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竜の待つ都  作者: 紫月 京
第四章 囚われた妄執と崩壊

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第五十一話


向かってくる敵を薙ぎ払いながら、朱塗りの鳥居から駆け続け、山頂に上る火の手を目指した。

赤く燃える松明と、禍々しい黒い炎が揺らめいているのがここからでも見える。

焦燥感を抑え、陽向は駆ける。

額に浮かぶ汗を拭い、頬に飛んだ敵の返り血をそのままに、黒く染められた空間へと足を踏み入れた。

竜神の住処とされる滝壺の前に、黒曜石の御神座が置かれ、神官と見られる老人たちが祝詞を唱えている。

向き合うように設えられた黒い祭壇で、横たえられた五十鈴に覆いかぶさる、黒髪の青年。


「五十鈴!!」

思わず、叫んでいた。

これまで素性を隠して仮の名を呼んできたことなど、頭から吹き飛んでいた。

目の前で、見知らぬ男に奪われそうになっている、五十鈴の薄桃色の唇。

頭の中が真っ白になった。

「水刃!」

無意識に呪を唱えていた。

右手から放たれた水の刃が、祭壇の男へと届くかに見えた刹那、黒々とした障壁が現れた。

湊が扱っていたものよりも、深い黒色の障壁に、陽向の放った術が吸い込まれていく。

こちらを向いた、漆黒の、瞳。

「やぁ、来てくれたんだね」

五十鈴の体の横で手をつき己の身を支えながら、視線だけを陽向に向ける。

見覚えのないはずの男が、まるで旧知の友を迎えたように微笑んだ。

「ちょうどよかったよ。これから、僕たちの大切な大切な儀式が始まるんだ。君たちにも、そこで見ていてもらわないと」

いっそ無邪気と言えるほどの、あどけない口調。

大剣を構え駆け出そうとした陽向の前に、またもや黒ずくめの兵士たちが立ち塞がった。

「どけっ!」

大きく横に大剣を振り払い、兵たちを斬り伏せる。

荒い呼吸で走ってきた楓が、その勢いのままに風刃を放った。

「水壁!」

楓の前に水壁を盾のように発生させ、黒ずくめの兵士と斬り結びながら、祭壇の寝台に横たわる五十鈴へと声を届かせようとする。

「五十鈴!」

ピクリ、と五十鈴の指が動いたように見えた。だが、他に何の反応も見せない。焦燥感が酷くなる。

五十鈴の体の上で、黒装束の青年が小さく笑った。

「ねぇ、僕の鈴ちゃんの名前を、気安く呼ばないでくれる?」

何の感情もないような瞳で、こちらを向く青年に、やはり見覚えはないはずだった。

なのに、懐かしい。

この感覚は何だ?いや、それよりも…。

男が五十鈴を「僕の鈴ちゃん」と呼んだ事が、不愉快で仕方なかった。

「水の君!考え事をしている場合じゃないわよっ」

二振りの短剣で敵の首筋を斬りつけながら、楓が叫んだ。

ハッとして、陽向は頭を振る。

「ここは俺たちで何とかするから、お姫さんのところへ!」

苦無で応戦している玄カガチも、余裕のない声を上げた。

二人が作ってくれた隙間から、大剣を構えたまま陽向が走り始める。

「ふーん。お友達と一緒なのかぁ。いいね」

ふふっと笑い、青年が五十鈴の顔に自分の唇を近づけた。

「でも、僕には鈴ちゃんがいるから」

そして、走り寄ろうとする陽向の目の前で、五十鈴の唇に青年の色のない唇が重ねられた。



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