10話 異常種 後編
遂にアレが…。
カインとエルミナの放った合成魔法が、アイアンリザードに直撃した。
アイアンリザードの周りは、黒い雷の奔流にのまれて行き、カイン達にも余波が届く。
「うわぁ…。あれがカインくんとエルミナちゃんの合成魔法かぁ…。」
「あれなら、さすがの異常種でも一溜まりもないよね…。」
離れて様子を見ていたティアとスズだったが、余りの威力に唖然としている。
実際、2人が合成魔法を見たのは初めてである。
ただの屍は今だ返事がない…。
「よしっ!!これでどうだっ!」
「カイくん、うまく行って良かったね。」
未だ鳴り止まない雷に勝利を確信しているカインとエルミナ。
実際、初めてBランクモンスターを討伐した時もこの2人の魔法で倒しているのだ。
流石のアイアンリザードも…。
ゴウッ!!
突然、アイアンリザードが居た地点から紅い光が発生する。しかも、今までより遥かに強い光だ。
「っ!!!。な、なんだあの光はっ!」
急な出来事に慌てるカイン…。
今までみたいに一部分では無く、身体全体が紅い光に包まれている。しかも感じる威圧は段違いだ。
この現象はカインもよく知っている、これは…。
「エ、エレメント…。」
そう、エレメントである。
魔力や闘気は一部分、つまり使用する場所にしか発動させない。全身に纏ってしまうと、あっという間に枯渇してしまうからだ。
それに、魔力も闘気も普通は1色の色しかない。要するに魔力も闘気もエレメントを使えない者には、それが下位互換の属性であるとも言える。
しかしエレメントを使うものは、エレメントを闘技や魔法にのせて、威力を2倍にも3倍にも上乗せさせて発動する事ができる。全く持って力そのものが違うのだ。
今回アイアンリザードが纏っているのは、紅い2色の属性である。
(あれは…。中級属性の〚炎〛か…。)
カインは、色で属性を判断する。それぞれの属性には、色の組み合わせがあるのだ。
(だが、まだエレメントを完全には顕現出来ていない。これなら勝機はあるか…。)
「エルっ!一旦距離をとるんだっ!!〚炎〛のエレメントは、身体能力上昇の中でも攻撃力が2倍以上に膨れ上がる。
エレメントを使えない俺達がまともに食らったら、1発で死ぬぞっ!!!」
「……で、でも。カイくんはどうするの?」
エルミナは、アイアンリザードのエレメントに圧倒されていた。直ぐにでも離れたかったが、それでもカインの方が心配である。
「俺は大丈夫だよ。ティアとスズの所まで下がっていてくれるかな?」
カインは、エルミナの気持ちを察して優しく語りかける…。
その気持ちがわからないエルミナではない。
「………うん、信じてるから。」
エルミナは、少し後を引きながらティア達の元へと向かった。
カインは真っ直ぐアイアンリザードへと向けて歩みを始める…。
「ギャォオオッーーーッ!!!」
アイアンリザードはらさっきよりも圧倒的な圧力でカインを威嚇する。
カインは少し眉をひそめたが…。
「うるせぇよ…。トカゲ野郎。」
カインは腰から左手で小烏丸を引き抜く。
そして…。
ブワァッッ!!
突如、カインの左手にある刀から闘気が溢れ出てくる。普段、技に使っている時のよりも圧倒的に強いものだ。
いつもなら刀だけに留まっている闘気だが、刀から徐々に身体の方にも澄み渡っていく。
そして、そのままカインの全身は黄色い闘気に包まれていき…。
「雷の鬼降臨せし者…[迅雷ノ夜叉]っ!!」
カインは闘気を発動させる。全身から凄まじい雷が轟音を立てながら、周囲にも溢れ出ている。
(エレメントが使えないから、俺にはこれしか無い。あまり使いたくなかったが……仕方ない。
今の俺の闘気量なら保って3分間…。いや、それよりも少ないか…。)
カインは覚醒してないのでエレメントが使えない。
それで、もしもの時に何か出来るように考えた。
それがこの『迅雷ノ夜叉』である。
本来戦うものは、15歳を超えているものが多く、覚醒しているのでエレメントを使える者が多い。
なので、闘気の枯渇や操作の難しさもあり、こんな事をする者はいない。
しかし、カインはエレメントがまだ使えない自分に納得できない。そこでエレメントと対向出来る様に、3年の年月をかけて昇華させたのが迅雷ノ夜叉である。
「ギャォオオッッ!!!!」
アイアンリザードが『炎』のエレメントを纏ったまま、カインに向かってくる。スピードもさっきと比べ物にならないくらい速い。
しかし…。
ヒュッ!!
アイアンリザードの視界から、カインの姿が消える。
一筋の閃光が、アイアンリザードの前まで詰め寄ってきた。その閃光はそのまま、アイアンリザードの鱗を浅く切り裂いた。
「ギャォオオッッ!!!!」
アイアンリザードは、自分の鱗が斬られたことに怒りの叫び声を上げた。
(ちっ、この状態でも浅いか…。)
もちろん、斬ったのはカインである。
雷の闘気を身体に纏い、無理矢理身体能力を上げている。今のカインは通常の3倍近くにまで速くなっている。
迅雷ノ夜叉は、スピードと斬れ味のみを3倍近くに上昇させる技だ。しかし、硬度もエレメントによって先程よりも高くなっているアイアンリザードには、まだ届かないようだ。
(くっ!…思ったよりも身体への反動が大きい。あまり保たないな。)
エレメントと違い、闘気で無理矢理上げている。その為、かなり身体に負荷がかかるのだ。
迅雷ノ夜叉が切れてしまったら、カインは肉断裂をおこし、暫く動けない身体になってしまう。このままでは、肉体の限界が先か闘気の枯渇が先か…。
カインが考えを巡らせていると。
「ギャォッ!!ギャォオオッ!!!!」
アイアンリザードが大きな叫び声を上げながら、ブレスを吐いた。
エレメントによって高められたブレスは一気に洞窟の温度を上昇させる。
「ちっ!!」
カインは咄嗟に躱すが、かなりの速度で放たれている。しかもあまり広くない洞窟なので逃げ場が限られてくる。
仕方なく、更に闘気を高めて速度を上げる。
さらなる負荷により、肉体の限界が来たところから断裂が始まっている。
(くっ、このままじゃ俺の方が保たない。一撃で決めるしかないっ!)
ブレスが止まったのを確認して、カインは勝負に出る。
身体から、今までよりも濃い闘気が溢れ出す。カインの周りでは雷の奔流によって雷鳴が轟く。
思いを込めて、全ての闘気を使って全力の一撃を放つ。
「うぉぉぉっ!![雷天斬波]っ!」
カインの刀から高圧の閃光が放出する。
周囲にも落雷を落としながら、まるでレーザーのように一直線にアイアンリザードへと突き刺さる。
「ギャァァァアアアアーーーーッ!!」
アイアンリザードが断末魔の叫びを上げた。
紅いエレメント丸ごと全てを消し去っていく…。
「うぉぉぉっーーーっ!!」
更に闘気を込めたカイン。
辺りは輝き、洞窟内には光しか見えない状態になった。
そして…。
ドォォッーン!!!
アイアンリザードの巨体は、大きな音をたてて、地面へと転がっていく…。
「はぁはぁ……やったか…。」
カインは、身体から激しい痛みを感じる。全身から大小様々な傷が出来ており、血が溢れてくる。
(や、やばい…。意識が………。)
そして肉体の限界がきて、完全に意識を手放した…。
次回は新魔法が…。
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