表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/19

11.ルーメン・フォートの守護者

『貴様、ここにいたのだな……』


「名前知ってたし、アイツと知り合いなのか?」


 俺の問いに、師匠は無言で肯定を伝える。


『奴の名はオボロ・ムラクモ。東方随一の剣豪で、已れの戦友だ』


「ムラクモ、むらくも……叢雲…………あ!? えっ!? 叢雲!?」


 叢雲(ムラクモ)とは、東方の島国、陽玄で最も権威を持つ武家の名。

 作中では刀術ギルド――鍛落刃(たんらば)の管理者であり、侍の家系ということでプレイヤーからの人気も高い。

 それが何故、こんな北西の国にいるのか。

 

『昔話は後だ』

 

 そんな俺の疑問に答える前に、オボロの体が動いた。

 瘴気に冒されたせいか、不自然な挙動でゆっくりと立ち上がる。


「……ま、まだ、敵兵が残っておったカ」


 そして、ぎこちない発話だが、言葉を発した。

 今までの敵は、知能すら失っているように見えたのに。

 この違いが、目の前の侍の底知れなさを端的に現しているように感じた。

 だが、間違いなく狂っている。

 彼には俺のことが、攻め込んで来た敵兵に見えているのだ。


「……るーめん・ふぉーとは、お、落とさせぬ」


 骨と皮ばかりの手が、白鞘の柄を握る。

 徐ろに引き抜かれた刀身が妖しく光ると、目を背けたくなるような殺意が場に満ち溢れた。

 

 怖気(おぞけ)――

 今まで感じなかったそれが背筋を這い、一瞬思考が止まる。


『アル! 来るぞ!』


 だが、師匠の言葉で我に返る。

 一瞬でもビビった自分に苛立ち、奥歯を噛んで剣を抜いた。

 相手が誰であろうと、俺のやることは変わらない。


「上等だ!」


 オボロは下段の脇で構えたまま、こちらへ飛び込んで来た。

 あの構えなら次は大雑把に逆袈裟か、突き、カウンターの三択。

 であれば、後手でも上段からの突きが有効。


「ラァッ!」


 肩口を狙った突きは、構え直したオボロの刀に弾かれた。


 刹那、金属音が都市の空洞に響く。

 オボロは、弾いた刀を滑らせるように返し、そのまま俺の喉へ横一線の斬りを送り込んできた。

 速いが、読めないほどではない。


「っと!」


 俺は半歩下がりつつ、切っ先を斜め上へ跳ね上げて受け流す。

 速度は大したことない。ただ、一撃の重さが異様だ。


 次いで、オボロの下半身が沈む。

 間髪入れず、下段からの逆薙ぎ。


「おわっ……!」


 俺は跳び上がり、ロールして避ける。

 ほんの一瞬前まで俺の膝があった位置を、刃が容赦なく薙ぎ払った。

 地面の石畳が斜めに抉れる。


(体の動きのキレは死人にしては良すぎるし、剣筋の癖も妙に少ない)


 避けて立ち上がるより速く、オボロは距離を潰してきた。

 まるで地を滑るような歩法――刀術特有のステップだ。


「はやっ……!」


『アル、下がれ! 一度呼吸を整えろ!』


 だが、下がる隙も与えてくれない。

 上段、水平、逆袈裟と三連で畳み掛けてくる。

 どれも速さより"正確さと重さ"を重視した斬りで、俺の防御を正面から削ぐように押してくる。


 仕方なく俺も連続ガードに移行し、軌道に合わせて剣を合わせ続けた。


 暗澹たる都市を火花が照らす。

 衝撃は鋭く、受ける度に骨に響いて痺れが走った。

 刃に感情は一切乗っていない。

 しかし、だからこそ研ぎ澄まされた殺意が、痛い程伝わってくる。


「腐り掛けの体でこれかよ!?」

 

 なら、生前はどれだけ強かったんだ。

 そんな言葉を飲み込み、反撃の糸口を探る。

 このまま、ただ受けてるだけじゃ負けてしまう。

 俺は一呼吸の隙を突き、左へ滑り込み、オボロの懐へ潜り込んだ。


「らああっ!」


 剣を逆手に持ち替え、最短距離で胴へ斬り込む

 オボロは身体をわずかに傾けたが、刃先がその胸元を浅く裂いた。

 同時に俺の腕に自身の肘をぶつけ、構えをずらす。


「っ……!」


 即座に振り返しの斬撃が来る。

 俺はかろうじて剣で受け止めるが、肩が軋んだ。



(当たった……? なんでだ?)


 オボロの攻撃は重い。どれも正確に急所を狙った一撃だ。

 けれど、恐らく速さで言えば俺の方に分があった。

 最速で振れば攻撃は辛うじて当たる。

 カウンターで地道に削れば或いは――


 そう考えた直後。

 オボロの足運びが、一瞬だけ止まった。

 息を吸うような仕草に、大技の予兆を感じ取る。


(来る……!)


 刀がぐん、と頭上に掲げられた。

 その構えは、どこか覚えがあった。


『拙い! その技は――』


 グリムの警告と重なるように、オボロが低く呟いた。


「叢雲流――」


 高密度の闘気が刀身を覆い尽くし、空気が裂けるような音が都市に響く。


「雲雷」

 

「……ッ!?」


 直後、肩口に激しい熱が灯った。

 その熱さは徐々に明瞭な――鋭い痛みに変わる。

 視線を落とすと、スローモーションで赤みを帯びた液体が飛び散っていた。

 

 斬られた――――

 

 防御すら許さない稲妻のような一撃。

 そう理解するまで、コンマ数秒。

 走馬灯のように引き伸ばされた時間の中、痛みを自覚して血の気が引く。

 

「ぐっ……」

 

 だが、混乱する頭とは裏腹に、体は的確な行動を取った。

 移動スキル《瞬歩》を即座に発動し、後ろへと飛び退く。

 距離を取り、追撃がないことを確認すると、詰まっていた息が喉から溢れる。


「……成程、よく切れる刀だな」


 滴り落ちる血。

 漏れる声は、震えていた。

 けれど、それは恐怖からではない。

 自分の呼気が、次第にクツクツとした笑いに変わる。

 

『アル……?』


「な、なに、が可笑しい?」


 訝しむオボロ。


「こういうMMOでも対人やる奴って、大抵勝負事が好きなんだよ」


「……?」


 対人勢は楽しさより、強さに重きを置いている。

 対戦で勝てる――それがイコールで楽しいに繋がるからだ。

 自分の実力で相手を降した時の快感は忘れられない。


 それも――


「自分より強い奴ぶっ殺した時ほど、気持ちいい瞬間はないからな」


「笑止」


 漸く、この世界に来て初めて競い合える敵と出会えた。

 そのことが嬉しい。剣を交えるのが楽しい。

 やはり、戦いとはこうでなくては。


「それが辞世の句か? もう少し長くても良いんだぞ」


「い、否。詠むことになるのは、ぬ、(ぬし)でござる」

 

 オボロが正眼に構えを取る。

 だが、俺は構え直す前にスキルの発動を優先した。


「《|怒髪天衝》」


 その言葉と共に、俺の全身から赤いオーラが立ち昇る。

 

 現実となったこの世界で求められるのは、本物の技術。

 しかし、それと同等に必要とされ崇められるのは――全てを蹂躙する圧倒的な性能を誇った能力強化(バフ)スキルだ。


「見せてやるよ、pvpランキング4年間1位独走の立役者(スキル)を」

===================

《怒髪天衝》


スキル発動時、自身に【憤怒(ラース)】を付与する


憤怒(ラース)

・15秒間与ダメージを25%上昇させる。【背水の激昂】スタック1つ毎に効果時間が1秒伸びる

・スキル発動時または発動中に現在HPが減少した場合、自身に【背水の激昂】スタックを1つ付与する

・現在HPが50%以下の場合にのみ、【背水の激昂】スタックを毎秒1つ付与する

・【背水の激昂】スタックが最大時、戦闘状態にある場合は【憤怒(ラース)】の効果時間が減少しない

・【背水の激昂】スタックが最大時、戦闘状態にある場合は【憤怒(ラース)】の効果が倍になる

・【ブラッド・サースト】発動時、減少HPに応じて効果量が上昇する(最大2400%)

 

【背水の激昂】

・1スタック毎にSTR/AGI/DEX/MAGを2%上昇させる(最大15スタック)


【ブラッド・サースト】 

・最大スタック時、スタックを全て消費することで、次の物理攻撃の威力を250%上昇させる

===================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ