7.5 憧れは遠くにあるからこそいい
前回に続きちょっと箸休め回。
8話もこのあとすぐ投稿します。
土砂と瓦礫を片付け、最低限人並みの生活が出来るように整えた嘗ての会議室。
片隅には倉庫から引っ張り出した布で作ったベッド。希少な真水と石鹸を置いた洗面台と、筋トレ用のダンベルとバーベルが完備されている。
吸血鬼は睡眠を必要としない。
しかし、眠れない訳では無いので、時折人の心を忘れないよう横になる時はある。
そんなベッドに腰掛け、俺は悩ましげに自分の体を眺めていた。
「うーむ……」
俺の格好は、布地のシャツに最低限の革の防具。
それからぴっちりとした短パンとブーツという出で立ちをしている。
職業を[盗賊]でスタートした[体型2]のプレイヤーは全員これが初期装備だ。
何か――若干運営の品性を疑わざるを得ないデザインである。
なんなら男も鼠径部に穴の空いた、かなり際どいスキニーパンツなどを履かされるので、これは恐らく装備デザイン担当に相当エロい奴がいたのだろう。
とはいえ問題はそこではなく、今の俺の体についてだ。
若干上体を反らすと、はっきり主張する2つの丘陵。
触れれば柔らかく、それでいて程よい弾力を感じる。
大きさで言えば人並みかそれ以上。アルファベットで言えば、多分EかFくらいか。
最近まで筋トレ漬け、且つ師匠に扱かれていたので気にかける暇も無かったが、やはり男として無視出来るものではない。
おっぱいとは全男性、永遠の憧れだ。
俺とてそういったエロガキの側面がないわけではない。
画面越しではない本物を見て、触れることを何度夢見たことか。
すなわち「直接、生で見て触りたい」ということである。
丁度こんなに都合よく、自分の体に付いていることなど中々ないだろう。
まあ能書きは置いておいて。
俺は今、合法的におっぱいを鑑賞し、揉む権利を手にしているわけだ。
それを行使しない道理など、この世に存在するのだろうか?
「ふぅ……」
というわけで、胸当ての留め具を外して身軽になる。
シャツ越しでも充分にその柔らかさは堪能出来るが、今回は勿論生で行かせてもらう。
「……よし!」
裾に手を掛け、服を脱ごうと捲り上げた。
白くきめ細やかな肌に、細いくびれが露わになる。
改めて思うこのスタイルの良さはやはり[美形]ボーナスか。
続けて胸元辺りまでシャツを持ち上げ、いよいよ念願のそれとご対面する寸前――
『アルシア、ここにいたのか』
「とわぁーーーッ!?」
師匠が壁をすり抜けて現れた。
思わず俺は素っ頓狂な声を上げ、慌てて裾から手を放す。
「な、なななんだよ師匠! 急に出てくんじゃねえよ!」
『あ、すまん。もしや着替え中だったか?』
「これでも一応女だぞ! 部屋に入るときはノックくらいしろ!」
『わ、悪かった……』
自分のだというのを良いことに、おっぱい見ようとしてました。
なんて言える筈もなく、着替え中ということにして師匠を追い出す。
勿論俺の性自認は男だし、師匠に着替えを見られようと気にすることはない。
「あっぶねぇ……」
危うく弟子が変態であることが露見しかけて、背中に嫌な汗を掻いた。
いや、普通に着替えのフリをして脱げば良かったのかも知れない。
そうすれば自然と生乳を拝め、誤魔化す必要も無かった。
それはそれで、痴女みたいで嫌ではあるが。
気を取り直し、改めて服をたくし上げる。
胸元で引っかかるのを無理やりずらし、下から持ち上げるように柔らかな双丘へ触れた。
「……ん」
冷たい皮膚の感触がして、少しくすぐったい。
「……あれ?」
ただ、それ以上俺の感情が波立つことはなかった。
揉んでみても全然興奮とかしない。逆に何かある種の虚しさすら湧いてくる。
「なんか、大したことないな……」
いざ憧れに手が届いてみても、案外どうということもない結果が待っていた。
確かによく考えてみれば、興奮するのは「おっぱいを揉む」という行為自体にではないのだ。
あくまで「揉み」は過程の話で、「誰の」を「どういったシチュエーション」で揉むかでパイタッチの価値は変化する。
ならば、自分のを揉んだって意味がない。
「はぁ……」
幻想が1つ幕を下ろし、がっくりと肩を落とした。
俺の中のエロガキが、静かに大人への階段を上っていく。
その背中は何処か哀愁が漂い、彼を子供のままでいさせない微かな絶望が見て取れた。
憧れや夢というのは、あまりに近すぎると感動すら出来なくなるのかもしれない。
きっと、遠くで眺めているからこそ、抱く虚構に過ぎないのだ。
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