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のっとり魔王の冒険譚  作者: 阿井川シャワイエ


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第2話 転生事故

 その問い掛けに答えたのは、センパイと呼ばれていた緑髪の女性。

 彼女は分厚い本の表紙を撫でながら、重々しく頷いている。

 

「ここは数多の歴史書が収められている、各宇宙における最重要拠点。通称、【銀河の書庫】と呼ばれる場所です」


「銀河の……書庫?」


「ええ。そして私とベルは地球を担当する【(みちび)()】です。歴史書に反する異常事態が発生した場合は速やかに修正し、元の歴史の流れに戻す役割を担っているのですが……」


 緑髪の女性は、手に持っている本をパラパラとめくっていく。

 するとその途中で、真っ赤な光を放つページがあった。

 

 まるで警告のような、危機感を煽る鋭い光。

 

 彼女はそれを眺めて疲れたようにため息をついてから、パタンと本を閉じた。


「今回は我々がサポートしても、なかなか修正が完了しないんです。どうも当初の想定より問題が根深い気がします。原因究明のため徹底的な調査が必要になるでしょう」


「……」


 リオンは反応に困っていた。

 いつもの彼であればこんなファンタジー要素満載な話を聞かされても、鼻で笑うだけで信じたりはしなかっただろう。

 WEB小説やアニメを愛好する彼ではあったが、それとこれとは話が別としか言いようが無い。

 フィクションはあくまでもフィクションであって、現実とは違うのだ。


 けれど。

 

(なんでだろうな……受け入れそうになってるのは……)

 

 ふたりの話に奇妙な説得力を感じてしまっていた。

 

 その理由が自分でも理解できないまま、リオンは尋ねる。


「よく分からんが……結局俺はどうなるんだ? その調査とやらが終わるまでここで待ってりゃいいのか?」


「いえ今の貴方は無垢なる魂、あまりにも無防備すぎてこのまま放置するわけにはいきません。死神にでも捕まったら、強制的に地獄行きになってしまいますから」


「し、死神……? 地獄行き……?」


 思い浮かぶのは、大きな鎌を持った骸骨が不気味に笑う姿。

 空想の世界の住人とばかり思っていたが、実在するとでもいうのだろうか。


「あの子たち、仕事熱心ですもんねぇ。わたしたちの目を盗んで、ササッと魂を連れ去るくらいのことなら普通にやりかねないですよ」

 

「ええ、それが彼らの役割ですから責めることもできません。なので貴方にはひとまず転生してもらい、仮の肉体を持っていただこうと思うんです。肉体に入った魂は、死神といえど手出しできませんから」


「転生……!」


 思わず目を輝かせ前のめりになるリオン。


 だがすぐにその詳細を思い出し、浮いた腰をソファに戻す。


「いやでも、ちょっと待ってくれ。転生ってことは、罪もない赤ちゃんの精神と肉体を乗っ取ることになるんだろ? なんか違う方法って無い? 俺そういうの苦手なんだよな、罪悪感があるっていうか……」


「ご心配なく。あくまでも死神たちの目を欺くためのカモフラージュにすぎませんので、うまく処理します。少なくとも赤ちゃんの身体を乗っ取ったりはしませんよ」

 

「お、おおそうか。いや、違うのなら別にいいんだ」


 リオンはホッと胸をなでおろす。

 だが緑髪の女性は、難しい顔をしていた。


「問題は転生先なんですよね。調査の都合上、地球以外の星が望ましいのですが……」


「ほ、ほう……」


 彼女の言葉は異世界への転生を意味していて、リオンの胸はおのずと高鳴った。


 そんな前向きな反応が喜ばしかったのか、緑髪の女性は優雅な微笑みをみせる。


「ちなみに転生先についてご要望があれば教えてください。調査は長期に及ぶ可能性がありますからある程度は融通をきかせますよ」


「……それはありがたいが……」


 リオンは眉をひそめた。

 

(調査は長期に及ぶ可能性がある……?)

 

 簡単に言うが、具体的にどのくらいかかるのだろうか。


 たとえ数時間で完了したとしても、買ったばかりの牛肉の保存状態が気になるというのに、彼女の表現的にどうもそのレベルではなさそうに思える。

 

「……もしかして修正とやらが終わるまでに何十年も掛かったりするのか……?」


 おそるおそる尋ねる。

 すると緑髪の女性は、本を片手に気軽に頷いた。

 

「可能性はあります」


「はあ!?」


「ですが問題はありません」


「いや、大ありだろ!? そんなに時間が掛かったらヨボヨボのお爺さんになっちまう!」


 思わず叫ぶリオンだったが、緑髪の女性は顔色一つ変えず冷静なままだ。


「いえ、そうはなりませんよ。エラーの修正さえ完了すれば、貴方の魂を元の時間に戻すことができますから」


「……元の時間?」

 

「ええ。時間遡行を使うんです。今回で言えば、貴方がトラックにひかれる数分前に戻っていただくこととなるでしょう。もちろんエラーが無くなっているわけですから、魂を戻したからといって事故に遭うこともありません。本来の寿命が訪れるまで、今まで通りの日常を過ごしていただけます。我々としても保護対象である貴方の魂を酷い目にあわせるつもりなんてないんですよ」


「な、なるほど……」

 

 さらりと告げられた言葉には納得感があった。


(そういや、俺が死なないよう何回もやり直してるとか言ってたもんな。時間を戻せるのならそのあたりの心配も無用と言うことか。それなら……)

 

 懸念が消えたリオンは、ソファに深々と座りなおし、慎重に尋ねる。

 

「転生先の要望だけどな、どうせなら魔法を使える世界がいいんだが……あったりする?」


「なるほど、魔法ですかぁ」

 

 反応はすぐ隣からあった。

 ベルはリオンをまっすぐ見つめ、ニコニコと微笑んでいる。

 

「それならあの星とかどうです?」

 

「マジであんのかよ!? ど、どんな所だ?」


 大興奮のリオンの目の前で、ピンク髪を揺らしながら少女はうーんと首をひねる。


「えっと……ちょっと名前が出てこないんですけど……そこは自然豊かな緑あふれる美しい世界で……魔法を使える人間がたくさんいて……でもやがて魔法使い同士で激しい争いがおこり……その中から魔王を名乗るヤバいやつが出てきて……世界が荒れに荒れて……なのに導き手もまともにその星を管理するつもりが無く……崩壊寸前で……地獄一歩手前みたいな……」


「よく分からんがやめろ。そんなところ行きたくない。というか保護対象の魂を地獄一歩手前の場所に送り出そうとするなよ」


 首を横に振って全力で拒否するリオンだったが、緑髪の女性は何かを考え込むように視線を落としている。


「ふむ……」


 その反応を見て、リオンは慌てた。


「え、ちょっと待って。なに吟味の雰囲気だしてんの? 冗談だよな? なんの落ち度もない善良な魂を、そんな場所に送り出したりしないよな?」


「あそこって正直もう収拾がつかなくなってますし、導き手も死んでるんじゃないかってくらい放置状態で……そのうち星ごと廃棄するって聞きましたよ。そこであっというまに殺される一般市民にでも転生させたらいいのでは? もし変に幸せな人生でも歩ませたら、こいつ絶対ごねますよ。いざ元の世界に戻そうとしても、『俺はここを安住の地に定めたんだ! 絶対に戻るもんか!』みたいなことをピーチクパーチク(さえず)って、うっとおしいことになるのは目に見えてるじゃないですか。その点あそこならなにかできたとしても世界への影響が小さいですし、魂の回収もすぐできますから」


「……」


 リオンは無言でピンク髪を指さしながら、【センパイ】に視線を送る。

 それはいきなりろくでもない提案をしてきたこの無礼者をさっさと黙らせろという意思表示のつもりだったが。

 

「……採用といきましょう」


「はあ!?」


 まさかの反応に、リオンは激昂した。

 

「ふざけんな! こっちが大人しくしてりゃ、いい気になりやがって! もうお前らの事情なんて知らん、いますぐ俺を元の場所に戻せ! 俺には、特売で買った牛肉を30日分に仕分けするという重要な作業がまだ残ってるんだ! あれをやっとかないと、勢い余って初日に全部食っちまう可能性が――」


「ちょ、暴れないで下さいよ! どうせ100グラムの牛肉なんて、一日で食べきるのが適正量ですって。食べられる牛さんも、そんなに小分けにされたらどのタイミングで天国に行っていいか分からなくて困っちゃうじゃないですか!」


「初日に逝っとけ、んなもん!」


 適当に叫びながらベルの手を払いのけ、勢いよく立ち上がる。


 だがその途端、いつのまにか近づいていた緑髪の女性が、リオンの頭を両手で掴みグッと抱きよせた。


「ぐふうっ!?」

 

「あーもー、全然分かってない! 牛さんにだって心の準備ってものが……あ、こいつどさくさに紛れてセンパイに抱きついてる! っていうか胸に顔をうずめてる! 離れろ、離れろぉ~!」


 今の流れを見ていなかったのか、ピンク髪の少女はソファに座ったまま必死にリオンの腕を引っ張り身体を引きはがそうとする。

 そこに頭上から鋭い叱責が飛んだ。

 

「あなたが離れなさい、ベル! 彼は私が抱き寄せているだけです!」


「えっ!? もしかしてセンパイ、こういうちょっと目つき悪いのがタイプなんですか?」


「ひ、人聞きの悪いことを言わないで下さいっ! 転生魔法を使うときはこの体勢になることくらいベルだって知ってるでしょう!? それより貴方が近くにいると魔法に干渉して、うまく制御できな――あっ……!」


 その小さな叫びには、致命的な響きがあった。

 

 直後、周囲の空間にピシピシと裂け目が入っていき。


 ――裂け目に吸い込まれるように、リオンの意識が消えていく……。

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