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20.まだやれること

 光が収まると、視界が戻って来る。

 最初に映ったのは石柱と、それに支えられた小さな丸屋根。

 近くには幾つかベンチがあり、その間には枯れた枝葉が残っていた。


「……ここは」


 周囲を見渡すと、大きな噴水が目に付く。

 どうやら、宮殿の庭園に飛ばされたらしい。

 これは[帰還(リコール)のスクロール]の効果だ。

 

 使用すると戦闘中なら戦闘エリアを離脱。

 非戦闘時なら、直前に訪れた安全地帯(セーフエリア)に飛ばされる。


 ゲームを始めると、お試しで1つ所有した状態からスタートする。

 あの窮地で、これ(スクロール)がなければ間違いなく死んでいただろう。

 一応事前に考えていた奥の手の1つだが、こんなに早く切ることになるとは思っても見なかった。


「……想定以上だったな」

 

 深く吐いた息と共に、呟きが漏れる。

 相手のことを甘く見積もっていたつもりは一切無い。

 ただ、俺の想定を越えて強かっただけだ。

 

「いっ……」


 立ち上がろうとすると、右足に激痛が走った。


「そういえば足が無かったんだった……」


 右足は焼け焦げ、脛の先から崩壊している。

 部位欠損を治すには、ゲームと同じなら専用のスキルかアイテムを必要とする。

 俺が習得出来るものだと、吸血鬼の種族固有スキル。

 対象の生命力を簒奪し、HPと欠損、全ての状態異常を回復する最上位スキルだ。


 ただし、これは対象のレベルが自分より低い場合にのみ使える。

 今の俺のレベルは、ティアルナを倒してやっと202になったところ。

 無名の神の225には到底届き得ない。

 

「駄目か……」

 

 俺はステータスを確認し、項垂れた。

 取り敢えず気休めに、HP自動回復を底上げするスキルを使用。

 それから、初期から持っているポーションを飲んでおく。

 

 残HPは5割だが、欠損すると最大HPが減る。

 全快しても8割までしか回復しない。 


『アル、ここにいたのか!』


「師匠、アイツはどうしてる?」


 合流した師匠にそう尋ねると、広間のある方角を見やる。


『お前がいなくなると、動きを止めた。已れには見向きもせん』


「……死人には興味ないのか?」


『悪いが、已れは戦えないぞ。稽古として剣を振るくらいは出来るが、実戦は無理だ』


「分かってるよ」


 少し頭を過った可能性を、先んじて潰される。

 だが、これは元々分かっていたことだ。

 師匠に頼るわけにはいかない。


「……つっても、どうしたもんか」


 一度アレと戦ってみて分かった。

 万全の状態でも勝率はかなり低い。

 手負いであれば尚更、ティアルナの予測した1%を下回る。


 一度ここから離れて、回復してから再戦するか。


「……それだと足は治らないんだから、意味がない」


 レベリングをしようにも、無名の神以外の敵は全て倒しつくした。

 200レベル帯に求められる経験値量は億単位。

 23レベルの差を埋めるのに、自己鍛錬は現実的じゃない。


「クソッ……ここまで来て手詰まりかよ……」

 

『アル』

 

 それに、俺がレベルを上げている間に無名の神も成長する。

 どのみち片足を失った状態で戦う以外に、選択肢は無い。


「何か、何か勝つ方法は……俺は勝たなきゃいけないのに……」

 

『アル! 已れを見ろ!』


 庭園に、師匠の声が響く。

 思考の沼に嵌っていた俺は、驚いて顔を上げる。

 赤い双眸がこちらを見つめていた。

 

『お前らしくもない、1人で悩んでいても始まらんぞ』


「悪い……ちょっと気が動転してた……」


『お前に重荷を負わせたのは已れたち帝国の民だ。已れは直接戦えんが、お前を助けられるのなら、なんだってする。もっと師を頼れ』


「ありがとう、師匠」


 その言葉で、内側に向いていた思考と心がまっすぐになる。

 師匠からの信頼は、重荷なんかではないし、嬉しい。

 

『手足が無いなら、無いなりの戦い方というものがきっとある。この際、使えるものはなんでも使え。錬灰流も、そうして出来上がったものだ』


「使えるもの……か」


 俺のスキルセットは殆どが背水系のバフ。

 後は短時間のバフと、ブリンクがメインだ。

 一応背水は"元々のHP割合"なので、今の状態だと2割減った状態に判定される。

 多少攻撃力は上がっているが、アレのHPは相当多い筈。

 

「バフ全盛りでも相当殴らないとダメそうだな……」


 機動力を削がれた今、張り付いて殴り続けるのは不可能。

 パリィやガード出来ない魔法攻撃が来れば終わりだ。

 一撃で決めきれる攻撃力に達していなければ意味がない。


 尋常な方法じゃ、今すぐ俺が神と同じスケールで戦うのは無理だ。

 そもそもからして、存在の格が違う。


 であれば、取れる戦法は1つ。


「どうにかしてアイツを俺と同じ土俵に引き摺り下ろす必要がある」


『弱体化を狙う、ということか?』


「ああ、だけど俺は術師じゃない。その手のスキルも無いから方法は限られる」


 一部スキルで、攻撃時に追加で弱体効果を付与出来る。

 今出来るのは数秒間のスキル封じと、防御力15%ダウン。

 それから、出血によるスリップダメージ付与と、移動速度低下だけ。


「正直自前の技だけじゃあ足りない」


『では、どうする』

 

 開きっぱなしだったインベントリに目を落とす。

 そこには、ベータ参加特典の装飾品、[ローポーション]、各種初期装備、それから――――


「さっき師匠が言っただろ。"今有るもの"を全部使うんだよ」


 アイテムの最後尾。

 回復ポーションと似ているが、色味の違うアイコン。

 紫がかった液体の詰まったそれを使う、良いことを思いついた。


 客観的に見れば、これは分の悪い賭けだ。

 俺が都合よくこの世界の仕様を解釈して閃いた作戦に過ぎない。


「なあ師匠、早速で悪いんだけど、やって欲しいことがあるんだ」


 だが、嵌まれば確実に神殺しが叶う。

 その確信が、俺の中にはあった。

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