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クローバー  作者: Lui
2/7

1 日常

ここはルカ・リズベント島にある「メノウの池」。そこで一人の少女と一人の青年、それから6人の精霊たちが集い、おしゃべりを楽しんでいた。

「それで、今日は何の話をしてくれるの?」レンジェ・ソルシディアンはたずねた。

土の精霊、心愛ここあが答えた。

うーん、今日はねー、ちょっと違うお話をするよ。」

「違う話?」レンジェは聞き返した。こんなことを言われたのは初めてだった。

「そう。」心愛はこくっとうなずいた。水の精霊、魅鈴みすずがみんなを代表して言った。


「君たちの前世の話を。」


その瞬間、世界が息を呑んだように静まりかえった。様な気がしたのはレンジェだけだったのだろうか。

自分たちの前世の話に触れるということは、特別な何かに触れるのと同じらしかった。

心愛が宙でくるくるとまわりながら言った。

「君たちの前世は、100年前にいた人だよ。」

彼女の言葉を聞きながら、レンジェは「前世…」と呟いてみた。

風の精霊、紗亜矢さあやがにこっと笑った

「しょの2人は、お互いにしゅきだったの。ちょうど今のあなたたちみたいに。」

レンジェは隣に座る自らの想い人、ヴァライス・ソルシディアンと顔を見合わせた。何だかちょっぴり恥ずかしくなって、レンジェは顔を背ける。ヴァライスは微妙にはにかんだような笑みを見せた。

「今の俺たちと同じくらいなら、相当幸せだったんじゃないのか?」彼はその後に、「恥ずかしいけど。」と小声で付け加えた。レンジェも同じ気持ちだった。確かに、自分たちと同じくらい愛し合っているなら、その2人もとても幸せだったに違いない。

けれども、その考えは「いいや。」という火の精霊、華煉かれんの言葉によって消された。

「2人ほど悲しい愛はなかった。」華煉は右の人差し指をピンとたてた。

闇の精霊、摩門まもんが静かに言った。

「なぜならその2人は……互いに、敵対していたから。」

ヴァライスが「ちょっと待て。それじゃあおかしいだろう。」と話を制した。

「何で恋人同士で敵対するんだ?」

「まあまあ、その話はこれからします。」ふわっと舞い降りてきた摩門にヴァライスは「ん。」とこたえた。

「さて、そろそろ始めようか!」魅鈴が全員を見回して言った。その言葉にレンジェとヴァライスは腰かけていた木の根に座りなおす。

魅鈴は一度目を閉じ、そっとまぶたを上げ、先ほどとは別人のような声で静かに始めた。

「精霊より人に伝わる昔の物語。過去と未来をつなぐ、100年前の特別な物語ーーー。」

光の精霊、瑠奈るなが池のほとりに進み出た。すっと両手を前に上げると淡く光る小さな球が現れる。瑠奈が手を下ろすと光の球はゆっくりと落下してゆき、池の水面に触れる。と、思った瞬間パァッと輝いて巨大な球体のスクリーンに変わった。そのスクリーンにボウッという音とともに寂れた荒野が映し出される。

「昔々、なにもない荒野に1人幼い少女が倒れていました…。」




*****




こちらに向かって誰かが歩いてくる。長いマントの下から手袋をはめた右腕が現れる。その手に握られているのは、見知らぬ誰かとは逆に、かなり見覚えのある細めの剣。

ーーああ。夢の中で少女は思った。

まただ…。またこの誰かの出てくる夢。一体誰なんだろう…。

そんなことを考えているうちに腕はゆっくりと持ちあがり、やがて音を立てて剣を構える。

この場面、何回も見た…。きっとこのあと……「マシュラ、起きろーー。起きろって!」

「いつまで寝てんだー。」毛布を引っぺがされ、マシュラは目が覚めた。「むにゅ…。」

「朝ご飯出来てるぞ。」

そう言い残してシュウはパタパタと階段を下りて行った。

マシュラはむくりと起き上がり、大きくあくびをした。ベッドから降りてひんやり冷たい床に足をおろしたとき、何か小さなものがトコトコとやってくるのに気づいた。

「ん?」

大きくて先っぽが白い耳と、同じく先っぽが白いふさふさのしっぽを持ち、真っ黒で小さな羽根を生やして「みー。」と可愛らしい声で鳴く生き物に、マシュラは見覚えがあった。両手でそっと抱きあげると、温かな体温が伝わってくる。

「わぁ!可愛い!これ、ルリオン?」

ルリオンの子は、大きな耳をぱたぱたと動かし、「みー。」とうれしそうに鳴いた。

ベッドの上にルリオンを降ろしたとき、マシュラは引き出しの上に手紙が置かれているのに気づいた。

「あら、手紙があるわ。気付かなかった。」

開けてみると、マシュラの「兄」シュウからだった。


マシュラへ

ハッピーバースデー、マシュラ。

16歳になったな。おめでとう!

ところで、そのルリオンの子は気に入ってもらえたかな?捨てられてたから拾ってきたんだけどいいよな。

俺からの誕生日プレゼントだ。大事に育てろよ。

それからさ、ちゃんと、もっと、早く、起きろよ!


「手紙でお祝いなんて…。お兄ちゃんらしい。」手紙を読んで、マシュラはくすっと笑った。

「さて…。」手紙を置き、マシュラは枕のにおいをクンクンと嗅ぐルリオンの子供を見た。

「この子の名前どうしようかしら。うーん…。」

ちょっと考え込んで、マシュラはいい名前を思いつき、パンと手をたたいた。

「そうだわ!リリにしましょう!」

枕をきゅっと握っているルリオンをそっと抱きあげて、胸に抱きよせる。ルリオンはきょとんとして「み?」とマシュラを見上げた。マシュラは優しく語りかけるように腕の中の小さなルリオンに言った。

「今日から君はリリよ。私がリリの、新しいママだからね。」

リリと名付けられたルリオンは「みー!」と鳴いた。

マシュラはリリを床に降ろし、明るく笑った。

「さあ、ご飯にしましょう。シュウお兄ちゃんが待ってるわ。」「みー。」

ドアを開けたマシュラは急に「あ。」と振り返った。リリがびっくりして「みみっ。」と声を上げる。

「その前に着替えなきゃ。着替えないとお兄ちゃんご飯にしてくれないの。意地悪だから。」「む~。」

マシュラはクローゼットを開け、服を出し始めた。

「どれにしようかしら。今日は誕生日だから…。」はじめは1つずつ服を床に置いていたが、途中で投げ始める。「あ~もう、いっぱいありすぎよ!」バフッ。「みー!」「あ、ごめん。」

なんだかんだいって、数分後。

着替え終わり、お守りの水色の石のペンダントをさげたマシュラはリビングのドアを開けた。

「おはよう、シュウお兄ちゃん。」

シュウは読んでいた本から顔を上げた。

「おう、おそよ。お誕生日おめでとう、マシュラ。」シュウはニッと笑った。

「ええ、ありがとう。」マシュラもにこっと笑った。

リリが大きな声で「みー。」と鳴くと、シュウはリリに気付き、たずねた。

「そういえば、その子の名前はどうしたんだ?」

マシュラは椅子に座りながら答えた。

「リリっていうの。」

「へぇ、なんかマシュラっぽくていい名前だな。」

シュウにそう言われて、マシュラは照れくさくなって「えへへ、そう?」と笑った。

トーストをかじろうとした時、シュウが「ああ、そうだ。渡すものがあった。」と言って何かを出してきた。手の中のそれをしばし見つめた後、「ほれ。」と投げてきた。とっさに手を伸ばし、投げられたものをとる。

「これ…。」シュウが投げてきたものは、四つ葉のクローバーが入ったしおりだった。

「うちの庭に生えてたんだ。俺が押し花にしてみた。お前、本好きだろ?だから、しおりしたらいいかな、と思ってさ。」

「お兄ちゃん…。ありがとう。」マシュラはしおりをぎゅっと抱いた。

少しして、シュウが椅子から立ち上がり、自分の部屋に消えた。

しばらくたって出てきたシュウを見てマシュラは驚いた。

お兄ちゃん…何でそんな恰好をしてるの?」

シュウはこの部屋にあまりにも合わない格好……武装をしていた。シュウはこの国、ポルフォニオ国の王直属の軍に入っていて、普段からこういう格好で出かけるときがある。だが、今回の武装は極め付けだった。鎧は着たくない主義らしく、いつもは戦闘服のような感じの服に愛用の剣を下げているだけだ。今日も同じような服に愛剣を下げているが、金属部分が明らかに増えていた。ベルトには予備の短剣をつけて、頭に国王直属の隊の隊長の証である金の狼の刺繍つきの軍帽をかぶっている。それから、首にはマシュラの編んだオレンジ色のマフラーを巻いていた。武装で身を固めたシュウの、唯一彼らしさが見えるものだった。

シュウは一瞬だけためらうようなそぶりをして、いつもの笑顔になった。

「王様から頼み事されちゃってさ、出かけることになった。明日には帰るよ。」

「え~。」マシュラは嫌そうに言った。「どこに行くの?」

「うーん、内緒。そんな心配するような場所じゃないさ。」

「本当?」

「ああ、本当。」

納得がいかないという顔のマシュラの頭をくしゃくしゃなで、シュウは懐かしそうに言った。

「16か…。ついこの間までは今の俺の腰よりちっちゃかったのに、いつの間にこんなでかくなって…。」

彼はおそらく初めてマシュラと出会った頃を思い出しているのだろう。マシュラは覚えていないが、2,3歳の時にシュウの祖父ナグロに拾われてきて育てられた。その後ナグロは亡くなったので今はシュウと2人で生活している。マシュラはポルフォニオ国の民とは容姿が明らかに違っているが全然気にしていない。つもりだ。

「それじゃ、俺行くから。」

「え?あ、ああ、いってらっしゃい。」マシュラは考え事から我に返った。出かける兄を玄関まで送ろうと椅子から立ち上がる。ミルクを飲んでいたリリもついてきた。

シュウはブーツをはき、玄関のドアを開けた。取っ手に付けた小さなベルがちりりんと鳴った。

「じゃ、いってきまーす。」

「いってらっしゃい!」「みー。」

ガチャン。ちりりん。

シュウが出て行ったあと、マシュラはふ~っと大きくため息をついて笑った。

「さあ!きょうはなにをしようかしら?」「みー!」

マシュラとリリは廊下を元気に走ってゆく。

それは、本当に当り前な日常。幸せな日々の一部分。けれども、その日常はすぐに永遠に消え去るものになる……



えっと、今ノートに書いているのを投稿しました。楽しんでもらえましたでしょうか?

これから話がすごいことになっていくとおもいますが、どーぞよろしくおねがいします。

たぶんこれから1か月に一回くらいで更新する予定です。

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