臆病者の勇者 2
よろしくお願いします。
今日来た勇者様は、何だか気の弱そうな勇者様なので、夕食は力をつけてもらうために肉料理にしました。天界の方々に、ひき肉や野菜を送ってもらい、それでハンバーグを作りました。トマトを切って、煮込んで、その中にハンバーグを入れて、煮込みハンバーグにしました。我ながら、よくできたと思います。勇者様は、食べてくれるでしょうか。
私が、再び店内に戻ると、もう外は暗くなっていました。それでも勇者様は変わらず、机の上に突っ伏しておられました。そっと、机の上に料理を置きましたが、勇者様は何も反応しませんでした。
寝てしまったのでしょうか? そっと勇者様に顔を近づけます。私は、ハッとして、勇者様から顔を離して、一度、従業員室に戻りました。
× × ×
煮込みハンバーグから出る湯気が空気中を漂います。それは風にのって、勇者様の鼻に届くでしょう。
「何してるの?」
勇者様がそっと顔を上げて私を見ました。
「いい匂いではないですか?」
私はしゃがんで、料理から漂う湯気を、ウチワでパタパタと仰ぎます。
勇者様はチラリと料理を見ました。勇者様の目は潤んでいて、目元は赤くて、頬には涙が流れた跡が見えます。
「お腹なんて減らないよ」
勇者様の少し強い語気に、私はドキッとしてしまい、ウチワで仰ぐ手を止めてしまいました。
「申し訳ございません! でも、少しは食べないと、元気がでません」
「元気だなんて……いきなりこんなところに連れて来られて……」
勇者様は俯いてしまいます。肩が小刻みに震えています。
「死んでしまいたかった」
私は、私が惨めに思います。今、こんなにも悲しんでいる勇者者の前で、何もしてあげられない自分が、惨めで不甲斐ないです。
私は、パタパタとウチワで料理を仰ぎます。
「それでも、お腹は減ります! 生きていれば、お腹は減ります!」
できることはこのくらいです。ウチワで煮込みハンバーグから漂う匂いを、勇者様に届けることしか私にはできません。
「僕は、生きているのかな?」勇者様は、虚ろな目をして言います。
じっと、勇者様を見つめます。勇者様は今ここで、呼吸をしています。泣いています。それは生きているということです。
「生きています!」私は力をこめて言いました。
勇者様の眼には、光がありません。何かに諦めたような眼をしています。それはここに来た時から。
「ほら、早く食べないと冷めてしまいますよ」
勇者様は、上体を起こして、じっと料理を見つめてくれます。それから、フッと笑いました。
「冷めてしまうのは、君がウチワで仰ぐからじゃないか」
そうでした。こんなにウチワで仰いでしまっては、料理が冷めてしまいます。
「申し訳ございません! 今すぐ、温め直します!」
私が料理を運ぼうとすると、勇者様はそれを制して、食べ始めました。
「おいしい」
と言って、煮込みハンバーグの上にポトリと涙を落としました。
ありがとうございました