22話 未来に向けて
下衆王ダマンの実力は?…。
謁見の間に爆発音と共に突入していくソフィア。
直ぐにあたりを見渡すと、玉座に平然と座っている男が一人。
その男から10mくらいの位置で止まる。警戒したまま武器を構え、ソフィアは声を掛ける。
「貴方がシリアクヤ王ですか?」
「そうだ、俺がダマン。貴様はメイド服を着ているが、この城では見た事ないな。」
「このメイド服は私の正装であり戦闘服です。それに、私がお仕えしているのはカイン様だけですので、この城などあり得ませんね。」
「へっ、いい顔と身体しているのに残念だな。お前なら妾にしてやっても良かったのに。」
ダマンはソフィアの身体を見渡しながら言っている。その様子に嫌悪感を感じたソフィアは、その言葉を無視して本題に入る。
「………貴方の噂は本当なんですか?」
「なるほど…。お前はキリークの言ってた皇族のガキの従者か。うまく誘い出したとか言ってたが…使えない部下だな。」
「否定しないという事は、肯定と捉えます。ちゃんと確認を終えましたので、このまま処理いたします。」
否定しなかったダマンを黒と判断するソフィア。処理すると言った途端、濃い殺気がソフィアからダマンに放たれる。
「うぉっ!ものすごい殺気だな。お前もただのガキじゃないって事か…。
だが、俺をそんな簡単に殺せると思うなよ。」
その言葉と共にダマンからも威圧が放たれる。そして、近くに置いていた大剣を手に取り両手で構えた。
「……まぁまぁの威圧ですね。しかし、この程度の相手にカイン様のお手を煩わせる訳には参りません。私で終わらせていただきますっ!」
「はっ!ほざけっ!!」
二人が同時に動き出した。
まずはスピードが圧倒的に早いソフィアがダマンとの距離を一瞬で詰めて、側面から斬りつける。
その攻撃を大剣を盾にしてソフィアの身体ごと弾くダマン。
弾かれたソフィアだが直ぐに態勢を立て直し、再び攻撃を行う。ダマンの頭上から斬り付けに行くソフィア。
そんなソフィアの攻撃に対して、咄嗟にダマンは大剣を上段に構えてソフィアに向けて振り下ろした。
ブォンッ!!!
物凄い風切音が聞こえてソフィアの身体が真っ二つになる。
「ちっ!!手応えが無いっ!!」
ダマンは斬った対象に手応えを感じ無かった。
すると、真っ二つになった筈のソフィアの身体は、影に変化して行き消滅する。
斬られた影は、ソフィアの[影写転化]でによって作られた、ソフィアにそっくりな偽物である。
本体のソフィアはダマンの背後をとった。
「[風影閃華]っ!」
6つの影の斬撃がダマンに近付く。
「くっ!!」
1つ目斬撃を大剣で防ぎ、2つ目も防いだダマンだったが、他の4つは防ぎ切れずに攻撃を受けた。
そこにソフィアは更に追撃を仕掛ける。
「[影狐迅雷]っ!」
狐の形をした2mの影が更にダマンに迫っていき追い打ちをかけた。
バァァンッ!!
ソフィアの連撃を防ぎ切れなかったダマンは攻撃をモロに受ける。ダマンの身体に複数の傷を作った。
「はぁはぁ…。」
ダマンは片膝を付いており、息が荒い。
ソフィアはダマンと少し距離をとって様子を見る。
「はぁはぁ…凄い速度だな…。今の俺では全く身体が付いて行かないみたいだ…。」
「この程度の速度に反応出来ないとは、貴方は本当に王族なのですか?エレメントに頼っているとしても、基礎能力が低過ぎますね。」
「はっ、確かに俺は弱い。だが、お前の言う通り、俺には三色のエレメントがあるっ!」
ダマンの周りにエレメントが収束していく。黒を基調とした三色のエレメントを纏っていく。
「はははっ!王族の俺を敵に回した事を後悔するんだなっ!!消え去る光へ闇に誘う苗床となれ〚漆黒〛顕現せよっ!!」
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少し時を遡る。
カインは謁見の間に、二人が戦い始めた直後には辿り着いていた。
「始まったか…。ソフィはちゃんと事実確認をしたのかな?」
そんな事を呟きながら、近くにいた兎耳の少女に気が付いた。そして、カインは話し掛ける。
「貴方は誰ですか?ちなみに俺の名前はカインです。」
兎耳の少女フェルミもカインに気が付き、問に応える。
「あ、貴方がカイン様ですねっ!私は旧王族の王女でフェルミ・ラダサトリと申します。」
「………旧王族の方が何故ここに?」
「はい、私は2ヶ月間牢屋に閉じ込められていました。そして本日、この城の一室に連れて行かれました。そして、その部屋で男に襲われそうになった所、今戦っているソフィアさんに助けてもらったのです。」
フェルミはここまでの経緯を大まかに説明する。
カインは質問を続ける。
「何故貴方は捕まってしまったのですか?」
「………父様がナニカとの戦闘を見せると言い出したので、私と母様は一緒に付いて行きました。その時に、戦闘によって傷付いた父様をキリークが殺して、その後母様が殺されました。そして、私はダマンによって捕まってしまいました。」
「……分かりました。」
カインはフェルミの話を聞いて返事をする。
そして、鞘に収めたままの剣を”フェルミ”に向けて構えた。
「……なんのつもりですか?」
突然、自分に向けて剣を突きつけられたフェルミだが、平然とした様子でカインに尋ねる。
「さっき言った通りだ。お前の話を聞いて全てを理解した。今回の旧王族失踪事件の内通者はお前だな?」
「一体何を言っているのです?私も貴方の言っている旧王族の一員なのですが?」
「とぼけるか…。仕方無い、一から説明してやる。」
カインの言っている事が理解出来無い、といった顔をしながらが質問をするフェルミ。
その答えをカインは話し始めた。
「今回の事件は奴隷狩りの問題から始まった訳だが、キリークの話を聞いた時から不審な点が3つあった。
1つ目は、キリークが情報交換の為に、情報料では無く奴隷を買えと言った事だ。
俺の奴隷に対する態度を見て、善悪を判断する為にも見える。だが、俺の聞いた情報はキリーク以外の奴隷商人なら、何の代償も無く直ぐに教えてくれた。実はキリークの後にもう一人違う隷商人に聞いたからな。
それなのに、いきなり警戒して部屋の中まで連れて行くって事は、キリークは黒。
初めから俺らを殺すつもりだったと分かった。でも、予想以上に俺が強かったから殺せなかったという所か。
まぁ、そのおかげでソフィに出会えた事には感謝しているけどな。
2つ目は、旧王族が”失踪した”と言った事だ。そもそも、ダマンは旧王族がナニカに殺された事にすれば良かった。しかし実際は、失踪という曖昧な事になった。
何故それをしなかったか?
それは、旧王族の生き残りが居たからだ。
生き残りが誰かに知られた時に、殺害された事にしていれば、嘘だったと分かってしまう。だが、失踪だと例えフェルミ発見されても、失踪中の旧国族が見つかっただけで終わるという事だ。
3つ目は、ダマンが本当は七星天兵団に所属していない事だな。
旧国王は七星天兵団の第五師団大隊長。その大隊長が殺されたんだぞ。失踪なんかにして有耶無耶に終わらせる訳が無いだろ?徹底的に調べ上げる筈だ。
それが行われなかったという事は、ダマンが七星天兵団に所属していないと直ぐに分かる。七星天兵団の事を良く知らない、ただの王族でしか無い存在だとな。
てか、お前から聞いた話も不審な点が多い。
ソフィは気にしていなかったが、そもそも2ヶ月閉じ込められていたお前が、今日になって急にタイミング良く出して貰えるとか偶然過ぎだな。
それに、旧王族を襲うとなれば捕まえた時点で襲っている筈だ。しかも、そこら辺の雑魚では無くダマン本人がな。
だから、襲われていたのは演技だったと考えられる。演技をしたのは、キリークから今日俺達が侵入して来ると知っていたからだろ?俺らを油断させて簡単に殺す為にかな?
これらの理由から、生き残ってるフェルミが旧王族殺害の内通者という訳だ。」
パチパチパチパチッ!
ずっと黙ってカインの説明を聞いていたフェルミだったが、突然拍手をしてきた。
「短い間でよく分かったわね。その通り、私がダマンと協力して実行させたわ。
まさかここまでバレているとは思わなかった。」
フェルミは口調を変えて話し始める。自分が協力したと自白した。
「てか、捕まって襲われそうになった奴がノコノコとソフィに付いて行くとか有り得ない。普通なら恐怖で、ダマンの所には行きたくない筈だ。」
「……なるほど、確かに軽率だったわね。
あなた達は元々そういう作戦で城内に侵入したって事かしら?キリークから聞いていた作戦とは全く違うし。」
「まぁ、確実な証拠は無かったが、九割確信して行動したかな。だから、”騙された振りをして逆に全部自白させてから殺る”つもりだった。」
さっき2人が言っていた作戦名を普通に内容として話すカイン。この内容が勝手に作戦名だと思われていたとはカインは知らないだろう。
「……それ、さっき聞いた作戦名ね。」
「はぁ?俺は作戦名など言ってない。ただ作戦の内容を言っただけだ。」
「……普通はそうよね。でも、さっきあなたの従者が内容を作戦名として言ってたわ。」
「……ソフィ…いや、アルも言ってる様な気がしてきた。」
さすがカイン、確かにアルディオも言っていた。てか、そもそも作戦内容が大事なのでカインは作戦に名前など付けていない。
「まぁ、いいわ。ここまで知られたからには全員殺すしか無くなったわね。初めから殺すつもりだったけど、正面から挑む事になってしまったわ。」
「降参するか?俺には勝てないだろ?」
「そんな事出来る訳無いわ。私は親を殺しているだから、もう後には引け無いのよ。」
あまり戦闘が得意では無いフェルミだが、後には引け無い為に覚悟をしているようだ。
「はぁ…。ダマンに唆されて親を殺すとはね。」
「………そこまで分かっているのね。私はダマンが好きだったわ。とても優しくしてくれたから。
でも父様も母様も反対して全然聞いてくれなかった。その事をダマンに話したら、二人で暮らす為に殺そうと言って来た。私は迷ったけど、彼の為に殺す事にした。ダマンを新しい王にしてずっと二人で暮らす為にね。」
元々、フェルミはダマンを愛していたが、両親に反対されて違う男と結婚させられそうになった。
それが決断してしまった理由でもある。
「だが、ダマンはお前の事を愛していなかった。利用する為に騙して協力させた。第二王子で自分の国の王になれないから、お前を利用してこの国の王になる為にな。
初めは優しくしていたが、自分が王になってからは、お前の事は全く相手にせず、村々で若い女を奴隷にして城に連れ込んで……。」
「………そうね、気付くのが遅かったわ。彼は私なんか見ていなかったという事にね。
でも、もう後戻り出来ないのは知っているでしょ?」
フェルミは後悔していた。だけど直接殺した訳では無いが、親殺し協力した事は変わらない。
そんなフェルミに対してカインは…。
「後戻りなんて誰にも出来ないな。」
「そうよ、だから私は……。」
「違う、確かに後戻りは出来ない。
だがお前…フェルミは、後戻りが出来ないんじゃない。ダマンの本当の姿に気が付かず、両親を殺してしまった事から逃げているだけだ。
どんな後悔しても、過去の自分に悔やんでも、悪い事をやってしまった過去は二度と変えることなんて出来ない。
だがな、前に進んで行く事、未来に向けて頑張っていく事は出来る筈だっ!
自分のしてしまった過去を後悔して、戻れないからもうダメという訳じゃなく、フェルミが今考えるのは未来の事だけで良いっ!
前だけを向いて、もう二度と後悔しない道を歩み続けていくしか無いっ!!」
「わ、私には何も…残ってない…。側にいてくれる恋人も……家族も…全部私のせいで…。」
フェルミは嘆き悲しみながら、今の自分には何も残ってないと告げる。
「何も残ってないから、全て自分のせいだから未来を諦めるのか?今後の全てを諦めるのか?
今の自分に恋人が居なくても、未来の自分には恋人をつくることができる。
今の自分に家族が居なくなってしまっても、未来の自分には恋人が子供が…家族をつくる事だって出来るんだっ!
今の自分の為に未来の可能性まで全てを捨てるのか?」
「…で、でも…今の自分は一人…だから…。
一人では…未来に向けて進む…自信が持てない…。
もしかしたら…また失敗してしまうかも…。取り返しのつかない事するかも…。
また、間違ってしまうかも…。
そう思うと…とても怖い…。」
「一人が嫌なら俺が一緒に居てやるよ。一緒にフェルミの未来へ進む道を俺が見届けてやる。
それに、失敗するのが怖いからって先に進むのを止めてはダメだ。
人は失敗しない事は絶対に無い。失敗するから成功があるし、失敗するからまた新しい未来がある。
もし、取り返しのつかない失敗をしたら俺がフォローしてやる。
間違ってしまったら、俺が正してやる。
それでも怖いなら、俺がずっと側で見守っててやる。
………ほら、大丈夫だろ?」
カインは泣いているフェルミに笑顔で手を差し伸べる。
「後悔しても良い、だけど未来の道は閉ざすな。
フェルミは生きている限り、ずっと先に進む事が出来るのだから…。」
そんな、カインの言葉にフェルミは深く考える。
(私が今する事は後悔なんかじゃなく、先に進む事。…もう一人だと思っていたけど、ずっと側で見守っててくれる存在もいるんだ…。)
そして、フェルミは決心してカインの手を掴む。
「……ずっと私の側にいて下さい…。
そして、これからの私を見届けて下さいね。」
「あぁ、任せろっ!フェルミも俺の家族だ。」
「か、家族……。はいっ!」
色々とあったがフェルミは自分を見つめ直す事が出来た。やってしまった過去は消せない。だけど未来をつくる事は出来る。
新たな思いを胸にフェルミは先に進む事を決めた。
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今日カイン達はこの国を旅立とうとしている。
特に目的は無くランダムで転移する予定である。
現在は別れの前に、先日城での事について話をしていた。
「なるほど、それでフェルミさんを虜にしていたと…。私達が頑張って戦っている間にですか。」
「我が、謁見の間に入った時にはフェルミは完全に落とされた後だったな。全く大した主だ。」
ソフィアとアルディオはジト目をカインに向けながら言い放つ。一人だけ何もせず、口説きに城に行っていたのかと…。
「何故ジト目を向けてくるんだ?
ソフィは、ダマンが折角〚漆黒〛のエレメントを顕現したのに瞬殺。
アルは城の兵士を正面から蹂躙していたからな。
俺は特にする事も無かったし、ただフェルミを元気付けていただけだ。」
結局、ダマンは〚漆黒〛のエレメントを顕現したが、基礎能力が低過ぎて強さがあまり変わらなかったので、ソフィアに瞬殺された。
かなり余裕があったので、カインはフェルミに人生相談(カイン曰く)してあげただけなのだ。
「はいっ!私はこの国を頑張って建て直したいと思います。結局、父様と母様殺しは実行犯のキリークとダマンだけの犯行とさせて貰いました。
この国はラダサトリ王国として、私は女王のフェルミ・ラダサトリとして頑張って行きますか。
カイン様っ!例え遠くにいても、私の頑張りをずっと見守っていて下さいねっ!」
フェルミは桃色の髪の上にある兎耳をピクピクさせながら嬉しそうに返事をしている。
そんな様子を見ていたアルディオとソフィアは…。
「「付いて来なくて良かった(です)。」」
「………私に対して酷くないですか?」
折角、過去を克服して未来に向けて頑張ろうとしているフェルミに対して、扱いが酷いアルディオとソフィア。
「私が頑張って戦っていたのに、無視してカイン様と良い感じになっていた罰ですっ!」
「そ、それは…。ごめんなさい…。」
ソフィア達はあの時の事をまだ納得出来てないみたいだ。
だが、『最強朴念仁カイン』の被害者?なのだからフェルミは悪くない…。
そんなソフィア達に、”被疑者カイン”は溜息をつきつつ。
「ふぅ…。そろそろ行くぞっ!」
「はいっ!」「うむっ!」
カインの出発の声掛けに元気よく返事をする二人。色々とあったが、この国で短くも濃い時間を過ごした。
「カイン様、また会いましょうっ!」
フェルミは笑顔でカイン達に手を降っている。
そして、カインは転移術を発動する。
「[転移《場ランダム》]っ!」
こうしてカイン達はラダサトリ王国を旅立った。
次回、久々のクエスト
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