臆病者の勇者 1
よろしくお願いします。
決して服装が決まっているわけではありませんが、私は基本的にメイド服をきています。意外と動きやすくて、可愛くて、気に入っていますが、私に似合っているかどうかは不安にです。
従業員室でツインテールの髪形をチェックして、店内に出ます。今日の勇者様は少しよそよそしいです。窓の外を見たり、椅子に座り直したりしています。ちゃんと、おもてなしできるでしょうか。
「勇者様、お待たせいたしました。改めまして、ルルと申します。ここにいる間は、どうかリラックスしてくださいね」
「え、と、はい! てか、勇者様?」
「勇者様は勇者様です。ところで、勇者様、何かお飲みになりますか? それとも、何かお食事を用意いたしますか?」
「それよりも、ここって……」
「ここは、勇者様が異世界に飛び立つ前の休息地です」
「異世界って、あの女神、本当に……」
勇者様、なぜだかわなわな震えています。
「勇者様、いかがいたしましたか?」
「……いや、なんでも、ないです。ところで、異世界っていつ行くの?」
「基本的には当日ですが、もう遅いので明日の朝になると思います」
「……拒んだら?」
勇者様が目を細くして、私を見てきます。
「ハトさんたちが、連れていきます」
「どうやって?」
口では説明が難しいです。私は、両手の指をかぎ爪のように折り曲げて、言います。
「こうやって――」
私は、指を折り曲げたまま勇者様の両肩を掴みます。
「こうです。10羽くらいのハトさんたちが、両足で掴んで、飛んでいくのです。あ……」
自然と、勇者様と顔が近くなってしまいました。少し恥ずかしいです。
「あ、どうも、教えてくれて……」
嫌だったでしょうか、やりすぎたでしょうか、勇者様は顔を背けてしまいました。私は、そっと離れます。
「痛いのかな」勇者様はポツリと言います。
「痛くはないと思いますが、でも、連れていかれる勇者様はみんな、叫んでおられますね」
私は苦笑いしてしまいます。
そして勇者様が、机に伏してしまいました。その時、勇者様のお腹が「ぐー」っとなりました。
「夕食作りますね」
今日の勇者様は何やら、わけありのようです。こういう時はできる限り、私が明るく振舞わなくてはいけません! ご飯も豪勢なものにします!
と、机に突っ伏した勇者様を見て、私は思いました。
ありがとうございました。