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竜の待つ都  作者: 紫月 京
第四章 囚われた妄執と崩壊

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第六十一話


膝から崩れ落ちた駿河に、楓が駆け寄るのが見えた。

いつの間にか参戦していた玄カガチも、接近して苦無で戦っている。

黒い兵団は、ほとんど残っていなかった。

陽向は倒れた響に目をやる。

滝壺から走ってきた五十鈴が、響の側に膝をつく。

「響、響っ!」

五十鈴の必死の呼びかけに、うっすらと目を開ける響。

「…あぁ、鈴ちゃん…よう、やく…会えたね……」

ゴボッと血を吐き、咳き込む響。

「陽向!癒しの術をっ!」

お願い、と響の手を両手で包みながら、五十鈴は涙を堪える。

体の上にかざされた陽向の手を、響が震える手で払い除けた。

「っ!」

「…いら、ないよ…君から、いやし、て…もらうなんて…い、や、だ…」

「響っ!」

払い除けられた手を呆然と見つめる陽向。

「…やっぱ、り…君、なんて、大嫌い、だよ…何度、も、僕のお腹…けっ、て…父、様と、おんなじ、だ…」

荒くなる呼吸で、それでも響は続ける。

「それ、なの…に、あぁ…なんで、すず、ちゃん…は…君が、す、き…なのか、なぁ……」

光が失われつつある黒い瞳が、五十鈴を捉える。

「…あぁ、すず、ちゃん…もっと、僕、を呼んで…僕、がん、ばっ、たんだぁ…君、の腕、で死ねる、なら……」

幼い頃にいつも見ていた、無邪気な笑みを口元に浮かべて、響がその目を閉じた。

五十鈴の握っていた手から、力が抜ける。パタリ、とその手が地面に落ちた。

「…っ!響ぃっ!!」

石の取り除かれた胸元に顔を突っ伏し、五十鈴は堪えていた涙を流した。

陽向の目の前で攫われた。

思考を縛る首飾りをつけられ、意識を奪われた。

こちらの意思など確認せずに、体を繋げようとしていた。

一つ一つが、許せない事だった。

なのに、響の死がこんなにも、哀しい。

どうして、救ってあげられなかったのか。

自分を責め続ける五十鈴の手を、戦いで傷だらけになった陽向の手がそっと包んだ。

「五十鈴、自分を責めるな。責められるべきは、俺だ」

陽向の言葉にも、顔を上げられない。

もっと、響の話を聞いてやればよかった。もっともっと、北家と関わりを持てばよかった。

あんなに心を壊される前に、助けられたかもしれないのに……。



黒い兵士たちをすべて倒し、玄カガチが縛り上げている間に、楓は駿河の負傷を確かめる。

「…っ、こんな、酷い…」

回復の秘薬の効力が追いつかない。

特に重傷なのは二の腕あたりから切断された右腕と、潰されて血が固まってしまっている左目だ。

切り落とされた時に適切に処置せず、とりあえずの止血だけで済ませた腕の切断面が、膿んできている。

楓は震える指を、駿河の目元に伸ばした。

「…悪ぃな、こんな、醜い傷なんて見せて…」

ぜぇぜぇと荒い息を漏らしながら、駿河がいつものような軽口を叩く。

声に普段の余裕がない。

一刻も早く、都へ連れ帰り治療しなければ。

「私が担いでいく!都へ帰る!」

楓の言葉に、駿河が笑いを漏らす。

「…お、前…その小さい、体で、俺を担ぐ、のか…?」

「そうよっ!もう喋らないで、血が流れる!」

止血の為の布ももうない。

兵士たちの衣を引き裂き、長く一つに束ねて、駿河の体を己の体に縛り付ける用意をする。

「これで、私の身と貴方の身を繋いで走るから。だからっ…駿河?」

布から目を上げ、駿河を見る。

閉じられた赤い瞳が、こちらを見返す事はなかった。



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