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19.届かない

 骨がミシリ、と嫌な音を立てて体が浮遊感に拐われる。


 目まぐるしく変わる景色と共に衝撃が三度訪れた。

 どうやら何か、目に見えない攻撃を喰らったようだ。

 知覚する間も無く体が地面を跳ね、壁へと叩きつけられていたらしい。


「ゔっ……ぉえぇ……」


 崩れる石壁と共に、地面へ落下する。

 鉄の味がする液体がこみ上げて、思わず地面へと吐き出した。

 肋骨と胃が纏めてすり潰された気分だ。


『アルシア! 生きているか!?』


「クソッ……なんとかな……」


 慌ててHPを確認すると、今のだけで3割削れている。

 折角回復した分が、不可視の一撃で全部持っていかれた。


 ――――だがまだ戦える、体を動かせ。


「次はこっちの番だ!」


 俺は起き上がる動作のまま地面を蹴った。

 走りながら抜刀し、巨体目掛けて斬り掛かる。

 

「!」


 あと数メートル程の距離で、左側面から嫌な感じがした。

 何かが、自分に触れようとしている感覚だった。

 それを信じて、虚空に透徹を叩きつける。


「うお……!?」


 肉々しいものを斬った感触がした。

 すると、直後に何もない筈の場所へ触手が現れた。

 闇で象られたかのようなそれは、半ばまで断ち切られている。


「さっき殴られたのはコイツにか」


『アル、見えないだけで音や気配は感じられるぞ。視覚に頼らず動け』


「了解、散々練習したからな」


 俺は目が良いことを自認している。

 取り柄を潰されて面白くないが、致し方ない。

 それに、亜人種の感覚器は人間よりも数倍鋭敏だ。


「…………」


 耳を澄ませば、微かに音が聞こえる。

 触手の動きで空気の流れも変わっている。


「オラァ!」


 背後に回り込んでいた触手を両断。

 その後も次々に迫る神の手を断ち切り続ける。

 そうして、位置を変えつつ本体へと近付いていった。


「ォ――――」


 相手も触手が通じないと理解し、手を変えてくる。

 無数の仮面の口から、聞き馴染みの無い言葉が紡がれ始めた。


「詠唱か!」


 俺の予想は当たり、無数の手の1つに雷槍が。

 他の手にも黒炎、毒々しい水球が生まれた。


 LAOにおける魔法の発動は、口語、記述、思考の3パターンある。

 中でも口語は予兆があり、時間も掛かるのでその分威力にバフが掛かる。

 当たればどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。


「《影界穿行(シンク・パス)》」


 このスキルは[アビス・リーヴァー]の最強移動スキル。

 発動後、8秒間無敵効果付きのブリンクを無制限使用出来る。

 代わりに攻撃、防御、その他スキルやアイテムは使えない。


「当たるかよ」

 

 投擲された雷槍に合わせ、影の中へと姿を隠した。

 再出現場所に、黒炎が放たれるが、再び潜行。

 8秒の制約の中、これを繰り返す。

 そうして、敢えて姿を晒すことで、詠唱分の魔法を使い尽くさせた。

 

「もう弾切れか?」

 

 最後の一回で無名の神の背後に出現。

 緩慢な動作で振り向くのを待たず、胴体に一撃を見舞う。


「ォァ――――」


 神は苦悶の声を上げ、青黒い体液を噴き出した。

 仮面の眼窩からも、同じものが伝っている。

 

「神でも血が通ってるもんなんだな、青いけど」


 俺の言葉を理解しているかは分からない。

 しかし、神は怒りを露わにし、無数の触手と共に俺へと迫る。

 物量に物を言わせて暴れまわり、反撃の隙がない。


「ァァァァァ――――」 


「くっ……! 普通に暴れられる方が厄介ってどういう事だよ!」


 まるで子供の癇癪だ。

 リーチの長い腕の数々を、あらゆる方向から振り回してくる。

 その一本一本が、触れただけで人を挽肉にする威力を秘めていた。


「ォ――――」

 

「マジかよ!」


 しかも、再び魔法の詠唱が始まった。

 今度は広範囲攻撃。

 頭上に展開された魔法陣から、無数の極光が降り注ぐ。


 《影界穿行(シンク・パス)》のCT(クールタイム)は25分。

 強力な分、一回の戦闘で何度も使える代物ではない。


 仕方ないのでCTの上がっているスキルと、後は自力でなんとか躱す。

 3回、地点指定で移動する《虚瞬三間》で逃げつつ攻撃を回避。

 その後、《影走り》でAGIを1.2倍してステップ。


「お前絶対レイドボスだもんな! 畜生!」


 無名の神は恐らく大規模レイドのラスボスだ。

 本来なら、これも味方の補助系術師(サポートキャスター)によって防ぐ類の攻撃に違いない。


「……最初に《影界穿行(シンク・パス)》切ったのはまずったな」


『アル! 上だ!』


 師匠の呼びかけに上を見上げると、丁度移動先に極光が。

 慌てて体を捻り、なんとか着弾地点から逸れる。

 けれど、軸にしていた右足は間に合わなかった。


「うあっ……!」


 焼けるような痛みが走ったが、それも直ぐに消えた。

 足の感覚が失せ、体勢を崩して転ぶ。


「あ、足が……」


 咄嗟に右足を見ると、脛から先が無くなっていた。

 少し掠っただけで、焼き尽くされたのだ。

 四肢の欠損に一瞬呆けたが、前方からの殺意に我に返る。


『顔を上げろ! まだ追撃が来るぞ!』


 その言葉通り、神は死の手を伸ばしていた。

 

「クソがッ、舐めんじゃねぇ!」


 鞘を杖代わりに立ち上がり、俺を掴もうとする手を切り払う。

 

「《朱花月舞(あけのか・つきのまい)》」


 闘気が朱い花弁のように舞い、剣が光を帯びる。

 これは、次の攻撃を確定クリティカルにするバフ。

 

「《金剛弾(こんごうはじ)き》ッ!」


 次いで対象を問答無用でノックバックさせるバフを加え、攻撃範囲の増した《レイヴ・エッジ》を発動。

 四方から迫る腕ごと、本来を遠くへ押し戻した。


「はぁ……はぁ……」


 一旦距離は取れた。

 しかし、俺の体は既に戦える状態に無かった。

 足が欠損して勝てるほど、甘い相手ではない。

 それに短時間にスキルを使い過ぎたせいで、[疲労]のデバフが付いてしまった。

 

 これが付くと全スキルのCTが大幅に伸びる上、効果も激減する。

 解除には3分掛かるが、その間を凌ぐ方法は1つだけ。


「師匠、一旦退く……!」


 インベントリを開き、その中から[帰還(リコール)のスクロール]のを取り出した。

 間髪入れずにそれを開くと、スクロールが発動。

 俺の体を光に変え、その場から消失させた。

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