24話 命名ごうけん
すみません。タイトルを「エレメント〜始祖の血脈〜」から『無自覚だけど世界最高の男』に変更しました。
今後共よろしくお願いします(;•̀ω•́)
ギルド騒乱から翌日、カイン達はギルドマスターのイジェルの部屋にやって来た。
指名依頼の内容を聞く為である。
「おう、来たかっ!わしがお前達に合った指名依頼を用意してやったぞ。ランクA冒険者向けのクエストだ。」
「俺達ランクC冒険者にランクAのクエストを用意するとは、何でも有りですね。」
通常、冒険者ランクの1つ上と同ランクのクエストしか受ける事は出来ない。そもそもランクAの依頼は非常に上位なクエストである。
「お前らにはランクAで調度良いだろ。装備も古代クラスの品だろ?わしは昔鍛冶もやってたからSS級の品など直ぐに分かる。」
「これってSS級だったのか…。」
「お前…どのクラスだと思ってたんだよ…。」
カインは自分で製作したのだが、特にランクは気にした事が無かった。そもそも天宝製作術で色々な古代術を付与しているので、確実にSS級以上の品は作れるのだ。
装備だけでも七星天兵団の師団長クラスである。
「まぁ、いっか…。使える物は使える。」
「……使えるどころじゃないけどな…。
はぁ…。クエストの内容についてだが『荒地の狼』と言う盗賊団の事は知っているか?」
「お、狼だとっ!!知っている、高貴な存在だっ!!」
イジェルの言葉に反応したのは駄犬。
もちろん内容は全く聞いていなかった。
「アル…狼だけに反応するなよ…。盗賊団だって言ってただろ?高貴な訳ないからな。」
カインは通常運転のアルディオに苦笑している。
高貴な盗賊団ってあり得ない…。
「いや、その盗賊団なんだが、元ランクA冒険者と元王族が頭領と副頭領をやっている。三色のエレメント顕現者だから、あながち間違いとは言えないな。」
「ほら、主よっ!我の言葉は正しいっ!」
いつも通り、ドヤ顔で大きな胸を張るアルディオ。
「……盗賊になった時点で、三色エレメントでも高貴じゃ無くなってるから。盗賊はみんな下衆だ。」
「カイン様は盗賊凄い嫌いですよね…。」
「俺は自分が弱いからと言って、自分より弱い奴から全てを取り上げる下衆共が一番嫌いだ。例え才能がなくても、力が無くても弱い者から奪っていい訳がない。
弱いなら弱い者の気持ちを知っている筈だからな…。」
カインは盗賊が嫌いだ。自分で努力を怠って弱い者から奪う。盗賊よりもっと弱い者でも必死に耐えているのに、自分が虐げられたのを人にぶつける下衆が大嫌いだ。
「まぁ、カイン様は物凄く努力してますからね…。戦闘だけじゃなく全てにおいて…。」
カインの事を才能の言葉で片付ける者は、実際の鍛錬内容を知っていたら絶対に居ない。この世界でカイン以上の努力をしている者は存在しないだろう。
「なるほどな…。そんなに若いのにそれだけの力を持っているのは必然って事か。余計に安心して任せられる。
で、話を戻そう。その『荒地の狼』なんだが、さっき言ったように規模も大きくて、戦闘能力も高い。だからギルドも討伐するのに困っていてな。ランクの高い冒険者はナニカ討伐で不在が多いんだ。
うちのランクSも今は不在だしな…。」
「……ナタールにはランクSが居るんですね。」
ランクS冒険者は世界で10人しか存在していない人外の存在である。三色以上のエレメント顕現者であり基礎能力がとても高く、実力も七星天兵団の団長クラスと言われている。
「そうだ、わしと同じドワーフ族で名前はハグリー・バインダル。『破壊王』の二つ名で呼ばれている。」
「ハグリー・バインダル……名字があるって事は皇族ですか?」
カインはランクS冒険者で名字持ちなので、四色のエレメント顕現者だと予想した。それほどまでにランクS冒険者は強くて希少だ。
「そうだ。でも皇族なのに七星天兵団に所属していないからランクS冒険者という事だな。あいつが使う戦斧は〚灼熱〛のエレメントを組み合わせて、全てのモノを破壊出来る。」
〚灼熱〛は〚太陽〛のエレメントと同じく、火系統のエレメントで最高位である。その中でも身体能力強化の攻撃力に特化したエレメントだ。
「なるほど…。それは会ってみたいですね。」
「まぁ、ここでしばらく指名依頼をこなして、ランクAの試験を受けるんだ。そのうち出会う機会もあると思うぞ。」
「分かりましたっ!私もハグリーさんを頑張って討伐しますっ!やる気が出てきましたっ!」
「うむっ!ランクS冒険者の討伐なら相手にとって不足無しっ!!」
ソフィアとアルディオがやる気に満ち溢れている。
獣耳美少女のコンビならランクSと言えど渡り合える事が出来るだろう。
だがしかし…。
「………お前ら、相手間違えてるから…。」
「やっぱりお前大変だな…。このお嬢ちゃん達は本当に一部しか話聞いてないな…。」
やる気の二人とは反対に、やる気を無くすカインと完全に呆れているイジェル。
アルディオは荒地の狼の話には参加していたが、本当に狼だけに反応していたらしい。
「まぁ、後でちゃんと言い聞かせておきます。
その荒地の狼の討伐内容を詳しくお願いします。」
「そうだな。まずさっき言ったように規模が大きくて200人以上いる。流石にお前ら3人だけで相手をするのは大変だろう。頭領と副頭領も強いしな。
そこで、もう一人ランクA冒険者を紹介するから一緒に討伐へ向かってくれ。場所もそいつに案内させる。」
「ランクA冒険者ですか…。」
実質ランクSを除けば、ランクAは通常なれる最高ランクとなる。そのランクAともなれば、かなりの使い手のはずだ。
「ランクAの中でも上位の冒険者だ。エルフ族の男でチンバンという名前だ。三色のエレメント顕現者だが、王族にはなってない。」
三色以下のエレメント顕現者は本人が不要と思えば身分は平民にもなれる。王族や貴族による統治の義務が嫌いで、平民として気楽に暮らす者も多い。
「なるほど、チンバンさんですか。現在はナタールに居るんですよね?」
「そうだな。まずは顔合せをして話し合ってくれ。各々の自己紹介も必要だしな。」
「分かりました。チンバンさんの所在地は何処ですか?」
「………それなんだが…。」
カインの質問に言い渋るイジェル。何故か言い難そうにしている。その様子を不審に思ったカインだったが…。
「……多分、女達と一緒に居る。」
「女達と一緒に居る?複数の女性とですか?」
「あぁ、そうだ。あいつは『舞剣聖』の二つ名を持っていて、見た目も良くてモテるんだ。エルフ族の中でも一番だと自称しているくらいにな。」
「人気のランクA冒険者ですか…。俺は一回もモテた事無いので、羨ましい限りです。」
人生で一度もモテた事無い(自称)カインは、本当に羨ましそうにしていた。
そんな様子を見てイジェルは溜息をつきながら…。
「はぁ…。とりあえず泊まっている宿を教えるから行って来い。それを見て判断するんだな。」
「分かりました。行って来ます。」
カインは全く話を聞いていなかった従者達に二度手間な説明をしつつ、チンバンの泊まっている宿を目指すのだった。
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とりあえず、顔合わせの為にチンバンの宿へ向かったカイン達。
チンバンは居ないかもしれないので、昼食を宿の食堂で食べる事を頭に入れて来たのだが…。
「きゃーっ!チンバン様、素敵ですっ!」
「チンバン様っ!私の相手もして下さいっ!」
食堂で一部騒がしい集団を見つけた。緑髪のエルフ族の男が真ん中で他の4人は全員女性である。
いわゆるハーレム状態だ。
「凄い人気だなっ!初めてハーレムを見たけど、さすが顔が良いランクA冒険者はモテるな。」
”初めて見る”ハーレムにカインは興味津々だ。
それは当たり前だろう。普段は自分自身がハーレムになってるから自分では見たことが無い筈だ。
「主よ…やっぱり鏡を見た方が…。」
「アルディオ…カイン様に言っても意味ないですよ…。」
無自覚の主人の事を従者達は呆れている。普段は天然バカな2人も、大好きなカインの事には敏感なのである。
「ん?何をしているんだ、行くぞ。」
2人の様子を全く気にしないで、カインはチンバンの元へ向かった。
「チンバン様、あーんっ!」
「はははっ!これも旨いなっ!!」
凄い入りづらいハーレム状態のチンバン達。だが、カインは特に気にした様子も無く話し掛けた。
「すみません、貴方がチンバンさんですよね?」
突然話し掛けられたチンバン達。
まず先に反応したのはハーレムメンバーの女。
「ちょっとっ!私達の邪魔をしな………。」
振り返って文句を言っていた女だったが、カインの姿を見た途端に急に固まった。他の3人の女達も固まって、カインの顔をじっと見つめている。
「ん?どうしたんだ私の子猫ちゃん達。
……何だ君はっ!私の子猫ちゃん達が固まってしまったじゃないかっ!!」
突然固まってしまったハーレムメンバーに困惑するチンバン。近くにいる原因のカインに矛先を向けた。
「えーと、何故固まったのかは知りません…。
俺はカインといいます。『荒地の狼』の討伐クエストの顔合わせに来たんですよ。」
カインも、未だ自分を見て固まっている女達に困惑している。しかし、とりあえず要件を伝えた。
「あぁ!イジェルから頼まれたクエストかっ!その件は分かった。
だが、この子達に何をしたんだ?」
チンバンはクエストについては理解したが、ハーレムメンバーが固まったのは看過できない。
分からないのはカインも同じなのだが…。
「俺にも分かりません…。
えーと、お姉さん達?大丈夫ですか?」
とりあえず、声をかけてみる。
すると、カインの声で我に返った女達が…。
「「「「は、はいっ!!大丈夫ですよっ!」」」」
一斉にカインに返事をする。何処か緊張しているようだ。
「それは、良かったです。貴方達はチンバンさんの恋人達ですよね?」
ようやく動き出した女達に少し安心したカイン。一応、事実確認でチンバンとの関係を聞いたのだが…。
「「「「違いますっ!!」」」」
「「……………。えぇーーっ!!」」
まさかの全員否定に一回沈黙した後、驚いて叫び出したカインとチンバン。
カインも驚いたが、チンバンが一番驚いていた。自分のハーレムメンバーから急に拒絶されたのだ。
今度はチンバンが固まってしまった。
「そ、それより貴方は誰ですか?」
「そうですっ!お名前を教えて下さいっ!」
「私達と一緒にご飯食べましょうっ!!」
「カ、カッコいい…、好き…。」
女達はカインに詰め寄って来て、色々と話し掛けてきた。もはやチンバンは完全に無視だ。
「え、えーと…。カインといいます。貴方達とチンバンさんの関係は何ですか?」
「「「「赤の他人です。」」」」
「そ、そうですか……。」
ハーレム状態から一気に奈落の底へ突き落とされたチンバンが哀れになってきたカイン。
だけど、原因が全く理解出来無い…。
「……すみません、俺達は今から討伐クエストの会議をしようと思うので、席を外してもらっても良いですか?」
「はいっ!でも、また会ってくださいねっ!」
「今度はちゃんと自己紹介させて下さいっ!」
「買物にも一緒に行きましょうねっ!」
「カ、カッコいい…、またね…。」
カインが一回お願いしただけで、すんなり言うことを聞いてくれた女達は、一言ずつ話して居なくなって行った。
チンバンの周りは、さっきの甘い雰囲気が嘘のように、物凄い暗い雰囲気へと変わっている。
まさに天国から地獄。
その様子を遠くから見ていたアルディオとソフィアがやって来た。
「おおよそ我の予想通りだったな。」
「私はカイン様が乱入した時点で、ハーレム滅亡の未来が良く見えていました。」
「…………なんの話だ…。」
完全に展開を読んでいた従者達と全く話について行けないカイン。
まぁ、要するに顔の良いチンバンに集まった女達は、数倍以上顔の良いカインを見て気が変わってしまったという事だ。普通の女が一度カインの顔を見てしまうと、そこら辺の男の顔がブサイクに見えると言われている。(スズ曰く)
『ハーレムブレイカー』カインと『ナンパマスター』ヒロ。オボルでは有名な2人だった。(スズ曰く)
「主の前には誰でも『噛ませ犬』だな。」
「『噛ませ犬』さんは、身の程がよく分かったでしょう。」
特に、チンバンのフォローはしない2人。
彼女等にはカイン以外の男はどうでも良いのだ。
「…………お前ら噛ませ犬とか言うな。ちゃんとチンバンさんと呼べよ。」
その後、『噛犬』のあだ名を付けられたチンバン。彼は一生立ち直ることの出来無い傷を負ってしまっただろう。
さようなら、元ハーレム者のチンバン……。
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「改めましてカインです。
チンバンさんよろしくお願いします。」
「チンバンだ、よろしく頼む。」
なんとか立ち直ることが出来たチンバン。
現在はチンバンの泊まっている宿の食堂で、あの滅亡事件から3日が経っていた。
「さすが噛犬だな。あれだけの事があったのに3日で立ち直るとは。」
「そうですね。噛犬さんのそこの部分だけは尊敬しますよ。」
天国から地獄の出来事があったのに、3日で立ち直った精神力を褒めるアルディオとソフィア。確かに尋常ではない精神力だ。
「なぁ、君達は何故私の事を『ごうけん』と呼ぶのだ?私は細剣を使うから剛剣では無いけどな。」
「違うっ!剛剣では無く噛犬だっ!!」
「……一体どういう事だ…。」
もちろん言葉だけで、字は見えないのでチンバンは何を言われているのか理解出来無い。
いや、しない方が良いだろう。
「チンバンさん気にしないで下さい…。
本題に入りましょう。只でさえ3日遅れてます。」
「君に言われたく無いんだが…。」
地に落ちた原因のカインに納得出来ないチンバン。3日しか遅れなかったのは凄い事なのに。
「まぁ、いいだろう。『荒地の狼』の討伐だが、奴らはここから東にある『マダイラ谷』に拠点がある筈だ。
片道5日の道のりで、何個か町を経由していく。時間がかかるので明日には馬車を借りて出発しよう。」
「分かりました。しかし、馬車より良い乗り物を俺の方で用意しますよ。結構な量入るので荷物量の事は気にしないで下さい。」
「おお、それは助かるなっ!!私もアイテムボックスは持ってないからアイテムバックだと量も限られて大変なんだよ。魔導四輪持ちとは…イジェルから聞いていたが、かなりの人物だな。」
魔導四輪とは馬車とは違い、馬は必要無く魔力で車輪を動かすマジックアイテムだ。振動軽減や軽量化の術が付与されており、悪路でも走る事が出来る。しかし、かなり高額な物でもある。
なので、魔導四輪はごく一部の者しか持っていない。
「……魔導四輪とはちょっと違うのですが。まぁ、色々な機能があるので楽しみにしていて下さい。」
「おお、最新型の魔導四輪かっ!!楽しみにしておこうっ!」
イジェルからカインは皇族では無いかと聞かされているチンバン。なので、皇族が持つ魔導四輪にかなり期待している。
3日で立ち直ったのは相手が皇族だと思ったのも要因である。
そんなチンバンの様子を見ていた従者達は…。
「明日は噛犬は腰を抜かすだろうな…。
我はあれが魔導四輪だとは思わん。」
「……噛犬さん、喜んでいるのも今のうちですよ…。
予想の遥か上空を行く筈です…。」
とても意味深な事を話し合っていたアルディオとソフィアだった。
果たして、カインの言う乗り物とは…。
次回、荒地の狼の命運は…。
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