33話 神樹の守護獣
今回から夕方の投稿になりました。
今後ともよろしくお願いします┏○ペコッ
カイン達が深淵の樹海へと入り10日が経った。
現在は最深部付近まで来ている。とても広大で深い森なので、これでもかなり早いペースで進んでいた。普通の人なら、ここまで2ヶ月かかる程の道のりである。
この場所は、木の間隔が非常に狭くなっており、カインとメルトは2人で手を繋ぎ歩いて進んでいた。
「モンスターや自然の罠が多過ぎて、思ったより時間がかかったな。結局、ここまでの道にザックは居なかったし、迷子にでもなっているのか?」
「私達が早すぎて追い抜いたのかも…。」
「まぁ、俺達は神羅石が優先だから、ザックの事はソフィ達に任せるしかないな。
そもそもザックが勝手に入った理由も分からない。ここはナタリシア家の者しか入れない場所だろ?」
「弱いから…修行に来た?」
「それならバルシリガ家も独自の修行法がある筈だ。わざわざ罪を犯してまで入るとは思えない。
……まぁ、捕まえた時に聞けば分かるか。」
ザックの件はソフィ達に一任してるので、カインは完全に任せている。元々ザックとの関係は特に無いので、カイン自ら捕まえようとは思っていないみたいだ。
「それより、もう少しで最深部に着く。あんなに遠かった”神樹”がこんなに近くに見えるからな。」
「これだけ近づくと、大きさがよく分かるね…。」
実は、深淵の樹海に入って8日目から目的の場所は見えていたのだ。神羅石とは、深淵の樹海の最深部に存在している『神樹』から採れる琥珀の事らしい。
神樹は高さが1km以上横幅が500m以上あり、この世界の始まりから存在していたと言われる樹木だ。不思議な力を持っており、神樹の果実はどんな病気や怪我にも効くと言われている。しかし、採れる量は1年に1つのみだ。
ナタリシア家は代々この神樹の果実を管理しており、一族以外の者は許可無く入れば死罪となる場合もある。
この神樹の琥珀である神羅石は、S級以上の武具の素材としても有用だ。なので、修行と武器作製の意味も込めて、ナタリシア家が七星天兵団に入団する前の儀式となっていた。
「神樹の近くには、それを守る為の守護獣がいるんだろ?その守護獣に認められれば、神羅石などの素材を持って帰れると母さんから聞いた。」
「うん…。ナタリシア家の者は、神樹の守護獣に認められなければ一人前になれない…。」
深淵の樹海の入り口を管理しているのがナタリシア家、そして樹海自体を管理しているのが守護獣である。なので、その守護獣に認められなければナタリシア家の当主にもなれないのだ。
「まぁ、試練みたいなものだから1人でやるしかない。俺は近くでメルの事を見守っているから頑張れよ。」
「ありがとう…一人前になれるように頑張るね…。」
カイン達は、そんな話をしながら神樹のある最深部へと向かって歩き続けた……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、ソフィア達はザックの捜索を続けていた。カイン達と別れて8日が経つが、未だザックは見つかっていない。
「ザックが全然見つからないなっ!!この樹海は色々な匂いがするから、鼻も効かないし面倒だっ!!」
「このままザック・バルシリガを見つけられなければ、カイン様に顔向け出来ません。なんとしても見つけ出して拘束するのですっ!!」
ソフィアはカインの思いに応える為、達成後に毛づくろいをして貰う為に頑張っている。
今、アルディオと一緒にいるソフィアは[影写転化]で作った偽物である。影写転化は2つまで作る事が出来るので、本体ともう1つの影は別の場所で捜索をしている。
現在は連絡用として残した影で会話をしていた。
「もしかしたら、既に死んでいるんじゃないか?この樹海の罠は中々に強力だったぞっ!!」
「それは…アルディオが勝手にそこら辺の果実やキノコを食べてしまうからです。よく死ななかったですね……。」
「食っても腹が痛くなるだけで、天狼は毒では死なんっ!!だから大丈夫だっ!!」
「そう言う問題ではありません…。」
ソフィアは、死なないから毒を食べても大丈夫と言うアルディオに呆れる。そもそも、他の罠も全部自分からハマっているのだ。
「それに罠ではなく、モンスターに殺されている場合もあるぞっ!!」
「その可能性もありますが、拘束が無理なら死体でもいいので回収します。カイン様に作ってもらったアイテムボックスβを使えば死体も入れられるので、どちらでも構いません。」
ザックの生死は全く興味がないソフィア。たとえ死んでいても、死体を持って帰ればいいと思っている。
今回はカインと別行動となるので、前々から作っていたアイテムボックスを2人に渡していた。
アルディオのは『アイテムボックスθ』でチョーカー型になっている。真ん中にある、アルディオの毛と同じ蒼色の魔宝石が輝いているのが特徴だ。
ソフィアのは『アイテムボックスβ』でカチューシャ型になっている。メイド服に似合うように、カインがわざわざメイドカチューシャにしたのだ。
この2つはカインのアイテムボックスΩと一緒で、念じるだけで好きな場所に中身を出す事ができる。普通のアイテムボックスは袋型のみで、中に手を入れないと出せない。
メルトは普通のアイテムボックスなので、武器の出し入れも面倒である。なので、一瞬で手に持つことが出来るのを見て、非常に羨ましがっていた。
カイン特製のアイテムボックスは、見た目も非常にこだわっているので、アクセサリーとしても使える最高の品だ。
「とりあえず、我はもっと東に向かう。
ソフィアは西と南の方を頼む。」
「分かりました。意思疎通が出来なくなるので、私から範囲5km以内でお願いします。」
「分かった。では我は「アルディオっ!!待って下さいっ!!!」……どうしたのだ?」
捜索を再開しようとしていたアルディオだったが、急に大声でソフィアに呼び止められる。疑問に思ったアルディオは質問をするが……。
「そこから西南2km地点にて、ザック・バルシリガの持ち物と思われる品がありました。多分近くにいると思うので、こちらに向かって下さい。」
「うむっ!!すぐに向かおうっ!!」
ソフィアがザックのいた形跡を発見したようだ。アルディオは直ぐにソフィアの元へと向かって走りはじめた。
「見つかったのはバルシリガの紋章の入ったペンダントです。それに血が付いているのですが、まだ新しい血みたいなので数時間しか経っていない筈です。」
「なるほど…何かに襲われたのか?我はザックの強さを知らないが、そんなに強いモンスターがこの樹海にいたのか?」
「………神獣アルディオにとっては、弱いモンスターしかいませんね。ですが、私やメルトでは倒せないモンスターも存在しています。」
世界最高レベルのカインやアルディオには、弱いと感じるランクのモンスターしかいない。
しかし、普通のランクA冒険者くらいの強さであるソフィアやメルトには、倒せないモンスターも存在する。なので、その2人より少し弱いザックには倒せないモンスターが存在するのだ。
この深淵の樹海は、最高でAランクモンスターが存在している。なので、遭遇してしまったら、ランクA冒険者がパーティを組まないと倒せない。
「しかし、ソフィアも1人で行動しているぞっ!!」
「私は影術を使い隠密移動で捜索しています。なので、モンスターに全く見つかりません。」
「我は、思いっきり見つかっているけどなっ!!だが、見つかっても全てを正面から蹂躙すれば良いのだっ!!」
「………それが出来る人は少ないです…。」
完全な脳筋発言の神獣に、呆れるソフィア。
ランクの高いモンスターの群れを、正面から1人で全て倒せる者など、世界でも数えるほどしか存在しない。カインや神獣、七星天兵団の師団長や副長、ランクS冒険者くらいである。
「全てを破壊するのが神獣だぞっ!!!」
「それは神獣じゃなくて、破壊神ですっ!!
他の神獣達に謝って下さい。アルディオと一緒にされては可哀想です。
それに、あまり破壊するとカイン様に怒られますよ。ミストラル様にも、極力樹海を破壊しないでと頼まれました。」
「な、何だとっ!!我は聞いてないぞっ!!」
ソフィアの発言に驚くアルディオ。
カインに怒られるのは嫌なのだ。一緒に寝て貰えなくなり、毛づくろいもして貰えなくなる。
「……アルディオはぐっすり寝ていました。」
「寝ていたなら仕方無いなっ!!」
「………後でカイン様に報告します。」
アルディオは完全に開き直った。寝てしまい聞いてなかったのに、仕方無い筈がない。
その言葉を聞いて、全然反省していないアルディオに呆れるソフィア。そして、小声でカインに報告すると呟いた。
移動しながらそんな話ずっとしていたが、ようやくアルディオとソフィア本体が合流した。
「アルディオ、これがさっき話したペンダントです。匂いで分かりますか?」
ソフィアは、ザックの物と思われるペンダントをアルディオに渡した。そのペンダントを受け取り、匂いをかいでみるアルディオ。
「うむっ!この臭い匂いがザックかっ!!物凄く臭いから、直ぐに分かったぞっ!!」
「……アルディオは、カイン様以外の男を全て凄く臭いと言いますよね。」
「我は、主以外の男は嫌いなのだっ!!
だから、主以外の男の匂いも嫌いだっ!!」
「なるほど…それは一理あります。
その激臭ザック・バルシリガのいる方角は、どっちですか?」
「それは、結構近く「だ、誰か助けてくれぇぇええーーーっ!!!!………に居たな。」
ここから少し離れた所でザックと思われる叫び声が聞こえて来た。誰かに助けを求めているようだ。
「ここから200mくらいですね…。
すぐに向かいましょうっ!!」
「うむっ!!襲っている相手に加勢だっ!!」
「…とりあえず、生きているなら捕縛です。」
10日目でようやく見つけたザック。
アルディオとソフィアは声が聞こえた方向へ急いで向かうのであった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カインとメルトは最深部に到着した。
神樹の巨大な枝葉によって太陽が隠れ、夜みたいに辺りが真っ暗になっている。神樹の巨大な根が地面から何十個か出てきており、その他は周りに神樹以外の木は生えていないようだ。
2人は手を繋ぎながら歩いて進んでいる。
「月光草が無ければ、完全に真っ暗だったな。最深部がこんなに暗いとは思わなかった。」
「でも、月光草の光が綺麗だね…。」
「地面に夜空があるみたいだな。日光が当たらないから、月光草以外の植物は殆ど生えてないらしい。」
月光草は、月の明かりみたいに仄かに発光する植物だ。太陽光が無くても成長する事が出来る。真っ暗中で光っているので、星にも見える。
そんな幻想的な場所を歩いていた2人だったが。
「………お出ましの様だな。」
突然、カインが何も無い空間を見ながら呟いた。メルトは言ってることが理解出来ずに、首を傾げていたが…。
「私の気配に気が付きましたか…。」
カインの発言に応えるように透き通った声が聞え、目の前に光のゲートが出現した。真っ暗な辺り一帯が、光のゲートにより急に明るくなった。
「……神樹の守護獣?」
メルトの発言とともに、声の主の姿が徐々に顕になっていく。
そして、完全に光が消えた場所には、綺麗な薄緑色の大きな鳥がいた。
「はい、私が神樹の守護をしている天鳥です。時折、神獣と呼ばれる事もありますが正しくは天鳥なのでよろしくお願いします。
そして、私の名はレイバトリオです。」
レイバトリオは、全長3mくらいで優しいオーラを身に纏っている。薄緑色を基調とした羽毛は輝いていており、とても綺麗である。
「うん、お母さんに聞いた名前と同じ…。
私の名はメルト・ナタリシア…。」
「金髪に翠色のエルフ…それに感じるオーラは、ナタリシア家の者で間違いないですね。
ですが、隣の方は……。」
「俺は付き添いだから、気にしないでくれ。」
レイバトリオがカインに視線を向けながら様子を窺っていたので、ただの付き添いだと発言した。
居ないものとして扱って欲しいカインだったが……。
「貴方は……始祖様ですか?」
レイバトリオは、カインの事を始祖なのかと聞いてきた。
カインはアルディオから神族であり始祖の血脈を持つと聞いているが、別に本人では無いので…。
「俺は神族らしいが、始祖では無いぞ。そもそも始祖は1億年前に存在した人物だろ?」
「私は1億年前から、始祖様がお植えになった神樹を守り続けています。そして、この場所は始祖様のお墓でもあるのです。」
「そんな事、私は初耳…。」
この神樹を始祖が植えた事も、この場所が始祖のお墓である事もメルトは知らなかったようだ。
無表情だが、驚いているらしい。
「この話は、本来ナタリシア家の当主しか知らない事ですからね。今回は、この御方が居るので話しました。」
「なるほど…。で、なんで俺が始祖だと思ったんだ?」
「私は1億年前にも存在していました。なので始祖様の御姿も良く知っています。他の神族の方にも会ったことはあるのですが、貴方ほど始祖様に似ている方はいませんでした。」
「俺が始祖に似ているのか…。」
「はい、それに纏っているオーラも似ていました。なので、私は始祖様の生まれ変わりだと思ったのです。」
1億年前に世界を救ったと言われている始祖とカインは、天鳥レイバトリオが間違うほど似ているらしい。まるで、生まれ変わったように……。
「まぁ、俺はそんな大した存在じゃない。
そんな事よりも、早くメルトの試練を始めてくれ。」
「…………分かりました。
では、ナタリシア家のメルトは前に来てください。」
少し何かを考える間があったが、レイバトリオはカインの言葉に了承した。そして、メルトを前に来るように促す。
その言葉で、カインは後ろに下がっていき、メルトはレイバトリオの近くへとやって来た。
そして、アイテムボックスの袋から武器であるメイスを2つ取り出す。
「分かっているようですね。私に一撃でも入れる事が出来れば合格としましょう。
では、始めます[人身転化]。」
その言葉とともに、3mあったレイバトリオの姿が、どんどん小さくなっていく。そして、その場所には身長170cmくらいで、薄緑色の髪をした美しい女性が現れた。
「私メルト・ナタリシア…試練に挑む…。」
メルトは、神樹の守護獣による試練を開始した。
次回、死を呼ぶモノ現る。
読んで頂きありがとう御座いました。┏○ペコッ
ブクマ登録、感想評価もよろしくお願いします。
誤字脱字などのご指摘ありましたら、お願いします(;•̀ω•́)