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蛇足編

…その後、アレン・シュミット著「魔女っ娘は三度星を救う~僕の願い、アナタの嘘~」(※1)は爆発的な売り上げを記録し、多方面の諸賢らを感動と興奮と滂沱の渦に巻き込むに留まらず有志の手により演劇・簡易書籍・商品がなされ、それに応えた著者が新たに番外編を生み、2年後にはこの国初の娯楽小説として他国語に翻訳され売り出されるに至った。

我が国へ訪れる観光者のなかに屡「魔女っ娘はどこに行けば会えるのか」「どこまで好感度を上げればこの国の娘は僕っ娘モードになるのか」と疑問を抱くものが居るというのはこのことが影響していることは言うまでもない。微笑ましい弊害、といえよう。

また、発行から幾年を経てなお世代を超えて愛され続け、特に今代の十代の間ではバイブルとされるまでになったことも特筆すべきことだろう。若者の活字離れを引き止め、貴族と平民の軋轢を解消する緩衝材の役目も果たしたという見解もある。

数多のヒット作を持つアレン氏であるが、これはなかでも異色の作品であり当時は精霊信仰とも邪推される危険を伴ったものであることは言うまでもない。

しかしながら一部の賢人による根強い支援があり焚書処分を免れ、店頭に並ぶに至った。そのなかにはかの賢王との呼び声高い(検閲対応により伏字)陛下も含まれていたというのはまことしやかな噂である。


なお、物語の主人公の名が「リサ」に統一されていることは愛妻家としても有名なアレン氏のポリシーでもあるが、この書籍シリーズを発売してから妻が話をしてくれないと落ち込み、その絶望と文学的生活を放棄したことによる命の危機のなかで書き上げられた賛否両論の三大迷作(※2)の一角にして完結編、「魔女っ娘は星へ還る~永遠は此処に~」(※3)が生まれたことはファンの間では「愛ゆえの過ち、罪なき罪、+白紙ヘト至ル連続刹那+」と同シリーズのセリフを引用することであらわされている。

余談ではあるが、筆者はこのシリーズの最終巻を12巻にあたる通称「堕天編」、「私が魔王になる。あなたを救えるなら」の台詞で締めくくり、以降はパラレルワールドであるという説を推していきたい。


数多の作品を生み出した彼だが、描かれる我らが主人公「リサ」と彼の最愛の妻の「リサ夫人」この二人にはどこまで共通項があるだろう?

リサは我々を常に新しい世界へ連れて行ってくれるが、「リサ夫人」は徹底して彼の物語では語られない。

私は確かにリサ夫人の後見人ではあるが、この場でその差異を挙げ連ねるのは無粋というものだろう。


しかし、様々なリサの冒険を綴る彼の文章に何らかの心意を感じられたとき、私たちは謎に包まれたリサ夫人の魅力と、我らが本の騎士アレン・シュミットの彼女に向けた不器用なメッセージを私たちも垣間見られるのではないかと、友の一人として考えている。


「二人の本当の日々は、二人以外には秘密」。


そう、彼の著作(※4)でも語られているように。



アレン・シュミット書籍100作突破記念誌~振り返る本の騎士の愛の道~に寄せて


 レディスト・フォン・ガルディヒルド





※1 魔女っ娘は三度星を救う~僕の願い、アナタの嘘~

アレン・シュミット著 魔法少女リサの○○シリーズ、通称・僕魔女娘ボクマジョムスメ第一作。

由緒正しい魔女の家に生まれたリサは、悪事がどうしても上手く出来ず、契機となる15歳になっても使い魔を見つけられなかったことから分家の陰謀により暗殺されそうになる。危機に陥ったリサを体を張って守ったのは喋る厚い布・ザブトン。

その夜からリサは己に隠された大いなる秘密と陰謀渦巻く運命にその身を投じることになる―――。


※2 三大迷作

・椅子願望

「リサさん!僕を椅子にしてください!」

リサは依頼の内容を聞き返すことはしない。今回も、依頼人のあまりの緊張ぶりに「弟子」の間違いか「栗鼠」の間違い、はたまた痔の辛さを緩和するような椅子が欲しいという意味の文法を間違えたのかと聞き返したい気持ちがないではなかったが、だめ押しで「僕をあなたの椅子にしてください!幾らでも払います!」と言い募られたので、彼を椅子にするために思案を巡らせる。私の聴力は一メートル先で針が落ちた音も聞き取る。

幸いにも、樵と椅子職人と時計技師と精神科医と外科手術が得意な闇医者には伝手があった。

私自身も丁度、座る時は低くなり座れば書棚の一番上の棚に届くような便利な椅子が欲しかったところだ。

たくさんの依頼を受けこなしてきた自分だが、時折こんな風に自分に理のある依頼もあるので不思議なものだ。

これだからこの稼業はやめられない。


―――物語のラストをどう受け取るかはあなた次第!

付録として心理カウンセラーによる解説を交えた特別版!

椅子職人騒然、時計技師絶叫、心理学者卒倒!


衝撃の問題作、君の心に今、着席。




・東のニンジャ、西のジン

「サヨウ、セッシャがニンジャ・ゲイシャクノイチであるニン!クセモノめ、ハイスイのジンである!おカクゴ!」

「ええーと・・・ハイスイっていうのが願いかな?」

「シントウメッキャクすれば火もまたスズシ!願いとはネツガンレイテイにしてショシカンテツの心構えで臨むべし!さすればシセイツウテン、ブシドーとは死ぬことと見つけたり!願いをそう容易く問うなど、女の身と侮ってヤマトダマシイをグローするかこのロウゼキモノが!ええい、カイシャクしてやる、そこになおれ!」

「う、うん、とりあえず落ち着いてほしい、ご主人、俺はね、あなたの敵ではなくて」

「そうなのか。これはシッケイ。ナニヨウか、私は忙しい。居候の身の上である、やるべきことがたんまりとあるのだチリアクタ、積もり積もって山となる」

「あ、じゃあそれ、俺がやってあげようか。それが願いってことにしてくれたら、すぐにでも」

「黙れぇ!私は己の責務を他人に課すほど落ちぶれてはおらん!家格が地に落ちても心のニシキはあのアカツキ輝くヒノモトにたなびいている!」

「…。………。あ、もしもし。精霊こころの相談室ですか。はい、はい…俺、西の砂漠でジンやってるモンですけど、なんか手違いで東の国に流れてきちゃったみたいで。これ保険効きますかね?…え?いや、言葉は通じるんですけど会話ができないというか意思の疎通が難しいっていうか…ああ、ええ、いいです。契約不履行で力と格にマイナスついても構わないんでとりあえずキャンセルしてほしくて…え?東の国の事典を送る?いやいや、そういうのはいいんで、とりあえず西の砂漠に戻してほし…はあ。あー、あの、ご主人、此処の住所ってわかります?」

「若中広国田中門左衛門城主預かり添木町弐の七丁目三○番地 金須木 揉手 方 柏手 打手 宛だ。本家でなく離れに持ってきてくれ」

「…だそうです。えーと…本当に送るんですか?その事典とやらで本当にどうにかなるんですか?…すいませんご主人、三日後くらいに荷物が届くそうです」

「ウム心得た。叔母上にもそうコトヅケておくユエ、安心メサレヨ」

「…ああ、微妙に理解できる単語があるのが辛い…っていうかなんでそこまでして…は?事業拡大の試験的試み?俺は馬鹿だからいい経験?いや、ちょっと待ておま…嘘だろ、切れやがった」

「何やら厄介ごとのようだ。フム、ハレンチな御仁、袖触れ合うもタショウのエン。何かあらば聞こうではないか。そして私はソナタのご主人になった覚えがないので改めて頂きソウロウ」

「……優しさが痛い。帰りたい」


経営学入門の決定版!

雇用の闇を風刺しながら異文化交流?!

ジンとニンジャ、二人は分かり合えるのか、君のその目で確かめてソウロウ!



・魔女っ娘は星へ還る~永遠は此処に~

※3にて後述


※3

苛烈極まる星間歌合戦を制し、日常に舞い戻ったリサ。束の間の休息とわかっていながらも、学園の中庭で詩集を読み遠い故人に思いを馳せていた。

そこに差す影。見上げれば、黒髪黒目の美少年。

人の顔のつくりよりブックカバーの材質の方が気になる性質の自分でも知っている、噂の転校生だ。

まだ1か月も経っていないというのにファンクラブと親衛隊が設立され二つの派閥は対立関係にあり抗争が堪えないとか、椅子には分厚い布を敷かないと座れない病気だとか、金髪碧眼の時代は終わったのだと貴族主義の会長に言わせせしめたとか、噂の絶えない人物である。


「お前、僕魔女っ娘だな?

我はショタ魔王。

かつての因縁、晴らさせてもらおう」


その声、その姿に何故か懐かしさを感じるリサ。

それは相棒ザブトン・ユノミ・コタツを犠牲に解放された筈の悲しき血の宿命の真の封印とそこに託されたかつての禁忌の恋が呼んだ、予感だったのか・・・。

僕魔女娘・堕天編、衝撃のスタート!


「あなたは、魔王の運命に抗えますか?」



※4 著作99冊目「六花むいかの記憶」

アレン・シュミットの著作の中でも恋愛色が強いとされる。

女性読者の人気が高く、流通数もかなり少なかったが今なおプレミア価格で取引されるほどのアレン幻書と称される一冊。

上記の台詞はプロローグたる一日目とエピローグたる六日目に、それぞれ違う人物がつぶやく言葉でありその意味も異なるが、卿の意図は「執着」「純愛」どちらだろうか?


椅子願望のオビはかなりの力作。

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