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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

人造天使の舞う空に ~高校生はファンタジーと戦争中~

作者: ぽにみゅら
掲載日:2026/05/01

 2066年。地球は異世界から宣戦布告された。


 “魔法を持たぬ劣等民族よ跪け”


 魔道帝国リベータ皇帝からの一方的な会戦の通知は、幻影の魔法によって全世界の空に映された。


 魔法と言う未知の力に人々は恐怖した。


 そして、魔法が存在するという事実に期待した。


 翌日、東京湾の埋め立て地に巨大な魔法陣が出現。自衛隊の艦艇や航空機が警戒する中、剣や槍で武装した数万の兵士。そしてミノタウロスやドラゴンといった伝承上の怪物が姿を現した。


 それはリベータ帝国から送り込まれた軍勢だった。


 報道のヘリやドローンに対し、ドラゴンが威嚇するように咆哮を上げる。


 リベータ軍が都市へと進軍を始めたことで、様子を見ていた政府は攻撃を指示する。


 自衛隊の戦艦が、ドラゴンに向けてレールガンを発射。対地攻撃ドローンによる地上掃射が行わた。


 ドラゴンがひき肉に変わり、魔物の軍団が東京湾の藻屑と消えた。続いて哨戒機から兵士たちの頭上にスタングレネードが雨が降り注ぎ、阿鼻叫喚に包まれる埋め立て地。


 戦闘開始から30分。リベータ帝国軍が降伏したことで最初の大規模戦闘は地球側の勝利に終わった。


 その後も世界各地で同様の戦闘が行われた。近代兵器の火力の前にリベータ帝国軍はなす術も無い。


 技術格差は明らかだった。度重なる大敗にリベータ帝国も侵攻を諦めるだろう。誰もがそう思った。


 しかし、それから20年以上が過ぎても、地球とリベータ帝国との戦争は終わらなかった。


 2090年、地球は異世界と戦争中である──






 九州沖を航行する奄美海洋水産高校所属の実習船『あさしお』に警報が鳴った。


「鹿児島県警より緊急入電! 鹿児島市内に魔物が出現! 待機中のG−2パイロットは機体に搭乗し出撃に備えてください」


 慌しく船内を走る学生達。


 管制室でオペレーターを務めるのは放送部2年の寺山真子だ。


 待機室からはパイロットスーツ姿の少年、少女が飛び出していく。


 奄美海洋水産高校兵科3年、風祭紫苑は白く塗られた実習機のコクピットに乗り込むと、機体を立ち上げる。


 G−2飛翔格闘機。通称『ネピリム』と呼ばれる対魔物用に開発された12メートルの人型兵器(ロボット)である。


 格納庫には3機の『ネピリム』が待機状態に入っていた。水素ラムジェットエンジンの甲高い駆動音が船内に響く。


「出動要請来ました! G−2隊発進用意!」


『あさしお』の格納庫からエレベーターで甲板へと姿を現した『ネピリム』は、膠着姿勢から四肢を縮めた飛行形態へ変形し翼を広げる。


 乗り込むのは紫苑を始め、全員現役の高校生だ。1番機には隊長の風祭紫苑。2番機にはお調子者の斎門樹生。3番機には学校一の美少女と噂される大島沙月。


 地球の持つ近代兵器の火力の前に敗退したリベータ軍は、大軍による直接戦闘を諦め、召喚魔法によるテロ攻撃に切り替えた。


 そしてそれは非常に有効だった。


 ある日、日常を裂いて現れる魔物に襲われる恐怖に人々は怯えた。


 圧倒的な力を見せつけた地球の軍隊も、何処からともなく現れる魔物に苦戦を強いられる。


 いつ、どこに現れるかもしれない敵に対し、慢性的な人手不足に悩む軍や警察は悲鳴を上げた。


 また、ターゲットにされる市街地や住宅地において、従来の軍用兵器では火力が高すぎて使いづらい。


 陸上部隊では間に合わない。


 広がる被害──


 度重なる誤射や誤爆──


 巻き添えを食った周辺住民の補償や苦情の処理──


 頭を抱えた日本政府は、魔物との戦闘に特化した全く新しい兵器を開発した。


 素早く展開できる即応性と機動力。周辺に被害を与えずに魔物を制圧できる格闘能力を持った人造の守護天使。飛翔格闘機の誕生である。


 だが、新機軸の兵器を運用。それも全国をカバーするとなると、ただでさえ人手不足の自衛隊には余裕が無い。


 そこで魔物に対し自治体レベルで対応する新防衛基本法が制定された。全国180の公立高校に兵科を設立し、飛翔格闘機を学生が運用する事で、魔物に対して早期殲滅が可能な体制が作られることになる。


『ネピリム』の運用が始まって10年。今や異世界との戦争は高校生が担っていると言っても過言ではない。


「鹿児島市に出現した魔物はサイクロプス型が5体。現在桜島高校兵科がスクランブルに入ってます」


 本来、奄美海洋水産兵科は、鹿児島県南部の離島を管轄としている。だが、『あさしお』が本土から近い位置にいたことから出動要請が入ったようだ。


『あさしお』から3機の『ネピリム』と武装を懸架したドローンが飛び立っていく。


 既に桜島高校が出動しているなら無駄足になる可能性が大きい。しかし、万が一の場合を考え、魔物が出た場合は二校以上で対処で対処するのが通例となっていた。


 そして、万が一というのは起こるものである。


「桜島高校生徒会長の津雲です! 現在サイクロプス型が市街地に2体。港湾に3体。自警団が対処していますが、我が校のG−2は市民団体の妨害で出動できません! どうか後をお願いします!」


 桜島高校のオペレーターからの通信に、『あさしお』に乗り込んでいた全員がうげっという顔になる。


 近年、市民団体による魔物駆除への妨害が問題化している。彼等は「学生を戦わせるな!」「神に抗うな」「魔物さんがかわいそう」などと書かれたプラカードを掲げデモを起こし、学校を取り囲み『ネピリム』の発信を妨害する。


 そんな彼等の動機は様々だ。


 社会不安に付け込むテロ組織。


 魔法を我が手にと叫ぶカルト集団。


 異世界に夢見るオタク共。


 今や魔物以上の脅威として認識されている内なる敵である。


 海上母船を持つ奄美海洋水産では流石に出動不能に陥るまでは無いが、港で『あさしお』が抗議船に取り囲まれた事はある。


 今頃、県庁や市役所にも、抗議や嫌がらせのメールや電話が殺到しているはずだ。


 タイミング的に、市民団体がリベータ帝国の魔導士と手を組んでいるのは間違いない。


 魔法には夢がある。可能性がある。


 魔法を手にしたい。異世界で暮らしたい。そういった夢と浪漫のためなら故郷を売るくらい安いもの。そう考える人間は多いのだ。


「了解。30秒で現着する。市街地は私が行く。港湾は任せた」

「了解!」

「あいよ!」


 紫苑の指示に3機の『ネピリム』は二手に分かれて行動を開始する。


 市街地では特にデリケートな戦闘が求められる。紫苑がそれを自ら買って出たのは、この中で自分の腕が一番良いと自負しているからだ。実際彼女はこの春行われた全国の兵科生徒による競技大会で優勝している。


「サイクロプス型を確認。制圧開始!」


 飛行形態をとっていた『ネピリム』は四肢を伸ばし、本来の人型へと姿を変える。


 流線型の装甲。コクピットが張り出した胸部。腹部は軽量化のためにくびれ、主機となる水素ラムジェットエンジンが埋め込まれていることから、大腿部は太く、脛にかけて細い。


 メリハリのある女性的なフォルムから、地上からは天使が舞い降りたかのように見えただろう。


 それこそ飛翔格闘機が人造天使(ネピリム)と愛称づけられてる所以である。


 着陸した紫苑は、防獣シェルターに腕を突っ込んでいたサイクロプスを引き剥がし、腹に膝のパイルバンカーを打ち込んだ。


 崩れるように倒れるサイクロプス。その頭に自警団の操縦するドローンが張り付き自爆する。


 頭半分を吹き飛ばされて絶命したサイクロプス。


 ドローンを操縦していたのは、訓練で知り合った市民安全化の課長だった。自警団と書かれたヘルメット姿の中年男性がサムズアップしてきたので、紫苑もそれで返した。


「もう一体来ます。退避してください!」


 外部スピーカーで呼びかけると、課長はシェルターへと避難して行った。


 そこにサイクロプスが棍棒を振り上げて向かってくる。


 身長は8メートル。灰色の皮膚に筋肉質な身体を持つ、物語に登場する姿そのままのひとつ目の怪物だ。


「ブレードを使いますか?」


 随伴するドローンに懸架された近接用ブレード。それを使うかと尋ねる真子。


『ネピリム』の手持ち武装は、基本的にドローンで懸架されて運ばれる。


 最初から装備状態で出撃しないのは、シンプルに重いからで、例えばブレード一本でも重量が3トンあり、装備した状態だと飛行性能がガタ落ちしてしまうのだ。


 ブレードの他に105ミリ滑空砲を懸架したドローンも随伴しているが、市街地である以上、こっちは射撃許可が出ないだろう。


「いや、民家との距離が近い。このままいく」


 腕に内蔵されたチェーンソーがせり出す。リーチは短いがそもそもサイズは『ネピリム』の方がかなり大きい。


 振り下ろそうとした棍棒ごと、サイクロプスの腕を斬り裂く。


 片腕を失い、悲鳴を上げるサイクロプス。その首を切り裂き仕留める。


 瞬く間に2体を仕留めた紫苑。機体は返り血で染まっていたが、その勇姿に住民から拍手が起こる。


 詩音は『ネピリム』に敬礼させて答えると再び空へと舞い上がっていった。


「市街地は片付いた。そっちは?」

「臨海公園内のパビリオンに籠城されてる。沙月が挑発して誘き出してるとこ」

「了解」


 ズンズンダンダン♪


 港湾にある臨海公園。そこに響く軽快なメロディに合わせ、ぴっちりしたパイロットスーツ姿の黒髪美少女がキレのあるダンスを披露している。沙月だ。


 そしてその背後では、少女の動きを正確にトレースした『ネピリム』が踊る。


 そして彼女達を中心に踊る10人程の若者達。


「どういう状況?」


 沙月と一緒に踊っている若者達について尋ねる紫苑。


「地元のダンスサークルだってさ。沙月が挑発するって踊り始めたら、俺達も行くぜ! とかいって、止められなかった」

「そう。発砲許可は?」

「出てる。誘き出し出せたら一気に火力で殲滅する予定」


 樹生の『ネピリム』は既に105ミリ滑空砲を備えた状態だった。周囲には警察の機動隊と猟友会が対獣ライフルを構えて待機している。


 サイクロプス3体に十分すぎる火力だろう。


「わかった。わたしも踊った方がいい?」

「うーん。見たいけど……」


 操縦技能や座学の成績では紫苑に並ぶ者はいない。だが、ダンスに限っていえば、彼女の成績は最大限におまけしてようやく可といったところ。今踊ってる連中のレベルはかなり高く、正直あの中に紫苑が入ったら公開処刑ものである。


 それでも樹生が見たいと思ったのは、紫苑の胸がでかいからだ。


 巨乳の部類に入る沙月よりも更にふた回りくらいでかい。しかも形良く張りがある。


「いいや」

「そう」


 紫苑は少し残念そうな返事をして、ドローンから105ミリ滑空砲を受け取った。


 やがて、パビリオンの窓からサイクロプスの姿が見えた。


「口元が綺麗ね」

「ああ、腹ペコなはずだ。出てくるぞ!」


 ドローンに追い立てられて無人のパビリオンに逃げ込んだらしい。召喚されてから餌にもありつけないことでサイクロプスは相当気が立っているようだ。


 ご機嫌斜めな理由は空腹なだけではない。


 魔物は音楽が嫌いである。人間より感覚に優れ、ストレス耐性が低くキレやすいのが原因で、特に激しい地球の音楽は彼らにとって耐えがたい不協和音に聞こえるらしい。


 空腹なところにやかましい雑音を流されてイライラして外を見たサイクロプス。


 なんとそこには生きの良さそうな人間が踊っているではありませんか!


 これはもう行くっきゃない!


 人間共を食い散らかして、このやかましい音の元凶をぶっ壊してやる!


 魔物の前で踊る行為は、一見突飛なようで実は理にかなっているのである。


 そして──


 帝国の皇帝よ見ているか!


 俺達は卑劣なテロを恐れない! 魔物など恐るに足りない!


 俺達には最強の守護天使がついている!


 悔しかったらかかってきやがれヘタレ野郎!


 『ネピリム』と共に魔物の前で踊る。


 それはメッセージだ。地球の若者から異世界でふんぞり返っているであろうリベータ帝国皇帝への鮮烈なメッセージなのだ。


 サイクロプスがパビリオンから出たのを確認すると、『ネピリム』の105ミリ滑空砲と、警察、猟友会が持つ対獣ライフルが一斉に火を噴いた。


 105ミリの砲弾はサイクロプスの分厚い筋肉の鎧を容易く抉りとった。2体は上半身に大穴を開け、1体は無数の銃弾を受けてハチの巣になって倒れた。


「状況終了」

「だな」

「おつかれー!」


 ダンスサークルの面々に揉みくちゃにされながら手を振る皐月。


 2090年。地球の高校生は異世界と戦争をしている。


突然ですが、Twitterで話題になってたのでロボットもの書いてみました。

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