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44話 姫咲さんと桃色の吐息
その日の普は普段とどこか違っていた。海を見つめる瞳は真っ直ぐだけどどこか悲しげで、何だかとても儚く感じる。その夕日に照らされた横顔は、この世のどんな芸術品より美しく、私の心臓の脈を一際大きく鳴らせる要因になった。
そんな私に気づいた普はすぐにさっきまでの表情を押し隠し、軽く微笑むとこちらに近づいてきた。──すると突然私を抱き寄せるように、流れるような動作で私の肩に右手を回した。戸惑う私の顎にそっと左手をかけ、そのまま唇に顔を近付けて────
「────と言う夢を見たんだが」
「おはようございます姫咲さん。ひょっとしてそれ、遅刻の言い訳ですか?」