僕と君と彼女。
日も暮れてきて、学校帰りの学生が目立つバスロータリーで僕は今日も1人煙草を吹かしながら彼女を捜している。
「しょうちゃん、バイバイ。」
彼女の声だ!
僕は慌てて声のした方に振り返った。
やっぱり彼女だ。
セーラー服に紺のハイソックス。
少し大きめのカーディガンの袖からのぞかせる小さな手。
その手から真っ直ぐはえた細い指にはシルバーの細い指輪が光っている。
そしていつもと変わらぬ笑顔で手を振る彼女を僕はじっと見つめた。
少しはにかんだその笑顔を見ていると何だか僕まで学生時代のあの頃に戻った気がする。
だから僕は毎日こうして同じ場所に、同じ時間にやってきては彼女のあの笑顔を見つめているのだ。
彼女が<しょうちゃん>と呼ぶ彼は、きっと彼女の彼氏だろう。
制服姿の2人。
毎日2人で帰宅するその姿は青春そのものに思えた。
そして何だか懐かしい気持ちにさせてくれた。
僕は彼女に恋をしているのか?
そう思った事もある。
けど恋とは違う気がする。
恋と呼ぶにはふさわしくない気がする。
「三浦先輩?」
そんな事を考えながらぼおっとしていると、ふいに後ろから声をかけられた。慌てて振り返るとそこには懐かしい顔があった。
「──ゆかり?!」
「久しぶり。元気してた?」
そう言い笑う女はまぎれもなく中学時代の後輩の高橋 ゆかりだった。
「この通り元気だよ。ゆかりは?」
「元気だょ。」
そう言うと彼女は少し寂しそうな顔をしながら僕を見つめた。
「部活の同窓会にも顔出さないから心配してたんだよ。誰も連絡取ってないってゆうし。」
「ゴメン。部活が忙しくてさ。」
「何の部活?」
「バスケだよ。」
僕がそう言うと彼女は少し驚いた顔をしてから満面の笑みを見せた。
「まだ続けてたんだ…。何か嬉しいな。」
そう言って少しはにかんだ笑顔を見せた。
この笑い方…誰かに似てる。
そうだ!僕が毎日見つめている彼女に似ている…。
「たまには同窓会、顔出してね。みんな会いたがってるんだから。」
「うん。今度またみんなで飲みにでも行こうな。」
「楽しみにしてるから。それじゃあ私そろそろ行くね。」
「おぅ。元気でな。」
「先輩も。部活頑張ってね。絶対諦めちゃだめだよ。」
そう言った彼女はどこかすっきりした顔をしていた。
そして、
「けんちゃん。バイバイ!」
とはにかんだ笑顔を見せながら言った。
このセリフ…
そうだ!いつも見ている彼女にゆかりが似てるんじゃない。
いつも見ている彼女がゆかりに似てるんだ。
僕とゆかりは中学の頃付き合っていた。
僕はバスケ部のキャプテンをしていて、1つ年下のゆかりはマネージャーをしていた。
毎日部活帰り駅まで一緒に手を繋いで帰っていた。
そして駅に着くと必ず、
『けんちゃん、バイバイ』
と彼女は言っていた。
毎日いつも一緒にいた。
けれどいつからだろう。
2人が離れていってしまったのは。
─僕が高校に入ってからだ。
高校でもバスケ部に入ったが中学の頃とはレベルも厳しさも全然違い僕はバスケを続ける事を諦めた。
そして僕は荒れた。
煙草を吸い女遊びをし、学校もまともに行かなくなった。
気付いた時にはゆかりはもう僕のそばにはいなかった。
そして大学に入り、僕は高校時代の思い出を記憶の奥底にしまい込んだ。
荒れていた事やゆかりの事を。
けれど心のどこかでいつもゆかりを探していたのかもしれない。
いつも見ていた彼女はあの頃のゆかりにどこか似ている。だから彼女に惹かれたんだ。
僕は込み上げでくる笑いをこらえられずフッと笑った。
そしてゆかりを見つめた。
「じゃあな。」
そう言い大きく手を降った。
「バイバイ。」
そう言い去ってゆくゆかりの左手の薬指にはシルバーの細い指輪が光っていた。
そしてまたも僕はフッと笑った。
読んでくれてありがとぅござぃました。小説を書くのにはまだまだ慣れていないので感想いただけると嬉しいです☆