!」
主人の故郷を地獄みたいな扱いする従者達。とても興奮しているようだが、思い出の場所を地獄扱いされたカインは…。
「………お前らとは、二度と一緒に寝「「とても快適で良い場所だな(ですね)っ!!」」……はぁ…。」
魔法の呪文を唱えようとしたカインに、勢い良く言葉を畳み掛ける従者達……。
いつも通りの従者達に思わず溜息が出るカイン。この2人をオボルへ一緒に連れて行くのが嫌になって来た…。
「…私も…お兄ちゃんの故郷へ行きたい…。」
膝の上に座りながら、上目遣いでカインを見て可愛いおねだりをしてくるメルト。まぁ、無表情だが可愛く見える…。
「それなら、4人で一緒に「カイン、ちょっといいかい?」……母さん、どうかしたのか?」
皆でオボルへ行こうと言おうとしたカインだったが、ミストラルに声をかけられた。
「ザックの代わりが居なくてねぇ…。規格外の塊のカインなら、良い考えが浮かぶと思ったんだよ。」
ごく自然にカインを人外扱いするミストラル。
「……酷い言われようだな…。
はぁ…ザックの代わりって何をするんだ?」
カインはミストラルに言われた事が不満のようだ。だが、あまり深く突っ込まずに話を先に進める。
「ジェニファを上手く誘導させようと思っていたんだよ。自分の可愛がっているザックの言葉なら聞くと思ってねぇ。」
「なるほど……。」
ミストラルの言葉を聞いて考え始めるカイン。何をしようと思っているのか大体分かってきた…。
そんな時、口を挟んで来たのが…。
「主がザックの姿に変身すれば良いのでは無いのかっ!!うむ、我ながら良い考えだっ!!」
物凄いドヤ顔で大きな胸を張り、自己満足しているアルディオ。
「いくらカイン様でも変身なんて無理です。これで変身したら人外過ぎますよ。アルディオは、どれだけ変身が好きなんですか…。
無理ですよね、カイン様?」
ソフィアは変身ばかり言っているアルディオに呆れていた。まだ幼い男の子みたいな思考である。
そして、問いかけられたカインは……。
「……………………。」
黙り込んで真顔になっている。
「カイン様?」
不審に思ったソフィアがカインの名を呼ぶ。
「…………いや、無理だな。」
かなり間があったが、変身は無理だと否定するカイン。
「何を言っているんだっ!!修行の時に、色々な姿に変身していたではないかっ!!!
主は人間頑張れば何でも出来るとか言っていたぞっ!!!」
主人の思いとは反対に正直にぶっちゃけたアルディオ。そんな従者の発言にカインの顔が頬が引きつっている…。
「…………カイン様?」
カインに再び声をかけるソフィア。
ジト目でカインを見つめる。
「…………仙術の擬装転化を使えば出来る。」
物凄く言いたくなかったみたいな顔をしながら白状するカイン。言ってしまえば変身出来る事を意味して人外認定され、しかもザックとしてジェニファの所へ向かう事になるからだ。
そして、言ってしまったと言う事は……。
「ソフィアっ!我の言った通りだろっ!!
主はとても人外なのだっ!!!」
「いくらなんでも普通は限度がありますよ。
さすがカイン様、人外ですっ!!」
主人を尊敬の眼差しで見つめている従者達。しかし、人外扱いをされたカインは不満顔だ。
それに、面倒臭そうなので断ろうと……。
「……だが、俺には予定があ「よしっ!!決まりだなっ!!カイン君よろしく頼むっ!!」………聞いてくれ…。」
用事があると言い逃れようと思ったカインだったが、スナイデルに口を挟まれて確定となってしまった。
最後の頼みの綱、ミストラルを見るカイン。
「あたしの息子よ…頑張れ……。」
ミストラルは、カインに同情しながらも方法がこれしか無いので反対はしなかった。どうしてもジェニファを捕まえたいからだ。
全てに見捨てられたカインは……。
(………やっぱり言わなければよかった…。)
こうして、後悔しながらもカインは面倒事に巻き込まれるのであった………。
次回、従者2人がオボルで…。
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