15話 失ったもの
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします┏○ペコッ
……………。
現在、ナニカとの戦いから2週間が経っている。
俺は、あの後気を失ってしまい、気が付いた時には3日たっていた…。
後からスズから聞いた話では、スズとヒロの所にいた小さいナニカは、駆けつけたミスティさんによって倒されたようだ。
そして、スズ達が戦い終わり駆けつけた時には、気絶した俺とエルしか残っていなかったみたいだった。
要するに、エルがナニカを倒したという事か………。
………俺は………………。
その後、俺達の所だけでなく世界の数カ所でもナニカは出現したみたいだ。
各所に出現したナニカ達は七星天兵団によって、多少の被害はあったが全て倒されたようだ。
この出現したナニカは、常闇からゲートを使って現れたモノ、この世界に存在しないモノと言うことで、全く存在が分からない【ナニカ】という名前で正式に公表された。
俺達の所にいたナニカは人型のモノだったけど、他の場所では鳥型、虫型、ドラゴン型など様々な形だったらしい。
だが、形は違っても凹凸が無く、真っ黒い影が実体化したようなモノという事が統一していた。
更に、天族の1つ。〚天嵐〛のエレメントを持つナタリシア家の当主ミストラル・ナタリシアがナニカの特徴と弱点を公表した。
◯一定のダメージを吸収出来る事。
◯吸収量は個体によって変化する事。
◯ナニカによる攻撃は、魔法や闘技を使用して防御した場合、防御は不可能な事。
○S級以上の装備なら防御可能である事。
○エレメントによる防御は可能である事。
◯魔法や闘技を使って攻撃した場合、吸収量を超えてダメージを与えても、完全に再生してしまう事。
◯エレメントで攻撃した場合、ナニカの吸収量を超えてダメージを与えた時には、そのダメージは再生出来ない事。
○上級(三色の)エレメントを持つ者以外、ナニカとの戦闘を禁止する事。
以上が世界全体に正式に発表されたものだ。
俺がエレメントを覚醒させても、中級エレメント以下なら戦えないって事だ。
それに、今の俺には戦う術が失われた。
魔力と闘気が俺の中に全く存在していないからだ。
魔力と闘気の、放出を制御する部分を破壊した為、ずっと力を垂れ流している。
よって、回復しても放出する方が多いので常に空っぽの状態だ。
これで俺は魔法も闘技も使用不可になった…。
現在の俺には、今まで努力で習得して来た、刀術と剣術しかない。
これでは、低ランクモンスターや下位の冒険者レベルの人としか戦えない…………。
…………努力して習得して来た闘技も、魔法も使えなくなってしまった……。
……今まで頑張って来たものを殆どを失った…。
…………それに…俺にとって何よりも1番大切なものまでも……。
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「カイ兄、おはようっ!!」
俺のいる治療院の部屋にスズが入って来た。
「あぁ、おはようっ!!」
とても元気な様子のカインが応える。
「……え、えーと。ようやく退院出来るようになって良かったね。1週間以上身体が動かなかったから心配したんだよっ!!」
「心配かけて悪かったなっ!俺はもう大丈夫だっ!!
……さて、帰りますかっ!」
カインは笑顔でスズに応える。
そして帰りの支度を始めた。
「……う、うん。」
スズはカインの様子を伺いながら返事をした。
(カイ兄は無理やり笑顔をつくってる……。頑張って元気な姿を私に見せてくれる。ずっとカイ兄を見てきた私には分かってしまう、かなり落ち込んでいるって事が…。)
「よしっ!!スズ行くよっ!」
元気な声を出しながらカイン部屋を出て行った。
(……元気が無いのは失った力とエルミナちゃん事が原因だよね……。今は、代わりに私がカイ兄の側にいてあげないとっ!)
密かに決心したスズも、カインを追い掛けて部屋を出て行った。
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とある、城内の1室…。
「エルミナちゃん、おはよう…。」
「おはよう、ティアちゃん。じゃなくて、クレハ様だったかな?」
エルミナは、挨拶をして来たクレハに挨拶をする。
「うぅ…。嘘付いてたのは謝るから、様付は止めてよ……。」
クレハとはティアの事である。
クレハ・オニキスは〚空〛のエレメントを持つ天族、オニキス家の一人娘だ。
ティアと言うのは、オニキス家当主レティアナ・オニキスの名前から勝手に拝借した偽名である。
「だってクレハちゃんは騙してた訳だし…。少しは反省して欲しいかなっ!」
「ご、ごめんなさい……。この事を母様に言ったら、勝手に私の名前から偽名を作るなって怒られるし………。反省してる…。」
少し不機嫌な様子のエルミナと落ち込んでいるクレハ。
「まぁ、本当はクレハちゃんの事で怒ってる訳じゃないけど…。」
「うーん、そっちの方は私でもどうしようもないかな…。」
「……ごめんね、少し八つ当たりだった…。」
「ううん、私もエルミナちゃんの気持はわかるし…。
あっ!!私用事あるから行くね。また後でねっ!」
「う、うん。またねっ!」
突然思い出したように慌てて部屋を出て行くクレハだった。
(はぁ……。なんで、こんな事になったんだろう…。
カイくんに会いたいなぁ………。)
エルミナは、カインに先日買ってもらった、首にかけている慈愛の首飾りを握り締めながら、部屋の窓から外を眺めていた。
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ヒロ達の家に行ったカイン。
「カイっ!!やっと退院かっ!!」
「あぁ、心配かけたな。俺はもう大丈夫だ。」
「そうか…。よしっ!!退院祝いに飯でも食べに行くかっ!!」
「ははっ!久しぶりに肉でも食べるかっ!」
退院祝いの話をしていたカインは元気よく立ち上がり…。
「じゃあ、孤児院に荷物を置いたらまた来るよっ!!」
そのまま、笑顔で出て行ってしまった。
「……スズ。カイはやっぱり無理してるな…。」
「うん…。今まで、頑張って来てたからね…。」
「まぁ、俺達で支えていこうぜっ!」
「兄貴も無理してるけどね。好きだったでしょ?」
「…ま、まあな…。だけど、ずっと一緒だったカイン程じゃない…。」
「……カイ兄…。私、ちょっと行くって来るっ!」
カインが出て行った扉の方を見ながら、ヒロとスズは寂しそうに語り合っていた…。
そして、スズはカインの後を追いかけた。
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時間は遡り、カインがナニカとの戦いから目を覚ました直後の話…。
「あ、新しい皇族としてエルが…。」
「う、うん…。大革命時代の5000年以上も前からいる天族。その後、新しい属性の四色のエレメントを持つ人は【皇族】と呼ばれるようになったのは知ってるよね?」
5000年前の大革命時代に存在し活躍した天族。それ以降に新しい四色のエレメントを持つ存在が現れた者を【皇族】と呼んでいた。
皇族は、天族と王族の中間的な地位である。
「まぁ…、確かここ1000年以上は、新しい皇族は存在していなかったんだっけ?」
「うん…。1000年ぶりに新しい皇族が誕生した。それが、エルミナちゃんみたい…。ナニカもエルミナちゃんが倒したんだよね?」
「……うん。俺は結局、守れなかった…。エルに助けてもらったんだ……。
どんなに頑張っても、力を使い果たしても、魔法と闘技が使えなくなるくらい全力を出しても。
あの時守るって誓ったのに、ナニカは倒せなかった…。」
カインは哀しそうに、悔しそうに語った。
「カ、カイ兄は頑張ったよっ!!エレメントしか通用しないナニカを相手によく戦ってたっ!」
「でも、結局は勝てなかった…。
しかも全ての力を捨てて、そして使えなくなった…。」
「…………。」
スズはカインの言ったことに対して、何も言葉が出ない。
カインが、どんなに頑張っていたかを知っている。
スズ達の親から習っていたのを、ずっと見ていた…。ボロボロになりながら稽古している様子を。
エルミナからも、殆ど寝ないまま孤児院でもずっと頑張ってると聞いた。
あの強さは、誰よりも努力して手に入れたものだとスズも分かっていた。
だけど、今回その頑張りが全く通用せず、そして無くなってしまった……。
「エルには二度と会えなくなるって事かな…。
地位も力も…俺なんかとは全く違うし…。それに……。」
エレメントの強さ=地位は5000年以上も前から覆る事の無いものだ。
実際、権力だけで無く戦いにおける純粋な力も高い。
強いエレメントをもつ者は尊敬の眼差しを向けられ、逆に弱いエレメントを持つ者は、侮蔑の目を向けられる事もある。
無能者(エレメントが覚醒しなかった者)この世界の者ではない者の扱いを受ける事もある。穢らわしい存在であるかの様に。
地位が高い者ほど、高いエレメントを持つ者ほど差別意識の傾向が高い。
子供の頃は、あまり気にしないものだが15歳を超えて成人した者は、人生そのものが変わってくる。エレメント覚醒は15歳までだからだ。
そういったエレメントよって大きな差があるのがこの世界だ。
結婚にしても地位±1の者としか出来無いようになっている。より強いエレメントを残す為である。
無能≪平民<貴族<王族<皇族≒天族といった身分があり、例えば貴族なら平民または王族の者。天族(皇族)は皇族(天族)または王族の者としか結婚出来ない。結婚出来るが、あまり下の者とは結婚しない傾向があるのだが。
地位の高い者は、下の者と接触する機会すら無い、与えない事も多い。
エレメントは遺伝するので、この関係性は殆ど変わらない。稀に親と違うエレメントを持つ者が現れるが、限りなくゼロに近い。
「……まぁ、俺はエルが幸せなら良いよ。確かに寂しくなるけど、もう関わらない方がいいし…。」
「で、でもっ!!エルミナちゃんはっ!!」
「スズ…。身体に力が入らないし、少し眠たいからこの話はまた今度ね…。おやすみ…。」
「カイ兄…。……おやすみなさい…。」
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スズはカインを追い掛けて行った。すると孤児院の門の前でカインは佇んでいた。
「…カイ兄?どうしたの?」
心配になり、スズが質問した。
「………これから先どうしようかなと思ってね。
俺は何の為に生きていたか孤児院を見ながら考えてたんだ。」
「…何の為に生きていた?」
「俺にはずっと一緒だった人が居てね。それはもう、記憶無いくらい小さい時からずっと一緒だった。
気が付けばいつも隣りに居た。
ずっと俺の側で笑っていた。
ずっと一緒だった。この笑顔を守りたいって思うようになったのは、3歳くらいかな…。
守ると言っても、何をすればいいのか当時俺には分からなかった。だけど、俺が強くなれば守れると思っていた。
そして、頑張れば強くなる。頑張れば頑張った分だけ強くなると信じてたんだ。
まだ、エレメントが覚醒しない子供な俺は、闘技知ってからは必死でスズの親に頼み込んで稽古を受けた。
魔法の存在を知ってからは必死でミスティさんに頼み込んで教えてもらった。
そして、頑張ったらまた強くなった事を実感して、更に頑張った。
努力すれば強くなって、強くなれば守れる。どんな事からでもあの人を守ってやるってね。
でも、それは幻想だった。結局エレメントには敵わない。ナニカにも敵わない。努力して手に入れた力は簡単にエレメントに負けた。
守ると誓った人は、俺よりも強い力を地位を手に入れた。逆に俺は今まで努力して手に入れた力を失って、俺なんかが守る必要が、守る事が出来無い存在となった。
守る守ると言っても結局は、あの優しさ甘えていただけなのかもしれない。優しいからずっと一緒に居てくれたのかもしれない…。
守る存在も、力も、全てを無くしてしまった。その頑張っていた理由も一緒にね。
それに、もうこれからは一緒には居られなくなってしまった…。」
スズはカインの話を黙って聞いていたが。
「そ、それなら………。」
「スズ?」
「それなら今度は私を守ってよぉぉっ!!
私は力も権力もないっ!!これからもずっと、カイ兄の側にずっと一緒にいるよぉぉっ!!」
スズは、泣き叫びながらカインを強く抱き締め、言葉を放つ。
「………そうか…。ごめんな、スズ。少し弱気になっていたみたいだ。俺にはまだ守る存在も、頑張る理由も残っていたな……。
気が付かなくてごめん。これからもずっと一緒に居てくれるかな?」
「…う、うんっ!!これからもずっと一緒だよっ!」
「ふふっ、ああその通りだっ!闘技も魔法も使えなくなって、頑張って来た技術は消えてはいないっ!!俺まだエレメントが覚醒するはずだから、これからも戦える筈だっ!」
「私も一緒になって頑張るよっ!!」
「よしっ!俺の退院祝いだったな、すぐに準備してくる。」
カインは元気を取り戻し、孤児院の中へ入って行った。
残されたスズは…。
(カイ兄が元気になって良かった…。
エルミナちゃん、ごめんね。エルミナちゃんの気持ちは分かってるけど、それはもう叶わないし。……私は悪い女だなぁ、エルミナちゃんの代わりになろうとするなんて。でもカイ兄の事はずっと好きだった。カイ兄が元気になる為なら。これからもずっと一緒に居られる為なら。
私はその罪を背負う……。)
スズはさっき言った言葉を直ぐに後悔する事なるとは、この時はまだ知らなかった…。
次回、叶わない思い…すれ違う者達。
読んで頂きありがとうございます(○´∀`)b
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