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17.黒き神の教団

 黒き神の教団。

 奴らは布教活動と称し、死と破滅をばら撒く世界の敵だ。

 光を齎す聖教と対を成す、闇のカルト教団である。


 組織は階級によって役職が分かれている。

 永久欠番である枢機卿5名を除けば、その代理が最も地位が高い。

 つまり、ティアルナは最高幹部。相手としては不足なし。


 ティアルナの杖が光り、予兆めいた魔法陣が足元に展開された。

 横へステップすると、黒い火柱が上がる。

 接近しようと前に踏み込むが、相手の次手が早い。

 宙に無数の結晶が生まれ、幾つも放たれる。


「ほらほら、最初の威勢の良さは何処行ったのかな!?」


「うるせぇ! 豆鉄砲ばっか撃ちやがって」


 俺は叫びながら回避を繰り返す。


 対遠距離職(レンジド)は、現実でも対策は同じ。

 俺の強みである機動力を活かし、相手の強み――射程を潰すこと。

 お互い耐久力は無いようなものなので、先に一発入れた方が勝つ。


影廻(シャドウ・サークル)


 俺は淀みなくスキルを発動。影と同化して前方にブリンクした。

 移動中は当たり判定が消えるので、同時に攻撃も避けられる。

 ブリンクスキルは強いが、再使用時間(クールタイム)が軒並み長い。

 使い所の見極めは大事だ。


 移動先を狙い、連続して放たれる結晶の矢を打ち払う。


「その程度かよッ!」


「まだ小手調べだって」


 俺の挑発に乗るように、ティアルナは杖の石突きを鳴らす。

 同時に、煌々と輝る巨大な黒炎球が生まれた。

 炎球は、緩慢な動きでこちらに落ちてくる。

 恐らく逃げ道を制限し、そこに本命を打ち込んで来る算段だろう。


「錬灰流」


 俺は敢えてその場に留まり、透徹を鞘に収める。

 それから居合の構えを取った。

 

「《霧影返刃(むえいへんじん)》」


 鞘の中で溜めた気を一気に解放。

 火の気よりも紅い闘気が、火球を一刀両断した。


「《灰奔断空(はそうだんくう)》」


「うわ!?」


 即座に加速スキルを使い、断面を潜り抜けて距離を詰める。

 右足が接地した直後に蹴り上げ、止まっている時間を最短に保つ。

 不意を突かれたティアルナは、対応に手間取っていた。


「オラァ!」


 一瞬罠かと思う程隙だらけのところに、袈裟斬りの一撃。

 しかし、振り下ろした刀は、ティアルナの遥か頭上で止まった。

 半円状の、黄金に輝く結界に阻まれて刃が火花を散らす。


「残念でしたぁ」


「チッ……」


 ティアルナは俺を嘲笑うと、衝撃波を生んだ。

 吹き飛ばされ、再び5メートル程の距離が空く。


『大丈夫か、アル』


「なんともねえよ。それより、今のあの結界ってミランダって人の術だよな?」


『ああ……体を乗っ取るだけでなく、力まで奪うとは……』


「元の体はこの子(ミランダ)に滅ぼされちゃってさぁ、致し方なくって感じなんだよねぇ。正直背丈も違うし、やり辛いったらありゃしないよ」


『貴様……』


 その言い分に、師匠の全身から殺気が漏れ出た。

 自分に向けられたものでないのに、底冷えするような恐ろしさを感じる。


「それに加えて、結界は術者でも解けない仕様だしさぁ……お陰で200年立ち往生だよ」


『当たり前だ。浅慮な貴様と違い、ミランダは自分の死後を予測出来ない術師じゃない』


「ま、それも今日までの話だけど」


『どういうことだ……?』


「おー怖い、じゃあ少し僕とお話しようか?」


 ティアルナはそう言うと、結晶弾を足元に撃ち出す。

 散弾銃のように放たれたそれは、牽制が目的なのは見て分かった。

 

「まず、キミたちは僕らの目的を大いに勘違いしている」


『なんだと? 神降ろしが目的ではないのか』


「違う違う、それはあくまで手段の話さ。確かに其の降臨は魅力的だけど、僕らの目的はもっとシンプルだよ」


「シンプルだぁ?」


 嫌な笑みを浮かべるティアルナに、俺は目を顰める。


「秩序の崩壊さ。この世を混沌の時代に戻すんだ、そのために全ての文明を破壊する」


「そんなことして何になるんだよ」


「嘗ての混沌を忘れた人類は進歩の過程で秩序を掲げ、弱者救済を謳ってしまった。その結果、今の世は脆弱で欲深い人間共が、生きる権利を自分で勝ち取ることすら出来ない家畜共が蔓延っている。そんなのは間違っているのさ」


「長々と説教垂れてくれたところ申し訳ないけど、何一つ共感出来ねえな」


「適者生存、それがこの世の摂理だ。強者――キミのような者にとっても、都合が良いと思うんだけどね?」


「成程、だから人類は繁栄したのか」


 俺が皮肉を籠めてそう言うと、ティアルナの表情が歪んだ。

 この女の言うことが正しいのなら、繁栄した人類こそが適者。

 逆に、落伍者は彼女たちということになる。

 

「キミらが認めないだけで、いつだって正しいのは僕たちだ」


「正しいとか間違ってるとか、そういう御託は必要無いだろ。どっちにしろ、俺もお前も社会から見りゃとんだ不適合者なんだからな!」


 俺はその一言で会話を無理やり終わらせ、ティアルナに斬りかかる。

 横薙ぎの斬撃が結界と競り合い、硬い金属音が響いた。

 続けて返す刀で斬り上げ、逆袈裟を見舞う。


「あっはっは! 無駄無駄!」


 嘲笑する姿は余裕そのもの。

 しかし、結界は攻撃の度に少しずつ縮小していた。


「そうでもないみたいだけど?」


「……」

 

 1メートル程あったのが、既にその半分になっている。

 その上、彼女は結界を張っている間、一切攻撃行動を取っていない。

 否、恐らくは取れないと見た。


「このまま削りきってバラ肉にしてやるよ!」


「口が悪いね、キミ!」


 連撃に連撃を重ね、ガリガリと結界を削っていく。

 すると、ティアルナは顔を顰めて後方へ飛び退いた。

 それを追って、《シャード・ラッシュ》で距離を詰める。


「ッ!」


『アル、罠だ!』


 ティアルナは、俺の動きを見越していた。

 結界を解き、真正面に結晶の塊を生成している。

 だが、飛び込んだ体は今更軌道を変えられない。


「《闇晶散華(ダーク・スキャッター)》」


 結晶塊は破裂し、周囲に無数の薄片が撒き散らされる。

 それはまるで万華鏡のように、微かな光を反射して煌めいた。

 

 認識のコンマ数秒後、結晶片が着弾。

 針の壁にぶつかったような衝撃が訪れる。

 服を裂いて肉を貫き、ビリビリとした痛みが全身を駆け巡った。


 しかし――――


「やっぱ豆鉄砲じゃねえか」


「はぁ!?」


 言ってしまえばそれだけだ。

 俺の足を止める程の痛みではない。

 少し仰いた上体を、力強く踏み込んで戻す。

 そのまま、勢いを殺さずに予定通りティアルナへ斬りかかる。


「嘘でしょ――」


 ティアルナは、あり得ないと言った表情を浮かべたまま。

 結界の展開は間に合っていない。

 透徹の刃が、青ざめた肌に届いた。


「ゔぁっ!?」


 鎖骨から胸元を切り裂かれ、悲鳴が上がる。

 傷口から血を吹き出して後退る姿に、確かな手応えを感じた。

 地面に滴り落ちる赤黒い液体は、気化すると瘴気に変わっている。


「く……」


 膝を着き、痛みに呻くティアルナ。

 俺は、それにとどめを刺そうと歩み寄った。

 

「やってくれるじゃあないか……まさか、"暗黒のオド"が効かないなんてね……いや、瘴気の中で動けてることを考えれば、当たり前か……」


「思わせぶりなこと言ってる所悪いが、黙って死んでくれるか?」


「……キミは何者だ? 聖教の神使って感じには見えないけど……僕らのお仲間でもなさそうだ……」


「ただの一般冒険者だよ」


 透徹を振り上げ、頭に狙いを定める。

 ティアルナはそれを見て、俯きながら笑った。


「……ンフフ、僕を殺したらきっとすごーく後悔するよ……? それでも良いの?」


 その言葉の不気味さに一瞬動きが止まる。

 これだけでは止めるのに不十分だった。


「……後ろのアレ、どうして活動を停止しているか分かる?」

 

 けれど、次の問いかけに、柄を握る力が抜ける。

 ただ殺せばいい。

 そう思っていたところに、嫌なを感覚を植え付けられた。


「どういうことだ」


『アル、その女の言葉に耳を傾けるな!』


 背後から師匠の声が聞こえるが、俺は振り上げた腕を降ろした。


「……アレは200年、ずっと暗黒の揺り籠の中だ。……何故って? 力を蓄え続けているのさ、この忌々しい女の張った結界を破れるようになるまでね」

 

『不可能だ。ミランダが張ったのは完全結界、どのような力であろうとも破れる理由が……』


「確かに今のままでは不可能だ。けれど、神の奇跡は人の身の権能を越えるんだよ! いずれ、必ず結界は破られる!」


 それが、目の前の邪悪を殺さない理由にどう繋がるのか。

 口に出さずとも、顔に出ていたらしい。

 ティアルナは笑みを浮かべて、自身から漏れ出る瘴気を見やる。


「僕らがアレをどうやって呼び出したか、忘れたわけじゃあ無いでしょ?」


「まさか――」


 その言葉で、俺の中で予想が最悪の形に輪郭を持ち始めた。

 途轍もない、最悪の展開だ。

 

「お前を殺せば、その魂は"なりそこない"に吸収される……」

 

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