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12.捨て身の奇策

「おっしゃー!」


 俺は口から血を吐き捨て、口角を拭う。


「第二ラウンドと行こうぜ!」

 

 体は血みどろ。視界の端に映るHPバーは、五割削れていた。

 だが、このダメージは反撃の大きなチャンスに変わる。


「ラァッ!」

 

 大胆な踏み込みと同時に、オボロへ渾身の一撃を放つ。

 自分でも体感出来る程、先程と動きのキレが違う。


 相手は対応に梃子摺ったのか、ガードが甘い。

 刀ごと腕が持ち上がり、後ろへと後退った。


 反撃に正眼――直上から降ってくる連撃を紙一重で躱す。

 その後、得物を持つ方の腕を狙って、逆袈裟に刃を振り抜く。


「ッ!」


 オボロはそれに反応して体を横へと逸したが、僅かに遅かった。

 二の腕を服ごと切り裂き、傷口から瘴気が噴出する。


「う、動きが、変わっタ……?」


 俺が今発動した《怒髪天衝》は、LAOで最も効果の高いバフ系統。

 "背水"と呼ばれ、自身の減少HPと連動して発動したり効果が高まる。

 ハイリスクだが、上手く噛み合えばボスエネミーの瞬殺も夢じゃない。


 オボロは、一段階速度を上げた俺に戸惑っていた。

 その隙を逃さず肉薄。胴体を横薙ぎ、次いで袈裟懸け一閃。

 

「チッ……浅いか」


 今のは、先程の反撃――雲雷を警戒し、浅い踏み込みからの攻撃だった。

 それでは、皮膚を微かに裂く程度にしかダメージを与えられない。


(どうにかして重いの一発入れたいけど、そうすると雲雷(アレ)が避けられなくなるんだよな……)


 深く踏み込めば、自ずと攻撃の後隙を晒す。

 バフでステータスが上がっているとは言え、カウンターは避けられない。

 そして一度喰らった体感的に、次にアレをまともに受けたら死ぬ。


「は、速くなった、と思ったガ、見掛け倒しカ?」


「ほんの小手調べだよッ!」

 

 また、一度見た所感として、雲雷は使われたら回避不可。

 先出し最強の、神速の一撃だ。

 こちらが受けに回ればそれだけで不利になる。

 であれば――今は相手に攻撃させないことを優先する。


「どうした!? そんなもんかよぉ!」


 俺はとにかく、連撃を重ねた。

 先手を取り、相手の対応を防御一択に絞るのだ。

 最初に攻撃を当てた感じ、何故だかオボロは受けに関しては鈍い。

 反撃の間さえ与えなければ、こっちのペースは維持出来る。


「……」


 剣戟は続き、金属音と火花が散る。

 そんな死闘の最中にも関わらず、オボロは不気味なほど静かだった。

 それがまた、俺の思考に違和感となって襲う。

 

「な……とっ――おわぁ!?」


 その直後。


 俺は下段から、足を狙った切り上げを放った。

 しかし力んだせいか、汗で手が滑ってすっぽ抜けてしまう。


「叢雲流」

 

 同時に、オボロが凄まじい速度で霞構えに移行。

 鳩尾に向けて突きを合わせて来た。


「――――迅雷」


「くっ……!」

 

 すっぽ抜けが功を奏し、奇跡的に軌道の変わった剣が迅雷(それ)を弾く。


「あっぶねぇ……」


「偶然……カ……?」


「偶然に決まってんだろ! あんなん誰が見てから動けんだよ!」


 今の偶然がなければ、体に風穴が空いていた所だった。

 よく見ると、気付かない内に間合いを詰めていた。

 それも、後手でオボロが動いた時に、攻撃を避けられない位置まで。

 

「クソッ、まんまと乗せられたぜ……」


「い、意外と早く気付いたようだナ」


 オボロは、有効打を逸る俺の気持ちを察していたのだ。

 だから敢えてギリギリで攻撃に当たり、こちらの欲を引き出した。

 結果、俺は乗せられて、相手の間合いに踏み入ってしまった。


「……体は腐っても頭は腐ってないってか」


 一見、瘴気で狂っているように見えて、恐ろしい程に冷静だ。

 

『アル、落ち着け。オボロは後の先を得意とする。対応は今の動きで概ね問題ないが、間合いにだけは注意しろ』


「わかってるよ、今ので大分頭も背筋も冷えたからな。お陰で攻略法がちょっと見えてきた」

 

 俺は再び、間合いの際から連撃を浴びせる。

 上段、下段、水平から返す刃で攻撃を繋げていった。


「《フェイタル・レイス》!」


 その剣戟の途中、不意打ちに移動(ブリンク)スキルを挟んで翻弄する。

 体が黒霧と共に消え、オボロの背後へと回り込む。


「……面白い、技ダ」

 

「流石にこの程度なら反応してくるかッ!」


 しかし、オボロも即座に反転して攻撃を受け止めた。

 

「《ブリッツ・ラッシュ》」

 

 地面を蹴り、爆発的な推進力を得て突進。

 その最中に一合剣を交え、再び元の位置に戻る。


(突進技にはカウンターを合わせて来なかった……)


 オボロは背面攻撃と、突進攻撃には雲雷も迅雷も返して来ない。

 となると、恐らくさっきのような縦軸の攻撃を待っている。

 

(雲雷は先手の技。迅雷は間合い内、上下段、右側からの縦軸攻撃がカウンターの条件か?)


 技を使う状況の癖は大凡掴めてきた。

 ここさえ外しておけば、オボロは受けに徹し続ける。


「……5手、あと5手だ」


 俺はオボロに聞こえない声でそう呟いた。

 それから、錬灰流の最も基本的な平正眼の構えを取る。

 相手の体勢を見て、出来るだけ反応の遅くなる方向へ刃を振った。

 まずは俺から見て右の小手打ち。踏み込みは最低限。

 

「……懐かしい太刀筋だナ」


 左に構えたオボロは、素気なく攻撃を受け止める。

 そして、意味深な言葉を零した。

 

 2手目の前に、摺り足でやや前に詰める。

 そのまま、逆側から肩口を叩いた。

 これも難なく受け止められる。

 次は弾かれた剣を持ち上げ、頭部へ振り下ろす。

 

「だが拙イ」


 また弾かれる。

 青白い火花が消えるより先に、水平に剣を薙ぐ。

 剣の峰で軌道を逸らされ、4手目もいなされた。


 5手目は右足を大きく踏み込み、大上段からの袈裟斬り。

 俺が半身を前に出したと同時。

 ようやくオボロは反応を示して構えを変えた。


「うおおぉぉ!」


「……悪手ダ。叢雲流――――」

 

 俺の剣が振り下ろされるより前に、鋭い刺突が放たれる。

 この間合いでは回避は間に合わない。


 だが――それで良い。


『アルッ!』


 背後で、師匠の焦った声が聞こえる。

 視界の端っこで、肉薄する切っ先が見える。


「フハッ!」

 

 それを一瞥し、俺は笑った。


 相対する剣豪は、不可解そうな顔をしていた。

 肉が削げて表情も分からないので、そう見えただけかも知れない。

 

 直後、予想していた痛みが訪れる。

 熱した石を押し当てたような熱さが、傷口を襲う。


「な、何……?」

 

『外……れたのか?』


 しかし、それは致命傷では無かった。

 急所を狙った筈の一撃は、脇腹へ逸れて体を穿っていた。

 HPバーは、残り2割で踏みとどまっている。


「……ばーか、外させたんだよ」


 口の端から血を流しながら、心底愉快そうに答える。

 攻撃が当たる直前、俺は左の軸足を半歩後ろへ下げた。

 そうして上体を(あおの)け、心臓を狙った攻撃を下にずらしたのだ。


「ぐっ……」


 オボロは急いで刀を引き抜こうとする。

 それを阻むため、腹筋という腹筋に籠める。


「無駄だぜ、今の俺の筋力(STR)は巨人族より高ぇからな」


 柄がカチャカチャと愉快な音を奏でるが、刀は筋肉に締め上げられて動かない。

 これで得物を手放さない限り、オボロは行動不能に陥った。


「最初から、体で受けるつもりデ……待っていたというのカ!?」

 

「その通り、あんたのカウンターは絶対避けられねぇ。けど、当たる場所を逸らすくらいは出来るからな」

 

『まさか、オボロの正確無比な攻撃を逆手に取ったのか……』


「肉も骨もくれてやる。だが、代わりにあんたの命を貰うぞ」


 オボロの技量は本物だ。

 心臓を狙うのなら、寸分違わずそこに攻撃が飛んで来る。

 なればこそ、そこから位置をずらすのに大した苦労はいらない。


「俺の勝ちだ、オボロ」

面白い、続きが読みたいと思ったら下の星を沢山付けて頂けると作者のモチベーションが上がりますので何卒よろしくお願いします

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