狼につき、嫉妬
狼につき、危険。の続編です。そっちの後是非お読み下さい。
「ど、したんですか・・・」
久しぶりに足を踏み入れたボロアパート
あたしはいつもと変わらない部屋の状況に、軽くため息を吐いていた。
しかしいつものデスクにはせんせいはいなくて。彼は部屋の隅でいじけていたのだ
「・・・なんのつもりですか?」
ー惚れた弱みなのか。
自分の言葉にいつもの覇気が感じられなくて、情けない。
・・・もうっ!
「せんせいっ!?いーかげんにー・・・」
肩を引き寄せて、一週間ぶりの愛しい人の顔を覗き込んだあたしは、思わず目を見開いた。
キスをするときに髭がくすぐったいとは言ったけど・・・まさか剃るとは・・・
幼くなったその顔は、元々整ったせんせいをより際立たせていた。
「せんせ、それー・・」
あたしはにやける頬を抑えてせんせいに手を伸ばした。
外見にまったくと言って言い程興味の無い彼だ。その人が、こうしてあたしの一言で変わってくれてる。
外見がどうよりも、あたしの存在価値があるようで、何か嬉しい
すっかり頬が緩んだあたしの手のひらを、パシンッと愛しい彼の手が振り払った。
「なんで俺が怒ってんのか、まづ自分の胸に聞いてみろ。」
「・・・せんせ、い?」
彼が、何に対して怒っているのか。
原因はあたししか考えつかなくて
けど、自分が何をして怒らせたのかは、分からない
ぷいっと背を向けて、再び押し黙ったせんせいの姿が、まるで別人のようだ。
今は、全身であたしを拒絶しているように思える。
いつもの大きい背中からは何も感じられなくて、拒絶されたどうしようもない不安と孤独感が押し寄せてきた。
払われた行き場の無い手が、悲しみに小刻みに震えだして、悲しみを打ち消すようにぎゅっと握りしめた。
どうしようも無い汚いこの感情も、一緒に握りつぶせればいいのに。なんて思ってしまう。
「〜〜っ」
「・・・て、ぇ、わっ?!中村?!」
反応の無いあたしを見るのに振り返ったのだろう。せんせいはあたふたと、あたしの目から溢れる滴を掬った。
ーなんで、怒ってるのよ
一週間ぶりに会えたのに・・・
「ーぅっ、ふぇ・・・」
情けない声で嗚咽を出し始めたあたしに、せんせいが困ったように口を開いた。
「〜〜っ一週間も顔出さない上に、お前が別の新人作家の編集も受けたりするからだろっ!」
「・・・ふぇ」
あたしが言葉に出来なかった質問に答えたせんせいは、微かに赤く染まった顔を覆った。
確かに、新人の男の人の編集も受け持った。
仕事が倍忙しくなったあたしは、せんせいにも会えなかったのだ。
「・・・やきもち・・?」
あたしだけ、じゃなかったの
「・・・うっせぇ、今日はぜってぇ帰さねぇからな」
首筋に落ちた確かな熱は、赤い花を咲かせて
冷たくてごつごつした細い指が、背中を撫でてホックを器用に外した。
「ーっひゃ」
「やめろって言われても、やめねぇから」
抵抗しても、逆に燃えるけどね
いじわるな囁きを耳に残しつつ、冷たい床は徐々に熱を帯びていった。
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