6 悲劇+出会い1
マシュラとライフィーは再びルカ島を進み始めた。普段は歩き慣れない森をいつまでも歩き続け、だんだん疲れてきても決して足を止めることは無かった。二人はシュウの名を呼び続けながら森の中を歩いた。
そうして、どのくらい進んだだろう。緑が生い茂る森の中で開けたところがあった。見ると、そこの真ん中に小さなメノウ色をした美しい池があった。その池の辺で倒れている人がいた。誰だろう。遠くて見えにくいが、オレンジ色のマフラーが首に巻いてあるのが分かる。……え、マフラー?
「お兄ちゃん!!」
駆けよってみると、シュウだった。胸に穴を開け、口から血を流している。胸に耳を当てても、何も聞こえない。血の海で溺れるようにして倒れている彼の顔は、安らかに眠っているだけのように見えた。
マシュラはシュウのもとにぺたんと座りこんだ。彼の肩をつかみ、ゆさゆさ揺さぶる。当然、シュウは何の返事もしない。
「ねえ、お兄ちゃん……こんなとこで……何やってるの?ねえ、起きてよ…起きてよう……ねえ、やだ……うっ…うああああん!!」
マシュラは大声で泣き出してしまった。必ず帰ってくると言った時のシュウの笑顔を思い出す。あの約束は、永遠に守れないものになってしまった。マシュラの胸に、シュウと同じようにぽっかりと穴があいたような気持ちだった。
後から来たライフィーも、倒れているシュウと、その隣で泣き崩れるマシュラを見るとハッと息をのんだ。それから口を手で覆って顔を背ける。
深い悲しみが辺りを包んでいた。
マシュラは涙を拭きながら、シュウの着けて行ったマフラーをそっと手に取った。綺麗なオレンジ色が、血と土で汚れていた。
「誰がこんな酷いことを……」
「私だ」
その大地を揺るがすような低い声は、突然背後から聞こえた。
「…ッ!誰!?」
驚いて振り向くと、木の後ろに見知らぬ男が立っていた。
「そいつは私が殺した。そこそこ楽しませてもらった」
男はそう言うと、こちらに歩いてきた。長身で、闇のように黒いマントに身を包んで黒いフードをかぶって顔を隠している。彼からは、王のような威圧感がにじみ出ている。思わずマシュラは戦慄した。男から、どこか人間離れしたものを感じたから。
「あ……あなたは一体何なの…?」
尋ねると、謎の男は少しだけ首を傾けた。
「過去を変え、未来とこの世界を変える者だ」
「そんなこと…出来るわけない」
ライフィーがかすれ気味の声で吐き捨てるように呟いた。それはマシュラも同じだった。過去を変えるなんて、魔法でも使わない限り無理だ。でも、自分の前に佇むこの男が言うと、本当のことのように聞こえた。何者なんだこの人は。今までにない感情が渦巻いているのを感じた。恐怖?違う。憎しみ?怒り?これも違う。もっと別の、よくわからない気持ちだった。