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さようなら、勇者様。  作者: 四つ角
3/5

臆病者の勇者 2

よろしくお願いします。

今日来た勇者様は、何だか気の弱そうな勇者様なので、夕食は力をつけてもらうために肉料理にしました。天界の方々に、ひき肉や野菜を送ってもらい、それでハンバーグを作りました。トマトを切って、煮込んで、その中にハンバーグを入れて、煮込みハンバーグにしました。我ながら、よくできたと思います。勇者様は、食べてくれるでしょうか。


私が、再び店内に戻ると、もう外は暗くなっていました。それでも勇者様は変わらず、机の上に突っ伏しておられました。そっと、机の上に料理を置きましたが、勇者様は何も反応しませんでした。


寝てしまったのでしょうか? そっと勇者様に顔を近づけます。私は、ハッとして、勇者様から顔を離して、一度、従業員室に戻りました。


    ×     ×    ×


煮込みハンバーグから出る湯気が空気中を漂います。それは風にのって、勇者様の鼻に届くでしょう。


「何してるの?」


勇者様がそっと顔を上げて私を見ました。


「いい匂いではないですか?」


私はしゃがんで、料理から漂う湯気を、ウチワでパタパタと仰ぎます。

勇者様はチラリと料理を見ました。勇者様の目は潤んでいて、目元は赤くて、頬には涙が流れた跡が見えます。


「お腹なんて減らないよ」


勇者様の少し強い語気に、私はドキッとしてしまい、ウチワで仰ぐ手を止めてしまいました。


「申し訳ございません! でも、少しは食べないと、元気がでません」


「元気だなんて……いきなりこんなところに連れて来られて……」


勇者様は俯いてしまいます。肩が小刻みに震えています。


「死んでしまいたかった」


私は、私が惨めに思います。今、こんなにも悲しんでいる勇者者の前で、何もしてあげられない自分が、惨めで不甲斐ないです。

私は、パタパタとウチワで料理を仰ぎます。


「それでも、お腹は減ります! 生きていれば、お腹は減ります!」


できることはこのくらいです。ウチワで煮込みハンバーグから漂う匂いを、勇者様に届けることしか私にはできません。


「僕は、生きているのかな?」勇者様は、虚ろな目をして言います。


じっと、勇者様を見つめます。勇者様は今ここで、呼吸をしています。泣いています。それは生きているということです。


「生きています!」私は力をこめて言いました。


勇者様の眼には、光がありません。何かに諦めたような眼をしています。それはここに来た時から。


「ほら、早く食べないと冷めてしまいますよ」


勇者様は、上体を起こして、じっと料理を見つめてくれます。それから、フッと笑いました。


「冷めてしまうのは、君がウチワで仰ぐからじゃないか」


そうでした。こんなにウチワで仰いでしまっては、料理が冷めてしまいます。


「申し訳ございません! 今すぐ、温め直します!」


私が料理を運ぼうとすると、勇者様はそれを制して、食べ始めました。


「おいしい」

と言って、煮込みハンバーグの上にポトリと涙を落としました。


ありがとうございました

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