第13話 五天魔(4)
「デスカウント。言われてみればそんなものもありました……」
しょぼくれる4人の中で、レイリは特に落ち込みが激しかった。
手で額を押さえ、頭を振っている。
知性を評価されているという思いがあったのだろう。
リオンとしても、彼がまともに魔法を喰らっていたのはちょっと意外ではあった。
とはいえ4人が死んだという結果を考えれば、むしろ見事に回避したミャオを褒めるべきなのかもしれないが。
「戦闘に意識がいってたせいで、すっかり忘れてたぜ、くそっ」
ガウシバも不満そうではあるが、自分自身の判断ミスを反省しているようで、目を伏せうつ向いていた。
その殊勝な態度も意外だ。
「こんなウスノロのバカしかいないんじゃあ、そりゃあ魔王様だって不安だよねえ~」
ひとりだけ魔法を回避できたせいか、上機嫌なミャオ。
(……いっそのこと魔王の座をこいつに譲るか?)
リオンの頭の中を、そんな思いが巡る。
わざと戦いに負けて魔王の座を譲るという作戦は始まる前に破綻したが、そもそも最終決定権はリオンにあるのだ。
極論、強制的に押し付けることだって可能ではあった。
(……理由なんて適当にでっちあげればいいしな。でもどうだろう、この態度をみるとミャオはあまりにも子どもすぎるかもしれない。ちょっとした問題でブチ切れて、人類と全面抗争になっても困る。そうなるとやはり譲るべき相手は……)
必ずしもそれでうまくいくという確信があったわけではないが、リオンは傲然と顎を上げ、告げる。
「確かにこのままでは不安だな。ここは――魔王の権限をガウシバに譲ることにしよう!」
「…………」
全員が静まり返り。
「はぁ!?」
同時に驚愕の声を上げる。
こちらに詰め寄ろうとする五天魔を制するため、リオンはふんぞり返って、ガウシバをビシッと指さした。
「貴様は魔王に対して反抗的すぎる。とはいえ俺様がかつて五天魔に選んだ以上、その戦闘能力自体は評価に値するはずだ。真っ向から戦えば俺様とて100%勝てるとは言い切れないほどにな」
「え~? 魔王様がこんなやつに負けるわけ無いって。いくら何でも過剰評価すぎ。記憶が戻ったら、がっかりするよ?」
「そ、そうだよ、魔王っち。かじょーひょーか、かじょーひょーか!」
「まぁ~たバカ姉は意味も分からずに」
「馬鹿じゃない! 何回言えばお姉ちゃんのこと馬鹿にしなくなるのかなあ!?」
「それはともかく!」
話が横道にそれそうになり、リオンは大声で遮る。
「いいか、ガウシバよ。お前はもっと、広い視野で物事をとらえなければならない。勇者を生かすことにした俺様の判断が大いに不満のようだが、俺様は貴様などとは全く違うスケールで物事を考えている、そのことを知るべきだ。だからこそ一時的に魔王という立場を任せる。高みに上ってこい。俺様と同じ視点でこの世界を眺めれば……今までとは違った景色が見えてくるはずだ。いずれは俺様と同じ答えにだってたどり着けることだろう。俺様はその日が必ず来ると信じている」
真摯な瞳で告げる。
無論内心は違った。
(こうやって意味深に言っておけば、勝手に袋小路に迷い込んでくれるだろ。意外とこいつ真面目そうだしな)
そもそもリオンが勇者を助けたい理由は彼女が人間だからであって、それ以外にはない。
もともと人間であるリオンは心情的にも人類の味方なのだ。
同族意識以上の深い理由などないのだから、ガウシバが答えにたどり着くことなどありえない。
(むしろどんなワケの分からない答えにたどり着いてくれるか、楽しみなくらいだ)
意地の悪さを自覚しつつ、リオンは言葉を続けた。
「3か月だ。まずは3か月のあいだ、魔王代理として戦に逸る魔王軍を御して見せろ。なお、人類に対する新たな侵攻は不可とする。俺はその間、記憶を取り戻すための療養に入る。完全に行方をくらませるから頼ろうとも思うな」
「……」
ガウシバがこちらに向ける神妙な顔つき。
そこには覚悟の想いがありありと出ていた。
(……やっぱ真面目だなこいつ。単なる思い付きだったけど、もしかしたら最良の選択をしたかもしれん)
リオンは不真面目にそんなことを考えていた。
彼の頭の中には打算しかない。
(本音を言えば魔王なんてメンドクサイ立場は今すぐ辞めたいが、考えてみたらいきなり魔王を退くなんて言ったって揉めるだけ。こういうのは徐々にやっていくに限る。一時的とはいえ魔王の座を譲っておけば、もし魔族の中で反乱を企てるやつがいてもその刃は俺じゃなくてガウシバに向かうから、俺にしてみりゃリスクも低い。んで、もし3か月たってこいつが平和的に魔族のかじ取りができていたのなら、そのまま魔王の座を譲っていい。もしダメそうならその時は……それこそ、ニャオにお試し魔王をさせてみたっていいよな。とにかく俺がいなくても平和を維持できる状況にしておかないと、辞めるに辞められん。まずはその第一歩だ)
密かに満足の笑みを浮かべるリオン。
そこにレイリが声を掛けてきた。
「私はいかがいたしましょう」
「ん、そうだな……」
考えるふりはしたものの、すでに答えは決まっていた。
リオンはこれから人間の街に行くつもりで、そうなると魔族が一緒では困る。
はっきりと邪魔だった。
「レイリはここに残りガウシバの補助につけ。同格の相手の下につくことに不満もあるだろうが、ガウシバのことを俺様と思って対応するように」
「御心のままに」
反発があるかと思いきや素直な反応だ。
リオンは続けて女性陣にも視線を向けた。
「ニャオ・ミャオ・ムラサキも同じだ。3か月の間、ガウシバを見事支えてみせよ」
「はーい」
「えー……?」
「ぐう……」
「よし! みんな納得してくれたな!」
三者三葉な反応をすべて無視してきっぱりと言い切ったリオンは、ササッとスポーツバッグを手に持つ。
これ以上この場に留まって、面倒ごとに巻き込まれるのは御免だった。
「では五天魔よ、あとのことはよろしく頼む!」
後ろを見もせずそう叫ぶと、ユナの手を引き早足で地上に戻り。
そして森に出るやいなや、木々の隙間を抜け大空へと飛んだ。
「……ふう」
風に乗って空を進むこと、数分。
誰もついて来ないことを確認したリオンの口から、安堵の吐息が漏れた。
さすがに敵に囲まれたあの状況は、彼としても気づまりだったのだ。
(とはいえ、結果は上々だよな。無傷で切り抜けた上に、魔族の状況もなんとなくわかってきた。魔王がいなくなった今、奴らは脅威ではない。……元の魔王の考えだけはよく分からんが、それもリーリアが起きたら聞けば良いだけだしな)
「ご主人さま、目的地はどうされます?」
「ん……」
小脇に抱えたユナから問われ、リオンは眼下に広げる光景に目を向けた。
「……とにかく休める場所を見つけておきたいな。どっかに街でもあればいいんだが……」
しかし見渡せる範囲には人工物すら見当たらない。
考えてみればそれも当然で、このあたりは魔王の根城が近いのだ。
人間が住むにはあまりにも危険で、もし街があったとしてもとっくの昔に破壊されつくしているはずだ。
「……陽が暮れてきたか」
あてもなく空を飛行するうちに、周囲はだいぶ薄暗くなっていた。
かなり遠くにまで視線を向けても、街の姿は影も形もない。
(見知らぬ土地で野宿するのと夜通し飛ぶの、どっちがマシだろうな。最寄りの街に到着するまでの時間だけでも分かれば判断しやすいんだが……せめてスマホがあればなあ)
文明の利器に想いを馳せていると、小脇に抱えられていたユナが下方を指さす。
「ご主人様、あそこに光が見えます」




