25話 これが主流
色々とぶっ飛んでおります…。
盗賊団『荒地の狼』の討伐の為、カイン達はカタールの外でチンバンが来るのを待っていた。
目の前には、漆黒で全長3mくらいの魔導四輪(仮)がある。
昨夜から魔導四輪(仮)の調節をしていたカインはかなり満足そうにしている。
「これでよしっ!チンバンさんの期待に応えて更に機能を付け足したから、これで大丈夫だろ。」
チンバンが前日の討伐会議で《楽しみにしておこう》と言ったので、カインは更に強化したのである。
「「……………………。」」
アルディオとソフィアはずっと沈黙している。
「お前ら、何でさっきから黙っているんだ。普段はあれだけ騒がしいのに。」
不審に思ったカインは自分の従者達に話し掛けた。普段からは考えられない珍しい光景だ。
「何かこの魔導四輪に足らない所でもあったのか?」
自分の作った魔導四輪に不備でもあると思ったカインは2人に質問したのだが…。
「「これの何処が魔導四輪だ(ですか)っ!!!」」
「ちゃんと4つの車輪と魔導エンジン積んでるだろ?」
「「それ以外の事だ(です)っ!!!」」
カインの作った魔導四輪は通常の機能の他に問題があった。そもそも車輪と魔導エンジンも通常の物では無い。
「それ以外か……。
○車内を時空術を使って外見より広くした事(20畳くらいの広さ)。
○仙術を使い、索敵地図機能を設置して周囲3kmを探知できる事。
○寝泊まり出来るように、台所や寝室を作った事。
○車輪を収納して、空を飛べるように改造した事。
○次元結界(最高位の結界術)を張れるようにしたり、プロミネンス砲(プロミネンスは火系統上位の仙術)を発射出来るように改造した事。
……………一体どれが問題なんだ…。」
もはや別次元の魔導四輪の機能を淡々と説明して、問題の原因が分からずに頭を悩ますカイン。
それに対してアルディオとソフィアは…。
「「今、説明した機能全部だ(です)っ!!!!
今までも凄かったのに、更に改造して飛んだり、防いだり、攻撃したり、とはどういう事だ(ですか)っ!!!」」
「な、何だとっ!!!!」
従者達の言葉に驚愕するカイン。
そもそもカインは普通の魔導四輪を知らないので自覚が無かった。ごく一部の者しか持ってない凄いマジックアイテムという事しか知らなかった。
そして、完全に超絶した機能を付けてしまった…。
「……まぁ、使えるからいいだろ。」
使えるどころじゃないが、カインはあまり気にしていない。自分の力や作った物に対して急に非常識になる。
これ一つで普通に国を滅ぼせるの力なのに……。
「…主だから仕方無いか…。名前はあるのか?」
「うーん。考えてなかったな。何か希望はあるか?」
あまり気にしても仕方無いと思い、名前の話に移行した。カインは名前を付けて無いので、従者達に聞いてみる。
「私は『世界の滅亡』が良いと思います。」
「我の『滅びの天狼』が適正だな。」
「………何故、魔導四輪に『滅び』を入れたがる…。」
せっかく作った移動手段に、滅びの文字を入れたがる従者達に納得出来ないカイン。だが、従者達は間違ってはいない。
で、カインの案は…。
「……じゃあ、新魔導四輪でどうだ?」
「「それは無い(です)っ!!!!」」
『新』を付け足しただけで終わる性能では無い。てか、空も飛ぶのに魔導四輪ですら無い。
「はぁ…。チンバンさんに決めてもらうか。」
「カイン様…噛犬さんは、名前とか言ってられないと思いますよ…。」
「もはや、討伐に噛犬は不要だな。」
チンバンは一体どんな反応をするのか。
3人は色々な思いの中、チンバンを待つのであった…。
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「やぁ、待たせたね。」
待つこと20分でチンバンがやって来た。
緑髪に白いライトアーマーのエルフの男は、かなり目立っている。
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺も魔導四輪の”調節”とかやってたので、長くは感じませんでした。」
※調節=改造。
あの後、従者達のリクエストで車内を50畳に増大して各部屋を作った。リビング、カインの主室、アルディオの専用寝室、ソフィアの使用人室、最後は客室だ。もちろんトイレや浴場もある。
車内を倍以上の広さにして、改装や家具設置をたった20分で終わらせた。
「へぇ、カインは魔導四輪の調節が出来るのか。
………で、肝心の魔導四輪は…。」
チンバンはカインに感心しながら、辺りを見渡した。漆黒の魔導四輪(仮)が視界に入る。
「おおっ!漆黒の魔導四輪かっ!!最新型って感じだなっ!
………でも、思ったより小さいな…。」
他では見たことが無い、漆黒の魔導四輪(仮)に興奮するチンバンだったが、荷物が多く入ると聞いていたので小さく感じた。
「外見より広いので大丈夫ですよ。今、俺の従者達も車内に居るので」
「ま、まさかっ!空間術を使ってあるのかっ!最新型は格が違うな…。」
空間術では無く時空術なのだが、確かに格は違う。
漆黒の魔導四輪(仮)に感心しつつ側に近付いて行くチンバン。
そして、中へと入って行った…。
「…………………………………………………………………………、何だこれはぁぁぁぁぁああああーーーーっ!!!!!!」」
長い沈黙の後、物凄い声で叫び出したチンバン。一瞬別の場所に転移したように感じただろう。
「チンバンさん、落ち着いて下さい…。」
「これが落ち着いて要られるかっ!!
いくら何でも広すぎるだろっ!!!窓から外が見えなければ、転移したと勘違いするぞっ!!」
車内の広さだけで興奮するチンバン。この調子では、他の性能知ったら気絶するだろう。
「今はこれが主流なんですよ。」
「私の知らないうちに魔導工学は進化していたんだな…。」
カインの主流であり、魔導工学の主流では無い。しかし、その言葉で落ち着いたチンバン。
「チンバンさん、部屋を案内するので荷物を置いて来て下さい。では、こっちです。」
「へ、部屋付き魔導四輪が主流か……。」
殆ど開き直って納得するチンバン。リビングだけでも10畳あるのに部屋もある。1人ずつの部屋が…。
「こ、個室だとぉぉぉおおーーっ!!」
「はい、寝室4部屋とリビングがありますトイレとや浴場もあり、操縦は操縦室で別の部屋となりますね。」
「これが主流か…時代は変わったな…。」
自分の常識が通用しないチンバンは、時代に取り残された気分になっていた。案内された部屋で少し落ち込むチンバンだった。
「まだ名前付けていないんですが、何か良い名前ありますか?」
「名前か……漆黒の車体だから『ジェットブラック』とか?安直な名前だが。」
「『ジェットブラック』か…。今までで一番良い名前です。決まりですね。」
「今まででどんな名前だったんだ……。」
《『滅び』または『新』を付けただけでした》とは言えないカイン。
結局、嫌な予感がしたので深くは聞かなかったチンバンであった…。
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その後、出発の前にリビングで軽く朝食をとり、ようやく出発する事になった。
「では、いよいよ出発します。”調節”後の操縦は初めてなので、少しゆっくり動き出しますよ。」
「すでに落ち着いたから大丈夫だ。いつでも良いぞ。」
「では、『ジェットブラック』発進っ!!」
ブォォォォンッ!!!
魔導エンジンの音が聞こえて来て、車体が少しずつ動き始める。そして、エンジン音が段々と静かになって来た。
「おおっ!動き出したなっ!!」
初めての魔導四輪の走行に興奮するチンバン。
だが、この『ジェットブラック』は魔導四輪では無い。
速度がどんどん加速していく…。
ヒュンッ!!!ヒュンッ!!!
窓の外の景色が物凄い速さで通り過ぎる。
現在速度は200㎞/h以上出ている。
「うぉぉぉぉおおおおーっ!!!速すぎるっっ!!!」
車体に殆ど振動が無いのに物凄い速度で走行してるジェットブラック。あまりの速さに叫び始めるチンバン。
そして、今度は車体が徐々に浮いてくる…。
「あ、あれ?地面から離れて行っているような…。」
その言葉の直後ジェットブラックは急上昇して行き、完全飛行モードに移行した。
地面が遥か下に見えている。
「と、と、と、飛んだぁぁぁぁぁぁああああーーーーっ!!!!!!」
あまりの事態に口をあんぐり開けて叫び出したチンバン。この世界でこの速度で飛行するマジックアイテムなど存在しないだろう。
「す、凄いですっ!本当に飛んでますねっ!」
「主よ、新機能は凄いなっ!!!」
「よしっ!成功だっ!」
試運転無しで初飛行だったので、ソフィアとアルディオもかなり興奮している。
順調な飛行に満足するカイン。これならあっという間に目的地まで着きそうだ。
「………これは夢だ…。こんなのあり得ない…。」
放心しているチンバンは現実逃避を始める。これはきっと夢であると信じたい。
そんなチンバンにカインは…。
「チンバンさん、これが主流ですよ。」
「なるほど、主流か…。
んな訳あるかぁぁぁぁぁああああーーーっ!!!」
カインの平然とした言葉に対して、流石のチンバンも納得出来なかった。遥か上空のジェットブラックからチンバンの叫び声が木霊していくのであった…。
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結局、この速度なら町を経由して行く必要が無いのでスルーを決めたカイン達。
現在はナタールを出発してから1時間が経っていた。
かなり混乱していたチンバンも時間をかけて、ようやく落ち着いて来たようだ。
「……ふぅ。やっと心が落ち着いた。」
「噛犬は流石の精神力だなっ!」
たった1時間で落ち着いたチンバンを感心するアルディオ。精神力が強いから助かったが、普通の人なら気絶しただろう。
「この精神力を見れば、噛犬さんがランクA冒険者である理由が分かりましたね。」
「私は精神力の強さでランクAになった訳では無いからな…。」
実力でランクA冒険者になったのに、別の意味で思われる事に納得出来ないチンバン。しかし、ハーレム事件も今回の件でも確かにチンバンの精神力は強い。
「それは荒地の狼の討伐で見せて下さい。この調子なら昼過ぎにはマダイラ谷に着きますよ。」
操縦室から索敵地図機能を使って、だいたいの到着時間を予測したカイン。片道5日が片道5時間になりそうだ。
「………早すぎるだろ…。
しかし、私はもうこれ以上は絶対に驚かないからなっ!」
「もう大丈夫ですよ、あまり大した機能付けてませんから。」
「ぶっ飛んだ機能が付いてるわっ!!!
……はぁ…何か討伐前に疲れた…。」
肉体的に疲労はないが、精神がゴリゴリ削られたチンバン。非常にお疲れである。
「昼食の時間に呼ぶので部屋で休んでいて下さい。」
「あぁ、よろしく頼む…。」
チンバンは客室に休みに行った。アルディオも自室で睡眠中で、ソフィアは車内を掃除している。
「ソフィ、お前も休んだらどうだ?」
「もう少しで終わりますっ!」
カインに話しかけられて嬉しそうに答えるソフィア。
「掃除してくれてありがとう。後で毛づくろいしてあげるからな。」
「は、はいっ!嬉しいですっ!!!」
ソフィアは尻尾をブンブン振って喜んでいる。獣人にとって毛づくろいは特別な事なのだ。自分以外は大切な人にしか許さない行為である。
そんなソフィアの様子を見ながらカインは”自動操縦”に設定してリビングへと向かうのであった。
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「か、勝手に動いてるだとぉぉおおーっ!!!」
昼食に呼ばれたチンバンは先ほど驚かないと発言したが、いきなり驚愕している。
「自動操縦が今は主流です。」
「お前…主流と言えばなんでも通ると思ってるだろ…。」
ぶっ飛んだ昨日全てを主流と言って片付けるカインを白い目で見るチンバン。
カインの主流だから、あながち間違ってはいない。
「……まぁ、次こそ驚かない。もう大丈夫だ!」
自分でフラグを立てるチンバン。カインが改造した、もう一つ最大の機能を知らないから仕方が無い…。
「とりあえず、昼食をとりましょう!
…最終確認ですが、討伐作戦は殲滅で良いんですよね?」
「それで良い。……突然どうした?」
突然、討伐の内容を確認したカインを不審がるチンバン。何か訳でもあるのかと思っていると…。
「いえ、まず荒地の狼の拠点に向けて先制攻撃をしようと思っただけです。”それなり”の術が使えるので、空から拠点に撃とうと考えてました。」
「なるほど…。窓から魔法で先制攻撃か…。
よしっ!それで行こうっ!」
「分かりました。任せて下さいっ!」
任された事に張り切っているカイン。
そして、最終確認を終えてご飯を食べ始める4人だった。
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現在、マダイラ谷『荒地の狼』拠点上空。
索敵地図機能で確認をしたカインはチンバンに報告する。
「あそこで間違い無いみたいです。」
「………どうやって調べたかは聞かん…。
了解した。予定通り先制攻撃を頼む。」
物凄く気になるが、疲れるだけなのでもう深く聞く事をやめたチンバン。
「分かりましたっ!」
チンバンからの許可を取り、操縦室へと向ったカイン。覇気を込めていきプロミネンス砲の発射準備をしていく。
「な、なんかカインから凄い力を感じるな…。」
カインの覇気による圧力に萎縮するチンバン。常人なら気絶するレベルなので、流石精神力系ランクA冒険者である。
「精神力系違うわっ!!!!
………私は何を言っているんだ?」
その間にも覇気は溜まっていく。
ジェットブラックの周囲の空間が歪み始める。
そして発射の時が来た…。
「プロミネンス砲、発射っ!!!」
ゴォォォォオオオーーーッ!!!
凄まじい轟音と共に、圧縮された高熱を帯びた一筋の光が発射された。ジェットブラックは次元結界を張っているので大丈夫だが、周囲の温度は灼熱の如く上昇している。
そして、拠点へと着弾する。
ドォォォォォォオオオオオオオンッ!!!!!!
着弾すると同時に直径2kmの範囲で超高熱の大爆発が起こった。圧倒的熱量と衝撃波によって周囲の物が崩壊していく。
暫く余波が続き、ありとあらゆる物が消滅して行く。そして、そこには…。
「周囲敵影無し、目標の殲滅成功。これにて討伐作戦を終了する。」
カインが発した言葉通り、着弾した2kmには大きなクレーターしか残っていなかった。全てを溶かし消滅させたのだ。
「さすが主だな。凄い威力だった。」
「カイン様は盗賊には本当に容赦しませんね。非道な事をしていたと聞いたとはいえ、文字通り消滅させるとは…。」
この威力を生み出したカインとジェットブラックに感心する2人。
『荒地の狼』は主に女性を攫って卑猥な行為をした後に奴隷にして売る、という手段を多く使っていたらしい。話を聞いた途端、カインは覇気を洩らして激怒していた。
なので、索敵地図機能で盗賊以外の人物を確認出来なかったので、容赦無く殲滅する事にしたのだ。
「どんな女性にでも優しくするのが男なんだ。女性を大切にしない下衆など存在する価値が無い。男なら女性を守ってみせろ。」
カインはどんな女性にでも優しく接する。
男には容赦しないが、女性なら悪い行為をしていてもちゃんと向き合って話をする。
前回のフェニミの件でも優しく接したのが良い例である。
「……そして、主は無意識に女を落とす…。」
「だけど、カイン様…カッコいい…。」
少し呆れながらでも、カインに対する気持ちは変わらない従者達。これからもカインによる被害者?は増えていくだろう。
「ふぅ……。やっぱり、このジェットブラックは燃費が物凄く悪いから俺にしか使えないな。これでも最大量は”それなり”にあるのに…。」
一気に大量の魔力を消費したので少し深い息を吐くカイン。
「……主より多い者などこの世界には存在せん…。」
「完全にカイン様専用ですね…。」
接近戦を得意とする魔力のやや多い程度の自分達では絶対に出せないほどの魔力の消費を感じて自分達では無理だと判断する2人。
「まぁ、なるようになったから問題無いだろっ!」
多少の欠点はあったが、中々の活躍を見せたジェットブラック。今後はコレが主流になってくるだろう。
「よしっ!帰るかっ!」
討伐クエストを達成したカイン達はカタールへと戻っていくのであった。
だが、忘れてはいけないのが……。
「………………。うぉぉぉぉおおおおーっ!!!凄すぎて何が何だが分からねぇぇええええーーーっ!!!!」
「チンバンさん。これが、今の主流ですよ。」
着弾からずっと思考停止していたチンバンは、ようやく我に帰り本日6回目の驚愕の叫び声を上げるのだった…。
次回、カインVSチンバン
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