31話 綺麗な○○と汚い○○
1話〜、カインのエルミナの呼び方を「エルミナ」→「エル」に変更しました。
アルディオとソフィアが愛称の為、一番の幼馴染エルミナも愛称としました。
現在カイン達は、ナタリシア城の客間に案内されている。案内人は翠眼で金髪ツインテールのエルフ、メルトだ。
「ここが、ソフィアの部屋…。
そして、こっちがアルディオの部屋…。」
アルディオとソフィアの部屋を、それぞれ右手で指差しながら誘導するメルト。
現在、左手はカインと手を繋いでいる。
「じゃあ…またね…。」
そのまま別れを言って、ソフィアとアルディオを置いてカインと共に行こうとするが……。
「待ってくださいっ!カイン様のお部屋を教えてください。従者である私は、カイン様と一緒の部屋が良いです。」
「うむ、我も主と寝るから案内するのだっ!」
それに従者達が待ったをかける。
1人1部屋よりも、カインと一緒の部屋が良いのだ。
「だめ…お兄ちゃんは私の部屋で一緒に寝る…。」
メルトは、このままカインを自分の部屋に連れて行こうとしたみたいだ。カインと一緒に寝るのは自分だと主張している。
「ダメですっ!!いくら兄妹でも14歳なら一緒に寝ませんっ!!私は気持ち悪くて、兄と一緒に寝た事は一度もありませんっ!!」
「ソフィ…気持ち悪いは酷いと思う…。」
まだ一度も会ったことは無いが、ソフィアの兄が可哀想になるカイン。短剣の件もあるし、かなり雑に扱われているようだ。
「そうだっ!!兄妹で寝るのはおかしいぞっ!
それに、我は主と一緒じゃないと寝れないのだっ!!」
「いや…アルは一人で勝手に寝てるだろ…。」
修行中も今までも、殆どの時間を寝て過ごしていて、全く役に立たない駄犬は一人で寝ていた筈だ。なので、カインと一緒じゃないと寝られないのはおかしい…。
「私は、お兄ちゃんと寝る…決定事項。」
「勝手に決めないで下さいっ!!」
「主と一緒に寝るのは我だっ!!!」
一緒に寝るのは自分だと3人とも主張して、カインの引っ張り合いが始まった。
メルトは無表情でカインの右手を引っ張り、ソフィアは頬を膨らましながらカインの左手を引っ張っている。
そしてアルディオは何故か両手で、カインの髪を引っ張っている。
「おいコラ駄犬っ!何で髪を引っ張るんだっ!!」
「引っ張るところが無いからだっ!!」
「もっと他にあるだろうかっ!!!痛いわっ!!」
「我は痛くないから大丈夫だっ!!!」
「俺は痛くてもいいのかよっ!!!!」
さすがのカインも、馬鹿力の神獣に髪を引っ張られては痛い。てか、普通は服とか引っ張るものだ。
「アルディオっ!カイン様がハゲになったらどうするんですかっ!!」
「それなら、主の手を我に譲れっ!!
譲るのはメルトでもいいぞっ!!」
「お兄ちゃんがハゲでも、私は大丈夫…。」
「……俺は全然大丈夫じゃない。」
何故かハゲの話に移行した。
メルトはハゲても大丈夫らしいが、カインは14歳で頭が禿げるのは勘弁して欲しいみたいだ。
「わ、私もカイン様がどんな御姿でも大丈夫ですっ!!!気にしないでハゲて下さいっ!」
「我も主の髪など気にしないぞっ!!
大丈夫だ、綺麗にハゲにしてやるっ!!!」
「ちょっと待てっ!!!
勝手にハゲ確定にするんじゃないっ!!!」
話が変わり、カインの頭をハゲにする事になって来た。もはや一緒に寝るとかいう話は全く関係無くなった。
そんなカイン達の所にザックが近づいて来た。
「おい、下民っ!!騒がしいぞっ!!!」
美少女3人に引っ張られているカインを、睨み付けながら怒鳴るザック。先程のハブられて受けたダメージは回復したようだ。
「ザックはハゲたら人生終わり…。」
「ザック・バルシリガがハゲたら、モンスターと勘違いして討伐してしまいます。」
「お前の頭は汚いハゲにしてやるっ!!」
「なんの話だっ!!!勝手にハゲにするなっ!!」
カインのハゲ仲間が増えた。しかし、カインと比べるとザックの扱いが酷い。
てか、汚いハゲってなんやねんっ!
ザックに意識が向いてる間に、カインは引っ張り合いからの脱出に成功する。
「はぁ…。ハゲの話は終わりだ。
結局、俺の部屋はどこにするんだ?」
溜息を吐きながら、カインは部屋の問題について質問した。元々はこれが本題である。
「お兄ちゃんは私の部屋なの…。」
相変わらずの無表情だが、全く譲らないメルト。余程、カインと一緒に寝たいらしい。
それに反応したのは…。
「下民を部屋に入れるのかっ!!!
私でさえメルトの部屋に入った事無いのにっ!!」
「私でさえって……ザックとは赤の他人…。」
「わ、私の事は好きだろう?」
赤の他人と言われた事に動揺したザックは、自分の事をメルトが好いていると思って質問するが…。
「ザックは大嫌い……。」
「だ、大嫌いだとっ!!!何故だ理由を言えっ!!!」
「うるさい…自意識過剰…自己中心的…態度がでかい…チビ…ガリ…キモい…あと100個くらい。」
「……そ、そんな馬鹿な…。」
婚約を希望している相手から、無表情で放たれる酷い言葉にショックを受けるザック。てか、好きと思われている自信がよく分からない。
「メルト…完全にとどめを刺したな…。」
「〈私の事は好きだろう?〉とかよく言えましたね…。かなり引きました…身震いします…。」
「うむ…我も鳥肌が立った…。」
ザックの気持ち悪い自意識過剰発言に、かなりドン引きしているカイン達。ソフィアとアルディオは震えているようだ…。
そんな3人のところにメルトが来て…。
「ここにはキモい奴が居る…。4人で私の部屋に行こ…。」
メルトも無表情だが身体は震えている。直接関係あったメルトのダメージは大きいようだ。
可哀想なので、カインはメルトを抱きしめて頭を撫でてあげた。
「あたたかい…ありがとうお兄ちゃん…。」
目を閉じながら気持ちよさそうにしているメルト。身体の震えも少しおさまったようだ。
「う、羨ましいです…。」「うむ…。」
そんな2人を羨ましそうに見ている従者達。
カインは、メルトの震えが無くなったのを確認して離れたが、その代わりメルトの手を繋いだ。
「メルトは俺の妹だからな。
このくらいの事は当たり前だ。」
「うん…。カインは私のお兄ちゃん…。」
メルトの表情は変わらないが、手を繋いでもらい嬉しそうである。
そんな兄妹を見ていたソフィアは…。
「私も、カイン様みたいな兄が良かったですっ!!
どっかの兄とは大違いですよっ!!」
「お前の兄貴は、そんなに変なのか……。」
実際、会ったら良い人かもしれない。普段のソフィアを知ってるので、酷い兄だと決め付けられないカイン。
てか、妹の門出に良い短剣を渡すくらいだから良い人の筈なんだが…。
「私には良いお兄ちゃんが出来た…。
早く私の部屋に行こ…。」
「うむ、我も早く寝たいっ!!」
「アル…まだ昼過ぎだからな…。」
いつも寝る事しか頭に無いアルディオに呆れているカイン。なんだかんだあったが、結局4人でメルトの部屋に行く事になった。
「……………………。」
カイン達はメルトの部屋を目指して、仲良く4人で歩いて行く。
そんな様子を見ながら、憎悪のこもった目をカインに向ける者が、ここに1人存在していた…。
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そして、翌日……。
朝食を終え、メルトの部屋で談笑していた4人の元へ侍女がやって来た。
コンコンッ「失礼します。」
「うん…。入っていいよ…。」
その言葉を聞いた侍女が部屋に入って来て…。
「ユセル様がナニカ討伐よりご帰還なされました。現在はミストラル様の執務室に居られるようです。」
「分かった、会いに行ってみる…。」
「メルの母が帰って来たみたいだな。俺の叔母だから、ちゃんと挨拶して仲良くなりたいが…。」
すっかりメルトと仲良くなったカインは『メル』と愛称で呼んでいた。
どうやら、ナニカの討伐に行っていたメルトの
母ユセルが帰って来たらしい。
カインは仲良く出来るか少し不安だったが…。
「お兄ちゃんなら大丈夫…。」
「カイン様が嫌われるなら、この世界の男はみんな嫌われてしまいますっ!!」
「いや…ソフィのは、かなり主観が入っているからな。」
完全な嘘ではないが、さすがに言い過ぎであるソフィア。でも、励ましてくれているので苦笑しながら答えるカイン。
「うむ、我も主がハゲでも大丈夫だっ!!」
「おいコラっ!!!結局ハゲましたみたいに言うなっ!!!まだ髪の毛あるからなっ!!」
突然、昨日の話を引っ張ってくるアルディオ。心配しなくても、ちゃんとカインの髪の毛は生存している。
「主は髪の毛に固執してるなっ!」
「誰でも14歳なら固執するわっ!!!
てか、お前も毛が抜けたら嫌だろうがっ!!」
「我は嫌だが、主なら嫌じゃない筈だっ!!
何故なら主にはハゲが似合うからだっ!!」
「……あぁ、なるほど…。
いやいやっ!俺も嫌だって言ってるだろうがっ!!!てか、似合うって何だよっ!!」
アルディオの自信満々の言葉に、一瞬納得しかけたカインだったが我に返って反論した。てか、似合う根拠が分からない。
「お兄ちゃん…早くお母さんのところへ行こ…。」
「そうですよ。自分のハゲが似合うからって、いつまでもその話をしないで下さいっ!!」
「ああ、悪かったな……。
って、俺は似合うとか言ってないだろうがっ!!!!」
そんな馬鹿な話をしながらミストラルの執務室へと向かう、他称ハゲとその一行であった…。
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「貴方がカインですね?私はユセル・ナタリシアです。娘共々よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
笑顔でカインに挨拶をしたのはユセル・ナタリシア…メルトの母である。肩までの短い金髪のエルフで、とても丁寧な口調をしている。
「あらあら、私が敬語だからってカインも敬語で話さなくても良いんですよ。私のは癖ですから。」
「えーと…分かった。ユセルさんと呼んでも良いか?」
「ふふっ、お姉さんでも良いですけど。」
「…確かにユセル姉さんの方がしっくりくるかな…。」
エルフは見た目が若い為、叔母さんとは思えないカイン。まぁ、ミストラルもお母さんとは思えない外見だが…。
「ユセルは、弟が欲しいとよく言っていたからねぇ。そう呼んであげたら喜ぶよ。」
「じゃあ、ユセル姉さんで。」
「ふふっ、ありがとうございます。こんな素敵な弟が出来て嬉しいです。」
ユセルはとても笑顔で嬉しそうにしている。エルフは長寿だが出生率が低く、滅多に姉弟など出来ないのだ。
だから、優れた相手が兄妹になると嬉しいのだ。
「私も…お兄ちゃん出来て嬉しい…。」
「メルトも嬉しそうですね。それにカインは非常に顔立ちが良く、強者の風格が漂っています。ナタリシア家に相応しい男でしょう。」
メルトとユセルは無表情の娘と笑顔の母、顔は似ているのに全く表情が違う親子である。
それに直ぐに認められた理由は…。
「ナタリシア家に相応しい男?」
「そうです。カインはメルトの相手に相応しい男ですよ。私は強い者が好きです。カインからは姉様レベルの強者のオーラを感じました。
一度は手合わせをしてみたいです。」
ユセルの笑顔でカインを見る目はとても好戦的である。実はユセルは少し変わったエルフなのだ。
「はぁ…。あんたも好きだねぇ…。
カイン、ユセルはかなりの戦闘狂なんだよ。エルフでも珍しいメイスを武器に、魔法ではなく身体主体で戦うんだ。」
「……ユセル姉さんが…。」
見た目の上品な立ち振る舞いからは想像が出来ない。あの身体でメイスを振るって戦うのは難しそうにも見えるが…。
「ふふっ、私以上の強者と判断したから、直ぐに家族として認めたんですよ。ナタリシア家に弱者は不要です。」
「なんかナタリシア家凄いな……。」
「カイン…あたしは違うからねぇ…。
ユセルと一緒にしないでくれよ……。」
ナタリシア家、もといユセルの意外な一面が発覚した。一緒にされては困るので、ミストラル呆れながらカインに違うと言っている。
「お兄ちゃん…強い…。どっかの雑魚とは違う…。」
「そういえば、自称婚約者はどこに行ったのかねぇ。」
〈どっかの雑魚〉からザックの事も思い出したミストラル。あれだけ居座っていた自称婚約者が消えたので疑問に思ったようだ。
「私はともかく、メルト自身にまで負けるような弱者を婚約者にするなどあり得ません。その様子では、まだ帰っていなかったのですね。」
「ザックは弱い…。私のメイスでボコボコ…。」
「……メルもメイスを使うんだな。」
珍しいメイス使いのエルフが親子で存在していた。メルトの無表情な顔で繰り出されるメイスの一撃は、非常に怖いものだろう。
「私は、ツインメイスの使い手…。」
「…………しかもツインかよ。」
あの身体の何処にそんな力が存在しているのか、全く理解出来無いカイン。
ツインテールにツインメイス…ダブルツイン怖いな。
「でも、諦めないとか言ってたけど一体何処に行ったのかねぇ。昨日も引き下がる様子は無かったけど。」
「次現れたら、私が排除しましょう。弱者に家族の周りをウロウロされるのは我慢出来ません。」
次にザックがノコノコ現れたらユセルに殺されそうである。
そんな事を話していたミストラルの執務室に…。
コンコンッ!!「失礼しますっ!!!」
ミストラルの返事を待たずに、慌てた様子で侍女が部屋の中に入って来た。緊急時の際には待たずに入るように指示されている。
「……何かあったみたいだねぇ。」
「はいっ!何者かが『深淵の樹海』に許可無く入ってしまいました。現在は詳細を確認中ですが、おそらく……。」
「ザック・バルシリガか…。」
深淵の樹海は、ナタリシア家が管理している。非常に危険な場所であり神聖な場所なので、入る際にはナタリシア当主の許可が必要である。
入り口を警備していたのは七星天兵団の兵なので、それを止められなかったという事は…。
「誰が入ったかを、警備をしていた者は口止めされていたようです。
ナタリシア家の圏内でそのような事が出来るのは皇族以上となりますので、現在フォレスタードに居るのはザック様しか居ません。」
「はぁ…。あのバカは面倒しか起こさないねぇ。」
ナタリシア家を色々と引っ掻き回すザックに溜息を吐きつつ、ミストラルはナタリシア家の当主として命令を下すのであった…。
次回、深淵の樹海へ…。
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