2話 自称器用貧乏
今回も気楽に読んでくださいね!
昼食を食べ終えた後…。
カインは知り合いのドワーフのいる鍛冶屋に向かう事にした。時折この場所に来て装備を整えたり、鍛冶についての師事をしてもらうこともあるのだ。
「親方っ!お邪魔するよっ!」
カンッ!!……カンッ!!……カンッ!!
元気よく挨拶したカインだったが、特に返事は帰って来なかった。金槌の音が聞こえるので、どうやら奥の工房に居るみたいだ。
(親方の地獄耳なら一応聞こえてる筈だ。とりあえず、出て来るのを待つかな。あまり邪魔すると迷惑になるし…。)
仕方無くカインは店内にある武器や防具の物色を始めることにした。
ここ【メリルの鍛冶屋】は知る人ぞ知る頑固なドワーフの『メリル』の作るランクの高い武器や防具が数多く存在している。そして、カインの使用する物もすべてメリルの作品である。
メリルは100歳になるドワーフのお婆ちゃんで、見た目は背の低い20歳代くらいに見える頑固者だ。
メリルの作る武具は世界でも上位の品であり、認められた者にしか名匠メリルの作品が渡されることは無い。つまりその作品を使用しているカインは、メリルに認められており師事まで受けている。
自覚はないが、世間的に見れば凄いことだ。
(うーん……今度新作の刀とかいう武器を作ると言っていたけど、かれこれ2週間は篭もりきり何だよなぁ。
ずっと1人で鍛冶してるけど親方大丈夫かな?)
一通り見学を終わったのでそんな事を考えていたカイン。
全く姿を見せないメリルの事がちょっと心配になってきた…。
しかし、その時……。
カンッ!!………………。
「あっ、終わったのかな。」
奥から聞こえてくる音がようやくやんだみたいだ。
すぐ様カイルは奥の工房へと走っていった。
「や、やっぱり…。親方っ!!!」
何ということでしょう!そこには、メリルの死体が………では無く力尽きているだけだが、メリルがうつむせに横たわっていた。
「はぁ…。しょうが無いなぁ…。」
カインはため息を付きながら、直ぐにベットのある部屋へとメリルを運んであげるのだった…。
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そして、3時間後…。
「はっ!こっ、ここはっ!!!」
ようやく目が覚めたメリルが大きな声を出した。
「親方おはようっ!やっと目が覚めたんだね。」
「ん?カインじゃないかい。あんたがここまで運んでくれたみたいだね。ありがとうよ。」
辺りを見回した後、自分の部屋である事とカインの姿を確認したメリルは何があったのかを察した。
「まぁいつもの事だしね。また徹夜で夢中になってたんでしょ?それだけ夢中になるって事は、よほどの作品みたいだね。」
メリルが熱中して周りが見えなくなるのはよくある事なので、それほど素晴らしい作品を作ったのだと予測したカイン。
「あぁ、今回のはかなりの自信作だよ!東方に伝わる刀っていう武器でね。今までは材料が良いのがなくて作る機会は無かったんだけど、あんたがこの前持って来た素材で良いアイデアが浮かんだ。
そして、ようやく良いのが作れると思ったら止まらなくてね。しかも完成間近だったから昨日から少し無理をしてしまったよ。」
メリルは、今回作った自分の武器にかなりの自信を持っているようだ。
「ふふっ、親方らしいね。その刀っていうのは俺にくれるって言う事でいいのかな?」
先日伺った時に新作の武器を渡すと言っていたので、この刀の事だと判断したカイン。
「もちろんだよ。あんたが持って来た材料で作ったんだから。それにまだ試作の段階で改良の余地がある。今度試した後で気が付いた点を言っておくれよ。」
「うん、わかったよ。明日…は予定があるけど、また明後日にでも試して感想を言いに来るよ。」
一瞬、明日試すと言おうとしたカインだったが明後日と言い直した。朝に決めたエルミナとの約束を思い出したのだ。
そんなカインを見て不思議に思ったメリルが問いかける…。
「ん?明日はなにか予定があるのかい?」
「エルと買い物にね。…ちょっと怒らしちゃってね。」
少しバツが悪い感じで話すカイン。
「ふーん。デートかい若々しいねぇ。」
そんなカインを察してメリルが羨ましそうにしているが…。
「うーん、デートとは言わないかな。エルも違うって言って、全力で否定して怒っていたし。」
少し悩んだ後、エルミナが怒ってのいたのでデートではないと勘違いしているカイン。エルミナは怒っていたのではないのだが、どうやら全く違う意味で捉えてしまったらしい。
「はぁ…。あんたは相変わらずだねぇ。」
そんな女心が分からないカインを見て溜息を吐くメリル。恋愛において全く進歩しない事に呆れている。
「俺、何か変な事言ったかな?」
カインはメリルの言っている意味がよく分からなくて、首を傾げている。
まぁカインにはまだ荷が重い案件である。メリルは、カインのパーティであるエルミナとも面識がある。
エルミナの分かりやすい態度から、カインに対する好意はすぐに理解していた。そもそもしていないのはカインだけである。
メリル言った意味を少し考えていたカインだったが、別の事を思い出して…。
「あっ、親方の為にスープ作ったから良かったら食べてよ。持って来るね。」
先ほど作った料理を取りに部屋を後にした…。
そして、一人部屋に残されたメリルは…。
(はぁ、あの子はなんで気がついてないのかねぇ…。あれだけアピールしているってのにエルミナも大変だねぇ。
まぁ、カインは恋愛以外ならよく気が利くし良い子なんだけどねぇ。)
メリルは苦笑しながらカインを待つのであった…。
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「ふぅっ、美味しかったよ。さすがカインの作る料理だねぇ。あのバロンが常勤で雇いたいって言うのも分かるよ。」
カインの作ったスープは、2時間煮込んだオークの肉やカインが特別にブレンドした調味料の効果もあって、とても柔らかく野菜の旨味が良く出ている。
貴族や王族にでも食べさせられるほどの完成度だ。
ちなみにバロンというのは、この街の高級宿の【日光の宿】の料理長をしている人だ。その人にも時折カインは小遣い稼ぎも兼ねて師事してもらっている。
高級宿だけあってレベルの高いものが求められるが、カインの料理ならその宿で出しても大丈夫なほどである。
「俺なんかまだまだだよ。バロンさんにはまだまだ敵わないし、俺の求めるレベルまで達してはいないからね。
親方にもまだまだ鍛冶についての師事をしてもらってるし、どちらも見習いの段階だよ。」
その道で最高位の存在と比べてまだまだと言っているカイン。実は、一般的に見れば見習いどころか一流のレベルに達している。
「あんたねぇ。わしの認めるほどの剣士であり、魔法を使えて冒険者でもベテラン。その上鍛冶についても、そこら辺の奴よりも良く出来て更に料理も出来る。
あんたさぁ…一体どこを目指しているんだよ?」
色々な分野において、最高位でないと納得しないカインを見てメリルはもう呆れ半分関心半分で複雑な心境である。
「俺は器用貧乏だからね。それでも何事も出来るようになりたいし、挑戦するのは楽しい。それに努力が報われた時には嬉しいから常に全力でやりたいんだ。」
「そこまで出来て器用貧乏って…。あんたがまだ発展途上でこのレベルってのが、さすがのわしにも怖いわ…。」
器用貧乏どころか超万能型のカインに対して若干引いているメリル。それに、能力的に見てまだまだカインの限界は上なのだ。
「親方も冗談が過ぎるよ。…あっ!そろそろ夕方だし俺はもう帰るね。
ちゃんと寝るんだよっ!刀の件は、また今度報告に来るから!」
納得行かない表情をしていたカインだったが、窓の外が暗くなっているのを見て帰ることにした。早く帰らないと孤児院の子供達が晩ご飯を待っていると思ったのだ。
「あぁ、気を付けて帰りなよ。」
「はーい、じゃあね。」
別れの挨拶をしたカインは、さっさと片付けをして帰っていった…。
そして、部屋のベットで寝転んでいたメリルは…。
(ふぅ…。冗談じゃないんだけどねぇ。天才でストイックだと色々な意味で大変だねぇ。
まぁあの子は自分の孫みたいで可愛いしねぇ。)
なんだかんだ言っても、可愛がっているカインとの時間が楽しい只のお婆ちゃんだった…。
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一時間後カインは孤児院へと帰って来た。もう辺りも非常に暗くなっている。
門を入ると孤児院の子供達が迎えに来ていた。
「カイン、おかえり!今日は何して来たの?」
「カイル兄ちゃん、街の外へは行ったのか?」
「カイ兄、夕食は私も作ったから良かったら感想きかせてね。」
カインの周りへ孤児院の子供達が集まってきた。どうやら、カイルが帰ってくるのを皆で待っていたみたいだ。
「ふふっ、一斉に言われても俺も答えられないよ。みんな先に食べていても良かったのに、待たせて悪かったね。」
「カイくん、みんな良い子なんだからカイくんの事待たないわけないでしょ。今度からもう少し早く帰ってこようね。」
少し離れたところに居たエルミナが頬を膨らましながらカインに説教をする。
そんなエルミナを見てカインは苦笑しながら…。
「ごめん、ごめん。親方がまたぶっ倒れてね。ちょっと様子を見ていたんだよ。まぁ次からは気をつける。」
「はい、そうしてください。」
カインの謝罪を聞いたエルミナは今度は笑顔になって答えた。
「カイン兄ちゃん、早く行こうぜ!」
「あぁ。俺もお腹減ったし、今日の料理も楽しみだよ。」
「カイ兄ちゃん、私も頑張ったんだからね。」
今度は子供達が一斉にカインに話しかける。色々とカインに聞いてもらい事が多いみたいだ。
「ふふっ。皆でカイくんの為に一生懸命作ったからね。」
そんな子供達をみて微笑んでいるエルミナ。
「おお、それはよけいに楽しみだな。さぁ行こうか。」
子供達の言葉に少し嬉しそうにしながらカインは皆を連れて食堂へと向かった。
その後、今日一日の出来事を話しながら夕食を食べるのであった…。
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「エル、明日何処行くか決めたのかな?」
現在カインは、孤児院の寝室で隣にいるエルミナと一緒に明日の事を決めているところだ。
「うん、前から行ってみたいと思っていたところがあってね。カイくんと一緒にずっと行きたかったんだ。」
少し弾んだ声で答えるエルミナ。
「ふーん、そうなんだ。それはどんなところか聞いてもいいかな?」
「ふふふ、それは明日のお楽しみって事で…。そういえば今日はミスティさんいなかったんだよね?
でも、ミスティさんならお金とか余裕の筈…。どうしても受けなけれてばいけない訳でもないのに、何で急にAランクの討伐なんて受けたのかなぁ?」
カインからミスティさんが遠出をしたと聞いて不思議に思っているエルミナ。普段なら日帰りのCランクの討伐依頼しか受けないのだ。
「うーん。前々から魔物が活性化しているような気がするって言っていたから、何か思うところがあったのかもね。それでギルドマスターにも頼まれてって感じなのかな?
まぁそのおかげで、徹夜で鍛錬した新魔法を見てもらえなかったけど…。」
大体の予想をしていくカイン。でも新魔法を見て貰えなかった事に不満があるようだ。
そんなカインの発言を聞いたエルミナが…。
「あーっ!!!それで昨日全く寝てなかったんでしょっ!!!
はぁ…カイくんは……。ねぇ、新魔法についてどんなのか聞いてもいいのかな?」
少し怒ったように言いながらも、結局はカインだから仕方無いと諦めるエルミナ。それよりも新魔法の事が気になったみたいだ。
「まぁ、それは又のお楽しみって事で。」
エルミナの問いをはぐらかすカイン。どうやらエルミナを再びからかっているようだ。
「ちょっ!!カイくんそれはずるいよ!私のは明日分かるけど、カイくんのはいつになるか分からないじゃない!!」
意地悪をするカインに頬を膨らましながら怒るエルミナ。カインは、そんな表情を見てやっぱり可愛いなぁをと思いながら…。
「ふふっ、ちゃんと明日見せてあげるから楽しみにしててよ。」
「もうっ!!約束だよ、絶対に忘れないでっ!!」
カインにからかわれた事が分かり、更に頬を膨らまして怒り始めるエルミナ。
カインは微笑みながらエルミナの頭を撫でて…。
「あぁ、わかったよ。…よしっ!明日の事もあるし今日はもう寝るかな。おやすみエル…。」
「う、うん…おやすみカイくん…。」
こうして、一瞬でエルミナをなだめたカインと頭を撫でられているエルミナは”同じベットの中”で抱きしめ合って寝るのであった…。
明日のデートを楽しみにして……。
次回もよろしくお願いします!