↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南の島から  作者: 安達夷三郎
第一章、タイムスリップ
PR
6/6

六話

ある日、近くの男子中学校の生徒が学徒出陣のため、戦地に向かうということを校長先生から聞かされた。

この時代の男子中学校が、現代でいう高校生から大学生に相当する年齢の生徒たちが通う場所なのだということを、私は最近知ったばかりだった。

ほんの少し年上の、まだ二十歳にも満たない学生達が、ペンを捨てて銃を握り、戦場へ向かう。その事実を聞かされただけでも、胸をぎゅっと力任せに締め付けられるような激しい衝撃があった。

だって、私の中での『兵隊さん』といえば、体格のしっかりした大人の男性のイメージしかなかったから。まだあどけなさの残る彼らが、死と隣り合わせの戦場へ行くなんて、どうしても信じたくなかった。

送別会を開くことになり、一年生と二年生は近くの農家を駆け回り、必死に頭を下げて、芋や泥のついた野菜を買い集める。

そして、家庭科室からは香ばしい匂いが漂ってくる。上級生達が、集まった貴重な食材を前に腕によりをかけ、今できる精一杯のご馳走をこしらえていた。

そうして迎えた送別会の当日。

会場には、手作りの豪勢な料理が並んでいた。

少し緊張した面持ちで並ぶ男子生徒を前に、一人の代表生徒がゆっくりと前に進み出る。

彼が挨拶のために口を開いた瞬間、それまでガヤガヤとしていた会場は、水を打ったようにシーンと静まり返った。

「今日は本当にありがとうございます。故郷へ帰ることもなく入隊しますが、こんな素敵な送別会を開いて下さり、私達の気分もいくらか紛れました」

彼は一度言葉を区切り、会場にいる私達一人ひとりの顔を見つめるようにして、前置きを述べる。

その真っ直ぐな瞳は、実年齢よりもずっと大人びて、達観しているように見えた。

「私は徴兵検査が繰り上げになったことを知らされた時、まるで稲妻にでも当たったかのような衝撃を受けました。本心を言えば、非常に残念で、悔しかった。しかし……戦場に出ればもう帰らぬ身であることを覚悟し、祖国のために身を捧げて戦って参ります」

彼は最後に、私達に向かって、一歩踏み出しながらこう訴えかけた。

「女の人は男の人より助かる機会が多いから、生き残ったら必ず伝えてほしい。戦争は非情だって、どんなに勉強がしたくてもできない。したいことはまだまだあったのに、戦争のない時代を生きてみたかったと、それを後世の人達に伝えてほしい」

彼の言葉が終わった瞬間、会場のあちこちから、こらえきれない嗚咽が漏れ聞こえてきた。

アスカちゃんも、リンちゃんも、サエちゃんも、みんな涙をボロボロと流しながら、それでも彼らの旅立ちを汚さないように、必死に唇を噛み締めていた。

男子生徒は力強く胸を張り、最後にピシッと敬礼をしました。その背中はあまりにも頼もしく、同時に小さく悲しく見えてしまう。

私達とそんな年齢の変わらない子が、武器を持ち、国のためと戦う。

なんて不条理なのだと思ってしまった。いや、未来に生きる私が彼らにとやかく言える立場ではないのは分かっている。

でも、これはあまりにも……。

貴重な芋や野菜で作ったささやかなご馳走を、彼らは一口一口、噛みしめるように味わっている。

「おいしいです」

「こんな温かいご飯は久しぶりだ」

やがて出陣の時間が訪れ、私達は校門の前にずらりと並んで彼らを見送る。

手に持った小さな日の丸の旗を振りながら、「無事でいて」「どうか生きて帰ってきて」と心の中で祈り続けていた。けれど、声に出せるのは「お気をつけて」「ご武運を」という言葉だけだった。

明け方になると、九州の基地から特攻機が数機飛んでくるのが丘の上からよく見えた。

ほとんどが撃ち落とされてしまう中、敵艦に見事体当たりする機体も見え、パーッと火柱やら水飛沫が上がる。

詳しいことは分からないけれど、あの特攻機には十六歳から二十代前半の航空兵が乗っているのだという。

高校生から大学生までの年齢。送別会で送り出した彼らもそうだが、誰もが驚くほど大人びていて、自分の生死に対して悟りを開いたように達観していた。

私の想像していた大学生といえば、テレビなどで見るサークル活動や飲み会で楽しそうにはしゃぎ、時には羽目を外しすぎてニュースになるような、自由で伸びやかなイメージだったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。