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竜の待つ都  作者: 紫月 京
第四章 囚われた妄執と崩壊

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第五十九話


『我が身の解放に手を尽くしてくれた事、礼を言うぞ、巫女よ』


その場に立ち尽くした、五十鈴以外の全員が、バッと空を見上げた。

晴天に、悠々と浮かんでいる、銀色の竜神。

「…今の、竜神様のお声か…?」

呟いた陽向に、五十鈴も驚く。

大気を震わせて響いたその厳かな声は、五十鈴以外の者たちにも聞こえたらしい。

黒ずくめの兵と戦っていた楓も、泣きわめく響の側で身構える玄カガチも、そして、儀式を執り行おうとしていた者たちも皆、呆然と竜神の姿を見ていた。

その場に跪き、五十鈴は深く頭を垂れた。

「ご無事の解放をお喜び申し上げます、竜神様」

その名の通り、鈴を転がすような声で、五十鈴が答える。隣に、陽向も膝をついた。


『礼代わりに、ソレを外してやろう』


前足の先で、竜神がその大きく鋭い爪を軽く振った。

カシャン、と軽い音を立てて、五十鈴の首に巻き付いていた黒い花の首飾りが外れた。地に落ちる。

「…!ありがとうございます」

あれほど必死に外そうとしていた、だが、どうやっても外せなかった、五十鈴の思考を縛っていた首飾りが、地面で黒く光っていた。

頭がはっきりしてくる。


『我は、人の世の諍いに()いた。煩わしい人の世を離れ、天界へと還る』


竜神の言葉に、陽向が思わずといった様子で顔を上げた。

その表情には、【神楽京】の守り神が都を見捨てる事への絶望が浮かんでいる。

「私どもを、お見捨てになりますか…」

神の決定に、異を唱えるような不遜な事はできない。

だが、声が震えるのは、どうしようもなかった。


『置き土産はしてやろう』


告げると同時に、竜神がその長大な体をぶるっと一振りした。

キラリ、と光った何かが、落ちてくる。

五十鈴の手の平の上に乗ったそれは、白銀に輝く竜の鱗だった。

「これは…?」


『それは、逆鱗。我が力の源。滝壺に沈めよ。人の世の、枯れない水源になろう』


「それでは、竜神様のお力が…っ」


『鱗はまた生え変わる。天界に戻る我には、些細な事』


五十鈴は立ち上がり、竜神の逆鱗という尊き物を大切に胸に抱え、滝壺へと進んだ。

その隣を守るように、陽向が歩く。

先程、響の胸から剥がした石を沈めた滝壺の側に、膝をつく。

底が透けて見えそうなほど透明な水に、手の平からそっと、鱗を落とす。

水の中、輝きを増したかのような鱗が、ゆっくりと沈んでいった。

ふぅ、と息を吐き、竜神の姿を仰ぎ見る。

「感謝いたします、竜神様。これで、都の水不足も解消されましょう」


『元は我の油断が招いた事だ。気にする事はない』


バツが悪そうな竜神の言葉に小首を傾げ、五十鈴は微笑んだ。



ゴオッ、と風の音を立てて、銀色の竜が空へと上り始めた。

遥かな空の彼方、神が棲まう世界へと、還っていくのだろう。

その雄大な姿を見送って一息ついた瞬間、祭壇の方から悲鳴が響き渡った。



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