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クローバー  作者: Lui
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3 フラムテイムの少女

「どこに行くんですか?」

ライフィーと名乗った少女はもう一度尋ねた。赤い瞳に日の光が反射してきらめいている。

「うーん、これから図書館に行こうかなって」マシュラは答えた。リリがマシュラの肩の上で大きく欠伸をした。

「ふーん」

ライフィーはちょっと考えるようなしぐさをして、言った。

「なら、私も行っていいですか?ちょうどヒマだったし、1人は寂しいんで」

「ええ、構わないけど」

ライフィーはぱあっと花のような笑顔になった。

「わ~い!マシュラ様ありがとう!一緒にいる間、何かあったら私になんなりと言ってくださいね!」

くるくると踊りだしそうなくらい喜ぶライフィーに、マシュラも自然と笑っていた。

こうして、マシュラとライフィーは友達になった。



ライフィーは明るく前向きな性格で、よくしゃべる子だった。が、自分についてはあまり語りたくないようだった。だから、マシュラがなぜここにいるか尋ねても、「いろんな事情で」と言って教えてくれなかった。代わりに、城での日常や使用人たちの話をたくさんしてくれた。

「マシュラ様とシュウ様って、使用人たちの間ですっごく有名なんですよ」

ライフィーはマシュラの隣を歩きながら楽しそうに言った。

「へえ~。でもどうして?」

「みんなにとっても優しくしてくれるし、何だか輝いて見えるんです。憧れっていうのかな?」

「ふうん。そんな風に思われてるのね」

日頃の自分を思い出してみるマシュラの手を、ライフィーはぎゅっと握った。

「だから、私は今マシュラ様を独り占めできるのがとっても嬉しいんです!」

マシュラは自分の手を包む彼女のすべすべで温かい手を握り返した。

「ありがとう」マシュラが言うと、ライフィーはにこりとほほ笑んだ。

そんなことをしているうちに、コリニカ城内の王立図書館に来ていた。先に入った人の後に続き、明るい館内に入る。中は綺麗で、大きな本棚にありとあらゆる本がぎっしり詰まっている。いつもは人が少ないが、今日は休日とあってたくさんの人々が来ていて少しにぎやかだった。

マシュラはカウンターに行き、そこで難しそうな本を読んでいる老人に声をかけた。

「ウルスさん」

「おや、マシュラ様ですか。や、お誕生日おめでとうございます」館長のウルスはニコニコ笑顔になった。

「ありがとうございます」

マシュラはぺこりと頭を下げた。

ウルスはカウンターの下から小さな赤い箱を出し、マシュラに渡した。

「これはわしからのプレゼントです。受け取ってください」

開けてみると、中にサファイアの目の小さなクマが入っていた。

「わあ!素敵!ありがとう、ウルスさん」マシュラはクマをそっと抱いた。

「そう言ってもらえるとうれしいです。さて、今日は何用ですかな?」

マシュラは国王から借りた鍵を見せた。

「ちょっと書庫の本を見せてもらいたいんですけど、いいですか?」

「おお、それなら全然構いませんとも。なんならいくつか借りていってもいいです。」館長は何度も大きく頷いた。

「おりがとうございます!じゃあ行ってきまーす」

マシュラはウルスにお礼を言って書庫に向かった。

大切な本や記録が大量に眠っている書庫は、図書館の仕掛け棚の奥にある。いくつもある扉に掛けられた札を見ていくと、「魔法の災禍」と書かれた札の扉を見つけた。マシュラの足がそこで止まる。

魔法が起こした災い。20年前の悲劇……。

何となく入りたくなってマシュラ鍵束を取り出す。が、そこであることに気付いた。

「しまった。どれがどの鍵かわからない…」

鍵がありすぎて困っていると、ライフィーが言った。

「私、わかりますよ」

「ほんと?」マシュラは驚いてライフィーを見つめた。

「はい。私たち使用人は最初入った時に覚えさせられるんです。だから城のだいたいの部屋は分かりますよ」

得意そうに言いながらライフィーはマシュラから鍵束を受け取り、そのうちの1つをカギ穴に差し込む。ガチャリと音がして鍵が外れ、ライフィーは扉を開けた。マシュラはリリと中に入った。

広くて意外と清潔だった。辺りは古い本のにおいでいっぱいになっている。てっきり暗くて埃っぽい所かと思っていたマシュラは拍子抜けした。

「ふ~ん。ずっと地下室みたいで暗くて汚い場所だと思ってたけど、結構綺麗ね。意外だわ」

マシュラが素直な感想を言うと、ライフィーもくすっと笑って言った。

「私も最初に来た時びっくりしました。ここ、もしかしたら図書館よりきれいかも」

マシュラは室内をぐるりと見回した。古くなって色あせた本たちが所狭しと並んでいる。

本棚の1つに歩み寄り、適当に1冊引っ張り出してみる。

「ソルシディアンーー魔法の民ーー」

表紙にそう書いてあった。

ソルシディアンとは、広い海の真ん中にポツンと浮かんだ島、ルカ・リズベント島に住む人々で、魔法を操り、精霊と話すことができるという。他国と一切交流を持たず、静かにひっそりと暮らしていたが、20年前の災禍で滅んでしまったらしい。なぜ「らしい」かというと、災禍の後に彼らの行方が全く分からなくなったからだ。なので、今彼らがどうしているのか分からず、前からあまり知られていないこともあって謎に満ちた部族といわれている。

マシュラは近くにあったいすに腰掛け、膝の上で本を広げた。ライフィーとリリもやってきて3人(?)でみる。

本は日記のような感じで書かれていて、ソルシディアンたちの生活の一部や文化などが記されていた。途中であった挿絵を見て、ライフィーは「お」と声を上げた。

「何?」

「マシュラ様って何となくソルシディアンの人たちに似てる」彼女は挿絵の人々を手で示した。

「みー」

「私、前にも同じことを言われたことある。小さい頃におじいちゃんに似てるねって言われたことがあったの。でももしソルシディアンだったら荒れ地に倒れてたりなんてしないよねってことになったの。でも私、どの国の人とも似てない…。私は誰なんだろう…」

それは、物心がついてきたときに一度だけ思った疑問。今は気にしていないけれど、泣きたくなるくらい考えた思い。


ーー私は誰なの?


「…ねえ、マシュラ様」

黙ってしまったマシュラに、ライフィーがそっと言った。

「たとえどこで生まれたのか分からなくても、マシュラ様はマシュラ様です。だから、それで誰かがなんと言おうと、あなたがどこ出身だろうと別にいいじゃないじゃないですか」

「……そうよね。自分は自分だもの。私はほかの誰でもない私なんだわ」マシュラはそう言って無理に笑い、胸の奥に生まれた小さな痛みを打ち消した。

マシュラは椅子から立ち上がり、本を持って扉の外に向かった。リリがその肩にチョンと乗る。

「もう行くんですか?」

「ええ。この本ちょっと借りるわ。面白そうだから。あと、もうお昼だから行かなきゃ」

「ふーん。ってことは帰るんですか?」

「そうするわ」

「なら私も帰ろうっと」ライフィーは「うーん」と伸びをした。

「お仕事は?」

「今日は半日で終わってもい日なんです。マシュラ様が帰るんならすることないんで帰ります」

マシュラたちは元来た道を戻って行った。本を借りてついでに鍵も返し、コリニカ城の外に出る。冷たい風が吹いてきて、マシュラは「うわ、寒っ」と首を縮めた。

後から出てきたライフィーも同じように「あ~っ、寒~っ」と肩をすくませる。そんなライフィーに、マシュラは言った。

「今日はありがとう。友達になれてよかったわ。とっても楽しかった」

ライフィーはぺこりと頭を下げて笑った。

「ううん、こちらこそ、マシュラ様と一緒にいられてすっごい楽しかったし、幸せでした。ありがとう」

彼女の笑顔はきらきらとまぶしかった。

「ええ。それじゃあ、またね」

歩き出そうとしたマシュラに、ライフィーが慌てて言った。

「ああ、そうだ。マシュラ様ぁ。ーー明日、一緒にどっか行きません?」

「明日?」マシュラは聞き返した。

「はい。明日はフリーなんです。だから、もしよかったら」

心底楽しそうに話すライフィーに、マシュラはにっこり微笑んで頷いた。

「オッケー。じゃあ朝の10時にここでいいかしら?」

「は~い!りょ~かいしました!またね、マシュラ様!」

「また明日!」

彼女はルンルンとスキップしながら城に戻って行った。その背中を見つめながら、マシュラは胸にほくほくした気持ちを感じていた。



ライフィーと別れた後、マシュラはいつも通っているパン屋に向かった。道の路地裏にある小ぢんまりとしたパン屋の無愛想な主人とは仲がいい。愛想がなくても、本当は優しい人だということをよく知っている。だから、店に入った時に主人に仏頂面で「いらっしゃい」とだけ言われても、「こんにちは」と明るく返した。

「今日はどれが欲しいんだ」主人はぶっきらぼうに聞いた。

「うーん…。じゃあ食パン1斤とクルミパン1個ください」

主人は無言でパンを袋に入れ、マシュラの前にどさっと置いた。リリが袋に興味を示してにおいをかごうとする。

そんなリリから袋を取り上げ、主人にお金を渡した。おつりを出してきた主人の手に、セルリアンブルーのミサンガが乗っていた。

「ほら、釣り銭。後これ持ってけ」主人はミサンガを顎で示した。

「今日は誕生日なんだろ」

マシュラは驚き、彼を見つめた。マシュラがずっと前に一度だけぼやいた誕生日の日を覚えていてくれたから。

「……ありがと。大事にするね…」何だか胸がいっぱいになってしまって、それだけ言うのが精いっぱいだった。

主人は頷くと、店の奥に消えてしまった。彼が消えるのは照れ隠しのためだというのを知っているマシュラは思わずクスッと笑った。

パン屋を出て、マシュラは何となく空を見上げた。少し寒々しい青色だったけど、雲ひとつなく、どこまでも澄み渡っていて限りなく美しかった。

私、すごく幸せだわ。

マシュラは心の中でそっとつぶやいた。


読んでもらってありがとうございます。

魔法とかそういったあたりはこれからやっと出てきます。多分。

読みづらかったり、意味不明なところもあるとおもいますが、よろしくお願いします。

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