15.帝都ウェストルク
星暦2049年。
俺がこの世界に来てからおよそ10年。
正確に言えば9年と8ヶ月と23日が経った。
吸血鬼の寿命は永遠。成長が終わると外見もほぼ変わらない。
流石に髪は伸びたが、逆に言うとその程度だ。
中身も相変わらずだし、ここは環境的な変化にも乏しい。
よって10年前と変わらず、元気に戦闘狂をやっている。
そういう面で言うと、ステータスは相当上がった。
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【名前】アルシア・フレアウォーカー
【ジョブ】ブラッド・ダンサー
【種族】吸血鬼(貴き血族)
【レベル】198
【HP】716 / 716 【SP】200 / 200
【STR】75 【AGI】74 【VIT】35 【DEX】19
【INT】1 【MAG】1 【MIR】5 【LUK】6
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こうして数値にすると2桁で低そうに見える。
しかし、【STR】70は素手で鉄インゴットを球体に圧縮出来るほど高い。
ちなみに【INT】1は『魔導書を読んでも内容を一切理解出来ないほどのバカ』――というのは半分嘘だ。
公式のジョークテキストは実在するけど。
LAOのINTは、"魔法的知識"として扱われている。
没データにもINTのすぐ横にMIのステータス項目が残っているらしい。
つまり、一切魔法系統に触れていない俺は1のままというわけだ。
言い直すと『魔法の知識がなさすぎて、本の内容が理解出来ない』が正しい。
「んー? んー……なあ師匠、俺やっぱバカなのかな?」
『急にどうした。確か貴様は時折頭がおかしいが、バカではなかろう』
「disってんのかフォローしてんのかどっちかにしてくんない?」
誰の家とも知れぬ廃墟。その屋根の下。
羊皮紙に描かれた地図とにらめっこしていた俺は、首を傾げた。
「じゃなくてさ、ほらこれ。帝都の地図。凄い広く見えるんだけど、縮尺合ってる? 俺が見方間違ってんの?」
『地図の見方は前に教えた通りだ。貴様の認識で間違いない』
プレイヤーが初期から持っている羊皮紙は、メモ帳として書き込みが可能。
そこで、師匠が次に目指す州の中央、つまり帝都の地図を書いてくれたのだが――
「じゃあ本州の10分の1が帝都ってことかよ……関東圏丸々全部首都って言ってるようなもんだぞ、それ……」
どうやら、帝都の端から端までで、名古屋から東京間くらいの距離がある。
帝都内に新幹線があったとしても、走破に最低1時間は掛かる計算だ。
10年掛けて歩いた感じ、本州は大体オーストラリアの半分程度の広さを持つ。
その1割が丸々都市と考えると中々にスケールが大きい。
『まあ、帝都と言っても大きく区分けされている。帝都内で大規模農地と都市部に分かれている程だからな』
「それは都市と言っていいのか……? もう1つの国じゃん……マトリョーシカだよ……」
流石、"繁栄絶頂期"の帝国を知る男だ。
仕組まれたとは言え、これに戦争を仕掛けたルグリア王国は勇気がある。
「……てことは、一旦農地から入るのが吉か。 広いと討ち漏らしありそうで嫌だし」
『ならば西側からだな。あちらは比較的外壁も低い、手間もないだろう』
師匠の言葉で向かう方角も決まり、俺は地図をしまった。
帝都は大きな外壁に囲まれている。
今いる北部から南下して、それから壁に沿って西に歩けば良い。
「よし、じゃあ出発だ」
廃墟から出て、大きく伸びをした。
魔物を殆ど減らしたお陰か、瘴気はかなり薄まっている。
見通しも良くなり、初期のおどろおどろしさは消えかかっていた。
あと、為すべきことは帝都の掃除。
それから――元凶の排除だ。
闇の眷属を倒せば、俺は晴れて自由となる。
ここに至るまで10年近く掛かったが、改めて考えてみれば早い方だろう。
力不足だったり、魔物がもっと多ければ50年――いや、70年くらいは掛かってもおかしくはなかった。
「10年寝かせた大ボスを喰いに行きますか」
なんにせよ、これが最後の戦いだ。
◇
オスカント帝国、帝都ウェストルク。
最初の帝、竜帝レフタロッドにより建都。
およそ1500年もの間繁栄し、そして戦争によって滅んだ。
現在の帝都はミッドランドより更に北上した、ブルシュハイムに定められている。
現皇帝の名前は――忘れた。戦時中に逃げ延びた皇帝の子孫が統治を続けている筈だ。
つまり、ウェストルクは旧都という扱いになる。
滅んでいるので、廃都と言うべきか。
少なくとも、俺の侵入した西部大農耕地帯は、その名に相応しい廃れ具合だった。
というか何も無かった。畑も、家も。
『ここは昔、一面麦畑だった。収穫期になると、黄金の稲穂が風に揺れて、それはもう美しい景色でな』
師匠は、重たい声音で過去の景色を語る。
俺はどう返して良いか分からず、黙って歩いた。
そうして、徘徊する人だった者たちを眠らせながら、数日掛けて都市部に向けて歩いた。
◇
都市部に辿り着いたのは、3日目の朝だった。
「閉まってんな」
高く聳える城壁の最中。
辛うじて残っていた大門と、その大扉は固く閉ざされていた。
押せば開くだろうか。そう考え、俺は門に手を掛ける。
「うっぐ……重てぇ……!」
『当たり前だ、専用の開閉機構がその辺りにある、まだ使えるかは知ら――』
厚さ何センチかも分からない鉄扉は、全力で力を籠めて漸く動き出した。
それでも微かに開くだけが精一杯。
辛うじて、人一人が通れるだけの隙間を作り出す。
『……この扉は人力で開くようには作られていないのだが?』
「中が腐ってスカスカなんだろ、多分。知らんけど」
師匠に変な目で見られ、俺は適当に言い訳をして扉をくぐる。
内部の瘴気は外より濃い。
しかし、思ったほどではなかった。
「これなら、ルーメン・フォートの方がよっぽどだな……」
外観も、ほぼ綺麗なまま残っている。
寧ろ戦争の痕跡を探すほうが大変だった。
『已れはこの光景が、逆に恐ろしい』
「抵抗する暇もなく、やられたってことか」
帝都陥落は、争うことなく起きた。
師匠とその認識を共有して、俺は鼻を鳴らす。
「兵士どころか、一般人の姿が無いのはおかしいな」
路傍に転がる、煤の張ったランタン。
そのガラスを指でなぞり、付いた埃に眉根を寄せた。
ランタンの横には、古い布が落ちている。
「……まるで人が全員、突然蒸発しちまったみたいだ」
『むぅ……』
俺の呟きに、師匠が唸る。
「黒教は、本当に闇の眷属を召喚したんだよな?」
『間違いない、皇帝の居城で奴らは召喚の義を完遂した。已れがこの目で直接目にしている』
「その時の帝都の様子っつーか……師匠が何をしてたかも詳しく教えてくれないかな? アレと戦うなら、少しでも情報欲しいし」
『……よかろう』
そう言って、師匠は当時の帝都の様子を語り始めた。




